恋人がドSなんですが
四天宝寺高校2年1組、どうもです。
私のステータスは、いたって普通。
二つ名とかそんなもんもつかへん普通の女子高生です。
ただ、ひょんなことからそのステータスに、一つずば抜けて・・・おかしなものが付属されてます。
「おい、なにしとんねん。朝やで」
「・・・おん、そやな、なしてここに居るん?」
「おはよう」
「おはようございます・・・いや、で、なしてここに居るん・・・」
「ええ朝や」
「シカトですか・・・」
「豚みたいな顔を早よう人間にしてくれへん?」
「ぶた・・・本間なにしに来たん・・・」
彼、失礼極まりないこの男は四天宝寺高2年2組、この学校に通うものなら誰もで知っているだろう男、白石蔵ノ介である。
中学校からテニスをやっており部長経験あり、高校でもテニス部に入りさらにはまたまた部長になり、聖書であり、イケメンであり、秀才であり、八方美人であり、なんでもそつなくこなす男。
そんな男が年頃の娘のベッドに上がり、さらには圧し掛かってきてる。
こういう時一人暮らしを始めて本当に良かったと思う・・・こんな場面を両親には絶対に見られたくない。
いや、その前に、さすがに実家だったらこんなことはしな・・・・・・・・・・・いよな、うん。
だけども今は一人暮らしなわけで親に見られるとかそんなことに恐怖することはない!
(実を言うと、親に彼氏の存在をまだ言っていなかったりする。なんだか恥ずかしくて言えていない)
けど今の恐怖は、合鍵とかあげてないのにこの男はうちの家の合鍵を所持してることだ。
以前そのことを聞いたら「ピンポン押して出てくるの待つとか時間の無駄やろ。せやから合鍵や」と全く答えになっていない答えをもらった。
しかしそんなことは今は置いといて、なんでこんなスーパー野郎が私の彼氏なのかは私が一番わからん。
周りから見たら本当に羨ましい限りの彼氏だろう。
それ故に、私は本当に本当に本当に、よくわからない。
そんなスーパー野郎から告白されたなんて、誰が信じられるのだろう・・・私ですらあれは嘘だろとか思っている。
でも・・・私は確かに告白された。
あれは確か中学2年の終わり・・・、―――――――――――
『君、さんやな?』
『え・・・あ、はい。そうですけど』
『毎日ここ掃除してるんは君?』
『はい、私ですけど・・・』
『・・・、なぁ、俺誰だかわかる?』
『え、白石くん』
『ほなら俺がタメなのもわかるわな?』
『あ、はい』
『なして敬語やねん』
『はい?』
『その距離置かれてるみたいな感じ嫌やからやめてな。あ、それから俺のことは白石くんやのうて蔵ノ介と呼ぶんやで?』
『えっ、いやっ、何言っとるんかようわか『今のでわからへんかったら、の国語力は壊滅的やな』
『はぁ!?ちゅーか名前・・・!』
『のこと気に入ってもうたん。俺と付き合うてなーよろしゅう』
『は、ぁ!!?』
『あ、付き合うて言うてもどっか一緒に行くとかやないで?男女の仲をよろしゅうっちゅうこっちゃ』
――――――――こうして・・・嘘だろ?みたいな感じで唐突に始まったお付き合い。
私は一切「はい」と答えた覚えがないが付き合ってます。
もうかれこれ3年くらいになります。
・・・そして、皆さんはお気づきやろか?
いや、冒頭からおかしかったことに皆さんは気付いていたでしょう。
中学校からテニスをやっており部長経験あり、高校でもテニス部に入りさらにはまたまた部長になり、聖書であり、イケメンであり、秀才であり、八方美人であり、なんでもそつなくこなす男、白石蔵ノ介。
誰にでも優しく紳士な振る舞いで女の子にキャーキャー言われとるが実際は・・・S越したドS。
外面は誰もが知っている紳士的振る舞いやのに、私に対しては・・・めっちゃ酷い。
何が酷いって・・・とにかく他の人との扱いの差がちゃうねん。
彼女の私に対して「豚」「不細工」「のろま」「馬鹿」などなど・・・悪口のオンパレードをかましてくる。
他の女子には一切・・・いいいいいっさいそんなこと言わへんのに・・・!!!
・・・まぁだけども「蔵ノ介はドSで聖書なんて呼ばれるものとはかけ離れた存在なんや!」と言ったって誰も信じてはくれない。
なんたって、蔵ノ介は聖書と呼ばれる男・・・みんな彼の言葉を信用するからだ。
私なんてただの一般人A、または村人B・・・そこら辺にいるただのモブ。
そんな私の言葉なんて誰も信じてくれない・・・世の中不条理・・・。
とにかく、世間一般から見た彼はかなりのスーパーボーイで、平凡ガールな私が付き合えているのは奇跡とも言えるだろう。
そう、周りから見たら私はきっと、なんちゅうラッキーガールやって感じやろうな。
と、思いふけっていると蔵ノ介が機嫌悪そうに私の名前を呼んだ。
こいつは私に考える時間すら与えてくれないらしい・・・。
「ほれ、何ボーっとしとんねん。早よ支度せぇ」
「はいはい、わかってますよ・・・ってまだ5時やん・・・!!」
「7時から朝練やねん」
「いやいやいや私は朝練なんてあらへんけど!」
「俺が朝練やっとんのにだけ寝てるとか・・・考えるだけで腹立つわ」
「えぇ!?」
とんでもなく自分勝手な理由で私を起こしてきた男に早朝から頭痛がした。
5時って・・・まだ薄暗いやん・・・。
だけどもこれもいつものことで、蔵ノ介はいつだって私に対して意地悪で横暴で横柄なことしかせぇへん。
そうです、こいつ最低なんです。
・・・本間よく耐えてるな私・・・。
ひょんなことから始まったお付き合いなのにすごいと思う・・・。
思い返せばなかなかのことをされていることに気付き、思わず乾いた笑いが漏れた。
それにすかさず「何一人で笑っとんねん・・・きしょいで」と言うてくる蔵ノ介くん・・・君はいつか報復されればええです。
とりあえずいつまでも寝起き姿でいることについて何か言われる前に布団から出る。
本当はあと2時間くらい寝れるんやけど・・・と口には出さず心の中でぼやいて、まずは顔を洗ってこようと思い洗面所へ向かう。
するとその後をついてくる蔵ノ介。
・・・今度はなんやねん。
「あのぉ・・・私今から顔洗ったり着替えよ思うとんのやけど・・・」
「したらええやん」
「いやしたらええやんって・・・見られたないねんけど・・・」
「なにを」
「着替えとか・・・」
「・・・ああ」
「おん、せやから、」
「・・・俺らもう付き合うて結構経つな」
「はあ・・・まあ・・・そうやね」
「そろそろやと思うねん」
「は?」
「そろそろ、大人な・・・そういうことしてもええとちゃうん?」
「・・・帰ってください」
「なんでや」
突然なにを言い始めたかと思えば・・・朝っぱらから本間にこの人なに言うてんの?!
ありえへんわ!!!
女子がキャーっと言いそうな満面の笑みを浮かばせているが、私とっては邪悪なものにしか見えない。
一緒に洗面所に入ってきた蔵ノ介をありったけの力で追い出してから顔を洗う。
背後で「このゴリラ」「どんだけ力あんねん」「押されたとこめっちゃ痛いわー」「ちゅうかええやん、ちょっとぐらい」などと文句が聞こえたが、知らんわ心を閉ざしているので聞こえません。
いつもよりは早く顔を洗い終えてスッキリした。
うん、少し気分もスッキリした気する・・・。
タオルに顔を埋めてはーっと息を吐き出し、しばしタオルのもふもふ感を味わう。
こんな些細なことにちっちゃな幸せを感じてしまう時点、私はどんだけ飢えとんのやろ・・・。
まぁ気持ちええんやから仕方あらへんよな!
へへと笑いを漏らせば、素早く蔵ノ介から本日二回目の「きしょい」が飛んできて上がってきたテンションがガタ落ちした音が聞こえた。
さすがに何か言い返さないと私の気も治まらないので、ガツンと・・・どうガツンと蔵ノ介がたじろくようなこと言ったろか・・・。
タオルを握り締め何かいい台詞はないかと思案中・・・・・・腰に違和感。
ん?っと思った時には違和感は痛みとなって私の・・・・・・、腰の肉に刺激を与えた。
「たぁ!?なっ、痛っ!!」
「お前太った?」
「!!!」
「掴まれて痛い肉って脂肪なんやで?知っとる?これデブの証やな」
「っ!!!」
唐突な行動からの、吐き出された蔵ノ介の言葉を聞き、「殺す」、その二文字が私の頭を瞬時によぎる。
そ、そら確かに・・・ちょ、ちょっと最近は食べすぎやなぁとか体重計乗ってないなぁとか運動してへんなぁとか・・・思っとったけど・・・そんな真っ向からドストレートに言わんでもええんとちゃうん?
私が怒りに震え黙っているのをいいことに蔵ノ介はなおも私の腰や腹の肉をふにふにと摘む。
「まさしく無駄な肉」とか呟いたのは、おい、お前聞こえてるからな。
楽しそうにリズミカルにつつくな、摘むな!!!
朝っぱら来て人を叩き起こしたと思えば人の肉で遊びやがって・・・!
怒りも爆発に達しようとした時、ふと・・・気付いてしまったことがあり急速に怒りがしぼしぼ沈んでいく・・・、これは・・・。
いつの間にかぴったりと私の背中には蔵ノ介の熱があり、耳元には少しの色気を含んだ蔵ノ介の声がダイレクトに響いて・・・めっちゃ恥ずかしい状況に立たされていることに気付く。
ち、近い・・・近すぎんねん・・・!
ぐわっと顔に熱が集まる。あつい!
だからと言ってこの私の心情を知られたら、蔵ノ介はもっと色々なことを仕掛けてくる・・・絶対に、だ(経験談)
な、なるべく悟られないように・・・かつ牽制をするには・・・と考えたところ、ふとこの前後輩の財前くんに言われたことを思い出した。
『いちいち反応してまうからあかんのやないっすか?』
あの時、なるほど・・・と私はとても納得した。
今こそ・・・それを行使すべき時じゃないだろうか・・・!
蔵ノ介がやってることに馬鹿みたいに反応しすぎる私も私なんや!
財前くん、君のおかげで今日は蔵ノ介の嫌がらせに勝てそうな気します・・・!
もう一度財前くんの言葉を思い出して動揺してた心を落ち着かせ、未だに嫌がらせのごとくぷにぷに私の肉で遊んでいる蔵ノ介へ振り向く。
・・・よ、予想以上に顔が近くて発狂しそうになったが、ぐっと堪える・・・。
ここで私が狼狽えては財前くんの有難い教えが無駄になってしまう!
財前くん・・・いや財前先生!私、やってみせます!!
きょとんと私のことを見つめている蔵ノ介に・・・私の、精一杯の笑顔を向けた。
アドバイス1
『何をされても笑顔で耐えたらええんとちゃいます?』
「・・・もっと摘めってことか?」
「ちゃうわ!!」
蔵ノ介の返しがそう来るとは思わず、つい笑顔を崩し突っ込んでしまった。
ああこれではダメダメ!!やり直し!リベンジ・・・!
財前先生、はまだめげません!
ということで、笑顔で「ま、まあ、摘みたいなら摘めばええやん・・・わ、私そないなことされても何とも思わんし!」と蔵ノ介に伝えたところ・・・、
「ほう・・・ええ心がけやな。せやったら思う存分、摘ませてもらうわ」
「!?」
なんと・・・実行したアドバイスの効果は全く見られず、止めてくれるどころか・・・結局家出るギリギリまで嫌がらせと言う名のセクハラをされ非常に大変な思いをしました!泣きそうです!
起訴!!!