おきな音がして、おおきな叫び声も聞こえた。
ビックリして振り向くと、誰もいない廊下で忍足くんが白いプリントを廊下中にぶちまけて呆然と座り込んでいた。





「・・・な、何しとるん?」

「お、俺もようわからん・・・」

「もしかして、転んだん?」

「・・・おん」





とりあえず忍足くんの元まで行き手を差し出すと、彼は恥ずかしそうに笑いながら「ありがとうな」と言って私の手を取った。
よいしょという掛け声とともに立ち上がりもう一度「ありがとう」と言う彼に首を振る。





「あー、ほんまやってもうたわ・・・」

「すごい量散らばっとるね・・・」





忍足くんが顔を顰めて床を見る。
廊下に散らばるプリントの量はなかなかのものだった。
1人で集めるのは大変だろうな・・・。
そう思って私はしゃがんでプリントを一枚一枚拾っていると、 忍足くんもハッとしたようにしゃがんで慌ててプリントをかき集め出す。
・・・すごいぐちゃぐちゃになってるけど。





「あの、後ろの紙折れとるけど大丈夫?」

「え?・・・うわ!やってもうた!」





私の指摘にあわあわと後ろの紙だけを取り出し伸ばそうとした忍足くんを見て、私はその瞬間すごく嫌な予感がした。
伸ばすのなら空中ではなく床に置いて伸ばした方がいいのでは、と指先に力を込めている忍足くんに言おうとしたら、ビリッと嫌な音が聞こえ、そして、





「あ、あー!!」

「あー・・・」





プリントの折り目が直るどころか真っ二つに裂かれる。
忍足くんが眉間に皺を寄せて「なんでや・・・」と呟いているけど、いや、プリントの端と端を摘んで両側から思いっきり引っ張ったらそりゃあ裂けるでしょう。
あまりのお馬鹿さん加減に笑いがこみ上げる。
口元に手をやり笑いを隠していると忍足くんにジト目で見られた。





「そない肩震わすまで笑わんでもええやろ」

「せ、せやか、てっ・・・っ、普通にわかるやん・・・ふふっ!」

「早よ折り目直したろ思てたからしゃあないやん!」





「これもうポケットにいれてあとで捨てるわ」と言って裂かれたプリントをくしゃくしゃにしてポケットにねじ込む忍足くんにまた私は少し笑ってしまう。
忍足くんは恥ずかしそうに頭をかいてから、今度は先程よりかは丁寧にプリントを集めて角をそろえる。
じっと見ていると、何かを思い出したかのように忍足くんが声をあげた。





「?どうかしたん?」

「そういやこない時間まで何しとったん?」

「私?図書委員の仕事してたん」

「おお、なんや俺と一緒やん!」

「え?忍足くんは図書委員とちゃうやん」

「そこちゃうわ!委員会でこない時間まで学校におること!」

「ああ、そこか!」

「天然か!」





えー?そうかなぁ?
今のは忍足くんの言い方が悪かったと思うんだけど。
うーんと首を傾げれば、忍足くんが「やっぱ天然や!」と面白そうに笑うので、まあなんでもいいか。
自分の持っている数枚のプリントも忍足くんに渡して立ち上がると、タイミングよく最終下校のチャイムが廊下に響渡った。





「うわ、あかん・・・部活早よ行かな・・・!」

「それどこに持ってくプリントなん?部活あるなら私が持って行こか?」

「放送委員の先生になんやけど、そんなん悪いから俺がちゃんと持って行くわ。色々ありがとうな!」

「ううん、そんな・・・私なんもしとらんし・・・」

「してくれたやん。プリント拾うの手伝ってくれたやろ?」





プリントを片手にニカッと笑った忍足くんに私の体温が僅かに上昇する。
ドキドキと胸の内から聞こえる音に恥ずかしくなって意味もなく前髪をいじってしまった。
忍足くんはというと「あの先生なー俺のことパシリに使いすぎやねん!」とケラケラ笑っている。
・・・なんだかなぁ。
恥ずかしくなってた自分が恥ずかしい感じなってきた。
ふう、と息をついて未だケラケラ笑っている忍足くんに声をかける。





「忍足くん部活あるんやろ?早よせんと怒られてまうんやない?」

「あ!ほんまや!」

「私もそろそろ帰らんと・・・」

「せやな・・・ほんまは送れたらええねんけど、ごめんな。少し日は伸びた言うても気ぃつけて帰るんやで?」

「・・・うん、ありがとうね。忍足くんは部活頑張ってな」





「おん!ほなまた明日ー!」そう言って私とは反対方向の廊下を忍足くんは駆け出す。
そんな彼の背中に「走ったらまた転ぶでー」と声をかけようとした直後、彼は私の数十メートル先で見事にすっ転んだ。
先程集めたばかりのプリントが宙に舞い、忍足くんに降りかかり、廊下に散らばる。
あーあ・・・。
心の中で呟いた言葉はもしかしたら口に出ていたのかもしれない。
こちらを振り返った彼が真っ赤な顔で私を見た。
そして私は笑いながら彼に駆け寄って、また手を差し出す・・・・・・冒頭に戻るとはまさにこのことだろう。




(バカだなぁ・・・でも、好きなんだよなぁ)