たすけてくれー!!
謙也がそう言いながら私の部屋に飛び込んできよった。
ノックぐらいせぇや、ここは乙女の部屋やで。
「どこに乙女がおんねん」
「おい、頬を差し出せ」
「すんません」
私が拳をかざせば即座に土下座をする謙也。
ほなら最初からそないな口利くなボケ。
ベッドの上に寝転がって漫画を読んでいた体勢を正して謙也に向き直る。
「んで、なんやねん」
「侑士が酷いねん」
「いつもやん」
「せやった」
幼なじみの謙也の従兄弟の侑士は性格悪いし頭ええからな、アイツ質悪いねん。
かたや謙也は性格いいし頭悪いからな、格好のエサやねんな。
ふむふむ、そう思うと謙也が可哀想になり、ふわふわの頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めた。
お前は犬か。
「で、侑士がなんやねん」
「喧嘩したん」
「またか」
「玉子焼きは砂糖かしょうゆかで」
「くだらな」
「味付けは大事やろ!」
内容を聞いてみればなんてことない内容。
こいつら二人の喧嘩はほんまにくだらない。
この前はチョコチップクッキーかチョコクッキーかで言い合ってた・・・今思い出してもくだらんわ、アホすぎやろ。
こんなくだらないことで東京から大阪、大阪から東京に電話をかけているのだろうか、馬鹿か。
そんでもって、そんな二人のくだらない喧嘩にいつも巻き込まれるのが私、くだらん。
喧嘩のたび謙也はこうして私の部屋で愚痴に来たり、たまに侑士からは愚痴電話飛んでくる。
あと謙也にいたってはどうすれば侑士をギャフンと言わせられるかを相談されるわ。
そんなん自分で考えろボケってなるけど、謙也が馬鹿みたいに私を頼ってくるからついつい甘やかしてしまう・・・あかんほんまにコイツ犬みたいやねんな・・・。
「もうええやん、今度侑士に会うときに朝昼晩玉子焼き作ったれ」
「それええわ!アイツ東京に染まりすぎとんねん!ここいらで大阪の味きちんと思い出せなあかんな・・・!」
たかが玉子焼きでなして大阪の味にまでいくねん、そこは家庭の味ちゃうんか。
髪の毛同様謙也の頭の中もふわふわしすぎな気するわ。
はぁと溜息をついてベッドにほっぽってある漫画を手に取って続きを読み始める。
謙也はベッドを背もたれ代わりに座り込み、声に出しながら侑士へのメールを打ち始めた。・・・うっさい。
ベッドから声を出すたんびにふわふわ揺れる金髪が見えるので、再度手を伸ばしてわしわしとかき回す。
「うおっ」と可愛くない声を出して振り返り、私を見てくる目はきょとんとしている。
「なに」
「こっちがなにや・・・ちゅうかお前、俺の頭触るの好きやな」
「あー・・・せやな」
それだけ言って私はまた漫画に視線を戻し、謙也も携帯に視線を戻す。
ぶつぶつと読みながら携帯を打つ謙也と笑いもせず無言で漫画を読む私。
でもまた私の視界の端に揺れる金髪を見ると、どうしても手を伸ばしてしまう。
触り心地とかそういうのもあんねんけど、一番の理由は・・・それはきっと謙也だから触れてしまうんだろうな、と他人事のように思った。
(つい構っちゃう・・・これ、好きなんだよなぁ)