しっかりせぇや!死んだらあかん!!
普通に歩道橋から行き交う車をぼーっと眺めていた。
何かを考えていたわけではなく、本当にただの気まぐれで見ていた。
そしたら突如そんな言葉が聞こえて、怖いなぁ誰かなんかやってるの?と思い声がした方に顔を向けると、知らないお兄さんが強張った顔で私を見ていた。
ん?と思ったら、そのお兄さんはズンズンとこちらへ近付いてくる。ガシリと肩を掴まれる。真剣な目で見られる。
え?え?え?
困惑で何も言えない私にお兄さんが「命を粗末にしたらあかん!」と顔を強張らせて言った。
・・・・・・え?
それが、私と忍足さんとの出会いだ。
あの日、彼は私が自殺しようとしている風に見えてしまったらしく慌てて止めに入りにきたらしい。
残念ながら私は車を眺めてただけというかボーっとしてただけなんですけどね。
彼は私の困惑振りから勘違いだとわかると恥ずかしそうに笑いながら謝り、 勘違いさせるような行動もしたらあかんやろと何故か私も悪いということになり、 何故かその日こんなところじゃとなり、何故かその日喫茶店に入り何時間も語らい、何故かその日メアドも交換して、 何故かその日以降もちょくちょく会って話すような関係になった。
ちなみに忍足さんは私と同い年ということが判明したが、私はいまだに彼に対して忍足さん呼びだし敬語だ。
会うたびにそれに文句を言われるが定着してしまったものは仕方ないから諦めて欲しい。
関東人はもっとフレンドリーになるべきとかも言われたけど、私がお堅いだけだからホントに気にしないでいただきたい。
友人にも「あんた真面目で堅すぎ」と何回も言われた。
普通にしているつもりなんですけどねぇ。
まぁでも私自身フレンドリーでないのは確かだ。
大阪に転勤してきて一ヶ月、会社の人は会社の人って感じで友人はできていない。
仕事中は別に気にならないのだが、さすがにお昼一人ぼっちは寂しくなる。
この歳になって友人関係で悩むなんて思わなかった・・・、そう忍足さんに愚痴ると「俺がおるやん」なんて恥ずかしげもなく言うもんだからこちらが照れた。
ていうかそういう答えを求めたんじゃないんだけど、 つい口が滑りそうになったが電話口でキャンキャン言われるのは好きではないので寸前のところで飲み込んだ。
そして今日、忍足さんと飲みに行く日。
いつもより仕事を早く終わらせて、トイレで化粧直しして、意気揚々と待ち合わせ場所に向かう。
忍足さんは多分遅れてくる。
私は忍足さんが何の仕事をしているか知らない、けど、忙しいことは知っている。
ちょっと不規則な生活をしているのもわかる、っていうのはメールの返信時間でだけど。
でも、その忙しい中でもメールの返信をちゃんとしてくれたり、こうやってたまに私に会ってくれたりしてくれる、と、思うと、・・・嬉しい。
コートから携帯を取り出して時間と連絡がきてないか確認する。
時間は待ち合わせ5分前、連絡はきてない。
予想は10分遅れぐらいかなぁ。
携帯をコートのポケットに戻して白い息を吐き出すと、「おーい!」と耳に馴染んだ大きな声が聞こえた。
きょろきょろ見渡すと手を振り回してこちらに向かってくる人が見えて、うわっと小さく声をもらしてしまう。
「おー!今日は間に合ったで!」
「・・・忍足さん」
「ん?なんや?セーフやろ?」
なになに?と私が眉間に皺を寄せている理由がわからないらしく首を傾げている。
忍足さん・・・ここ駅前ですよ、人がめっちゃいるんですよ、そんな中いい大人がおっきな声で手を振り回して走ってきて、めっちゃ・・・めっちゃ目立ってるじゃないですか、恥ずかしい!
慣れないすごい人の視線を浴びて、顔が熱くなる。
この人は人の視線とかそういの気にしないのだろうか・・・。
彼は全くわけがわからないという顔で私の名前を呼ぶので、とりあえず「さぁ行きますよ」と声をかけてずんずんと飲み屋へと進む。
後ろでまた馬鹿でかい声で私の名前を呼ぶもんだから、すれ違う人にもめっちゃ見られた。
私は振り返り「忍足さんうるさいです!」と言うと忍足さんがさらに大きな声で「どこがうるさいねん!」と返してくるもんだから、ラチがあかない。
周りの人がクスクスと笑う声が聞こえて、ああまた目立ってしまったとさらに顔が熱くなるのを感じた。
しかしそれよりも「あのカップルかわいいなぁ」なんて言葉が私の耳に入ってきて思わず「え!!」と声をあげると、 いつの間にか前に立っていた忍足さんが「なんや!!」と言うもんだから反射的に叩いてしまった。
「なにすんねん!いたっ!」
「忍足さんが声大きいから!」
「普通やろ!」
「ほらおっきい!」
「お前かておっきいやん!」
「それは忍足さんが!」
「俺か!」
「そうです!」
「どこがや!」
「もうっ!」
「いたっ!」
本当にラチがあかない!
バシンと腕を叩いて、その腕を掴んで早く飲み屋に逃げ込もうと足を進める。
こんな駅前でいい大人が二人でなにやってんだか!
後ろでワーワーなんか言ってるけどもうシカトだ、知らない!
「なぁなんか怒ってるん?」
「知らない!」
「なんやそれ!」
馬鹿みたいな子供のような言い合いをしながらの早歩き。
飲み屋につく頃には二人ともぜぇぜぇと息があがっていた。
(子供みたいだけど・・・きっと、好きなんだよなぁ)