俺達には壁なんてなかった。
(3)
何でもかんでも話せる奴、それはだった。
どんな下らない事でもに話せば、は笑って俺の話を聞いてくれる。
俺はそれが嬉しくて、と一緒にいない時に起きた出来事は全部に話していた。
もちろんも俺にたくさん話をしてくる。
(それが好きで・・・ちょっと嫌やった)
俺の知らないがいるのが嫌になる。
のことは全部知っていないと嫌だなんてどんな我侭だと思った。
けど、しょうがない。
俺たちは何をするにもどこに行くのもいつも一緒だったんだ。
だからそう思うのは仕方ないことだ、そう思っていた。
でもな・・・それは違うんだということがわかった。
これは、ただの自分勝手な押し付けの独占欲だ。
「聞いたでー・・・謙也、1組の女子に告られたんやってぇ?」
「なっ・・・!そ、それお前どこで聞いて・・・!」
「へへっ白石くんがさっきな教えてくれたんー」
には色々なことを話していたが、こういう関連・・・つまり恋愛については話したことはない。
俺がいかにの恋愛対象に入っていないのかを気付かされ、傷つくのが嫌で話さなかった。
だから今回の話もするつもりはなかったのに・・・親友の裏切りによっていとも簡単にバレた。
しかし・・・今はそんなことよりも気になったことがある。
が白石とそういう話をするほど仲が良かったのかということが気になった。
(・・・もし、が白石のこと気にしてたら、どないしよ)
急に駆り立てられた不安に俺は胸が苦しくなった。
でもそれを言葉に出すことはできない。
そんなことを言って、と変な空気になったり、距離を取られてしまったら俺はどうしたいいかわからなくなる。
はみんなに好かれてて、みんなの太陽みたいな奴だ。
(俺とは、違う)
俺が誰よりもと近い距離にいられるのは、『幼なじみ』という枠にいるからだ。
「なーなー結局どないしたん?」
「なにがや」
「付き合うん?」
残酷なことを言うなと、純粋に思った。
(俺は今どんな顔をしとるんやろ)
ふとそんなことを他人事のように考えながら出てきた言葉は、自分でも誰が言ったのかわからない程の冷たさがあった。
「そんなんに関係ないやろ」
「え・・・」
ハッとした時には遅く、悲しそうな顔をしたが俺の目の前にいた。
自分でも何を言ってしまったんだろうと焦る。
(なぁ、ちゃうねん、あんなこと言いたかったわけやなくて、)
ただ、にはそんなことをそんな軽く聞いてほしくなくて、言いたくもなくて、
でもそれは喉に詰まって出てこない。
悲しそうな顔は一瞬で「そやな、そこまでは関係あらへんよな」とは困ったように笑って言った。
(なに、しとんのやろ俺・・・)
こんなにも近くにいるのに、なんで俺はに手を伸ばせないんだろう。
昔はどうしてた?
俺はどう触れていた?
とは壁なんてなかった。
一緒だと思ってたんだ。
だから怖くなかった。話すことも触れることもなにもかも、にだったら怖くなかった。
(そのはずやのに・・・今はこの関係が怖い)
変わっていく、俺と。
身体だけじゃなく心もどんどん変わっていく、離れていく。
俺だけが、
(に対する気持ちがどんどんと、)
「私、そろそろ教室戻るわ」
「お、おん」
「・・・今日は見たいドラマあんねん。せやから先帰っとるな」
「・・・おん」
「ほな」
気付けばもう授業のチャイムが鳴りそうな時間だった。
は違うクラスなので急いで自分の教室に戻っていく。
結局何もに言えぬまま終わった
今日最後の授業の時間、これが終われば部活で、との帰り道がいつもだ。
けど今日は違う。
帰り道には居らん。
(あー・・・最悪や)
もともと憂鬱な授業がもっと憂鬱になり、俺はシャーペンを投げ出した。
白石の咎めるような視線を感じたがそっちを見る気にもなれない。
むしろ今は白石を見たくなかった。
(友達に・・・勝手に劣等感抱いて嫉妬して本間馬鹿やな俺)
ごめん、誰に向けたのかもわからない、声にならない言葉を吐き出し俺はゆっくりと目を閉じた。
近すぎて触れられなくなっていた。
3.埋めようのないゼロセンチ