りそうのタイプはですね、可愛い人です。
そう言うと謙也先輩は眉間に皺を寄せた。
「可愛い人って・・・年下か・・・」うーんと唸る。
可愛い人、それが年下とは限らない。
むしろ、何故年下に繋がるのかが疑問だ。
私的に可愛いと思ってるのは謙也先輩なのに。
部活が終わり部員達が着替え終わるのを部室外のベンチで座って待っていると、いち早く着替え終えた謙也先輩が出てきた。
謙也先輩は私の隣に座ったかと思いきや、「あ!すまん、汗臭かったわ!」と言って即座に私から離れる。
でも私は全く気にしない、というか運動部の中にいるから今更だし、私もマネジャー業で汗をかいていたから、 謙也先輩に一言「気になりませんよ」とだけ告げた。
それを聞いて安心したのか「そうかぁ・・・ほな座るわ・・・」と恥ずかしそうにしながらも私の隣にちょこんと座る。
・・・年上にこんなこと思うのはアレかもだが、やはり謙也先輩は可愛い人だと思う。
もちろんかっこいいところもたくさんある。
面倒見だっていいし、たまにドジするけど頼れるお兄さん系だ。
いじられやすくてみんなの中心にいることだって多い。
わかり辛いけどあのキツイ性格の財前くんだって謙也先輩に懐いてる。
謙也先輩がみんなと楽しそうに笑う顔は他の誰よりも眩しすぎて、私は目を細めてしまう。
たまにユウジ先輩と小春ちゃん先輩にはさまれてげんなりしたり、白石先輩のフォローで二次災害を起こしたり、金ちゃんと騒ぎすぎて銀先輩に怒られたり、 小石川先輩と部室に飾らなきゃいけなくなったこけしの配置を変にこだわりだしたり、財前くんに口で勝てなくていびられまくって半泣きになったり・・・ 謙也先輩のころころ変わる表情に私はいつも癒されているのだ。
ふと、昨日はオサム先生に一発ギャグをやれと言われて盛大に滑っていたなぁと思い出して口角があがる。
すると「理想のタイプなぁ」、呟くように謙也先輩が口に出した。
私がすかさず謙也先輩に「謙也先輩の理想のタイプはどんなタイプなんですか?」と聞く。
目でわかるくらい動揺する謙也先輩。
「せ、せやなぁ・・・えーっと、」目を泳がせて顔を赤らめて腕を組んだり解いたり頭をかいたり俯いたり、忙しなくパタパタ動く謙也先輩。
たっぷり5分くらい悩んで「・・・年下」とポツリと呟いた。
・・・なんと抽象的な。
謙也先輩の答えに何も言えずにいると、謙也先輩が慌てたように「ロリコンちゃうで!」と言う。
「年下というのはいくつぐらいですか?」と切り返す私に、謙也先輩はしどろもどろになりながら「一個下・・・」と答えた。
思わず笑みが浮かぶ。
チラチラと赤い顔で見られてそんな風に言われたら自惚れてしまいますよ、謙也先輩。
もう少しつつこうかなと口を開きかけたところ、部室から聞こえる声が大きくなってきたので大人しく他の部員が出てくるのを待つ事にした。
だけど、
「可愛い、なぁ」
深刻そうな声で謙也先輩が言ってるのが面白くて私は我慢できず声をだして笑った。
それに心外だとばかりにムッとした表情を見せる謙也先輩は本当に可愛くて仕方がない。
私の笑い声がなかなか大きかったようで、なんだなんだという顔をしながらようやく部室からぞろぞろと部員達が出てきた。
謙也先輩も私がなんで笑ってるかわからなくて首を傾げると、集まった部員達に何故かどつかれ始める。
その光景もおかしくて私はさらに笑った。
「笑いすぎや!」と言いながら集団の中心にいた謙也先輩も笑うから、私はキュンと胸が高鳴る。
謙也先輩のどの表情も好きだけど、やっぱり笑った顔が一番可愛い。
だけど私がそう思っていることは・・・まだ、教えてあげない。
(鈍いなぁ・・・そこも、好きなんだよなぁ)