気付いたら、謙也を見上げる私がいた。













(2)













小学校6年生までは一緒の身長だった。
むしろ私のが少し高いくらいだった。
せやけど中学に入った途端、謙也は急に身長が伸び、私なんてあっちゅう間に追い越して、今や見上げるほどである。









「なぁ診断見せてぇな」

「あー?別にええけど・・・も見せてくれるん?」

「あ?見せるわけないやろ」

「なんでや!」









きゃんきゃんわめく謙也の手から先日行った健康診断の結果表を奪う。
さっと目を通して私のと比べると・・・去年から何も変わらない私の診断表とはどこもかしこも違った。



(あー・・・また差ができてもうたわ)



身長の欄には去年よりはるかに増えた数字が書かれていた。
男と女の違いをこうして数字で嫌と言うほど突きつけられる。
あんなにも一緒だった私達は今は全く違うものと化していた。









「なぁ!俺にもの診断見せてぇな!俺の見といて見せへんとかないやろ!」

「やっかましいなぁ・・・謙也はそんなんだからモテへんのや」

「あぁ?!今それ関係ないやろ!」

「お前しつこいねーん」

「ウグッ」









まあ言うても、謙也と比べたら私のがしつこいけどな。という言葉を飲み込んで、変にへこたれてる謙也に診断書を押し付け逃げるように女友達の輪に入りに行く。
きゃっきゃっと診断についてみんなが話している。
それを近くにいるのにどこか遠くのように感じながら話を聞いてる振りして聞き流した。



たまに、すごく嫌になる。
謙也と違う私がいるのが嫌だ。
私と謙也、性別だって違うしましてや血が繋がっているわけもない。
そら違うのは当然のこと。




(せやけど・・・今までずっと一緒にいて、これからも謙也と同じやって思っとったん・・・)



それが・・・どんどん謙也と私は離れていく。
昔は全然気になんなかった性別も、今じゃ鬱陶しいことこの上ない。
まっそんなん言うても仕方ない、わかってるはずなのに。



(こないな風に割り切れんとこ私はまだまだガキやなー)



自分のどうしようもない名前もわからない我侭と感情に苦笑が漏れた。
ふと謙也の笑い声が耳に届く。
おっきくて喧しい声。
そして、



(昔より低なった声)



女の子みたいな高い声は変声期を向かえなくなり男性特有の低音になり、最初は誰が喋ってるかわからなかったほどだ。
変わっていく、なにもかもが。
声がした方、謙也の姿を探す。
そうして私の目が捉えたのは白石と楽しそうに喋っている今時の男子中学生の姿をした謙也だ。



(あの空間・・・嫌いやな)



男子特有の空間、女子が割り込めない雰囲気、それが嫌で嫌いだった。
その中にいる謙也も嫌だった。
いつまでも一緒にいれないって言われるみたいで、とても寂しくなる。
言いようもない寂しさに胸が締め付けられつつじっと見つめていると、不意に謙也が私に気付く。
まさか気付くとは思ってなかった私は目をそらすこともできなかった。
しばし見つめうこと数秒、謙也は不思議そうに目を丸くしてそれからニッと笑いピースをしてくる。




(なんやあのツラ・・・馬鹿丸出しやん)



そんな謙也の馬鹿面を見て吹き出しそうになるのを堪え、勢い良く中指を立てる。
すると言わずもがなその行動に謙也は怒ったように頬を膨らまし声を出そうとしていたが、私は輪の中の女子にいきなり話を振られたのでそれを無視し女子達の方に向き直った。
謙也と些細な下らないやり取りをしている時は、私の知ってる『昔からの謙也』で密かに安心しているのをアイツは知らんのやろな、と頭の隅で考えながら私は笑った。



















でも、いつからか、謙也の笑顔を真っ向から見れなくなった私がいた。



2.無意識じゃいられない