恋人がドSなんですが







常日頃、私は彼氏に暴言を吐かれすぎだなと思いました。
普通のカップルって・・・どんな感じなんやろ。
甘い言葉を吐きあってるものじゃないんだろうか?
・・・いや、だからと言って私達も甘い言葉を吐きあいたいとかそういう願望は一切ないんだけども、ただ、暴言はないだろうということを言いたいわけで・・・。
とは言え、私と蔵ノ介はもう3年の付き合いです。
今更ねぇこんなこと言ってもねぇみたいな・・・そんな仲。
だけど最近周りのカップル達の話を聞くと・・・どうも気になってしまう。
私達ってなんなのだろうと・・・。






『えーワテはベストカップルやって思うけど』

「どこら辺が・・・?」

『どこら辺って言われると難しいなぁ・・・』







今、私の話を聞いてくれているのは、蔵ノ介を通して仲良くなったテニス部のお友達、金色小春ちゃん。性別男。
男の子でありながら乙女心もわかるというとても素晴らしい心の持ち主であり、彼もまた私の大事な良き相談相手だ。
部活もあって疲れているだろうに、こうして私からの電話も拒否せず受けてくれる優しさも備わっており、もう完璧としか言いようがない。
何かしら相談に乗ってくれて、親身に答えてくれて、電話からでもわかる小春ちゃんの寛大な心に私はいつも助けられている。
蔵ノ介も・・・こんだけ優しければなぁ・・・なんて考えることもしばしば。
そんなことを考えていると小春ちゃんが「まず、」と喋り出す。






『蔵リンはちゃんのこと大好きやろ?』

「・・・へ?」

『そんでちゃんも蔵リンが大好き。それだけでワテはもう最高のベストカップルやって思うで?』

「・・・いや、あの、」

『ふふ、照れるん?相変わらず可愛えわぁ!』

「っいやいやいや!そ、その・・・確かに・・・私は蔵ノ介のこと、大好きやけど、えっと・・・蔵ノ介が私のこと大好きなんは・・・」

『絶対大好きやで。そうやなかったら3年も続いてへんやろ?』

「・・・まぁ、そうかもやけど・・・せやけど、蔵ノ介は私に暴言ばっか吐きよるしすぐ叩くしめっちゃ横暴やし・・・」

『それはほら・・・愛情の裏返しやって!』

「激しすぎんねん・・・」







愛情の裏返しとか言われたら耐えられることもあるだろうけど・・・蔵ノ介のは如何せん激しすぎんねん。
あれ本間彼女に対して言うか?みたいなこと多いし、優しいなって・・・思ったことは少しだけあるけど・・・本間少しだけやし。
うーんと唸り声をあげると小春ちゃんが電話の向こうでため息をついた。
なんだか小春ちゃんにものすごく申し訳なくなってきてどうしようと自己嫌悪に陥っていると、ふふっと小春ちゃんが笑いを零した。
そして柔らかい笑いを声に含んだまま小春ちゃんがゆっくり話し出す。






『そんなん言うならちゃんだってやってみればええねん』

「??」

『蔵リンにし・か・え・し!』

「しかえし・・・ええ!?仕返し!?私が!?」

『せやで〜蔵リンにされてることをちゃんもしてみればええんや』

「私が・・・蔵ノ介に・・・」

『それやったら蔵リンも少しはちゃんへの態度も改まるんやない?』







私がされてることを蔵ノ介にそのままやり返す・・・。
・・・恐ろしいが、ふむ、やってみる価値はありそうやな・・・!
もしこれで私にしてる仕打ちは彼女にやるもんやないって気付いてくれたら・・・めちゃくちゃええんとちゃう!?
「小春ちゃんはやっぱり天才やな!ありがとう!何かが見えた気がする!」とお礼を言ったら 『可愛えちゃんのためやもん!協力は惜しまんでぇ〜』とか!本間小春ちゃん天使や!!

















アドバイス3
『たまにはやり返してみなさい?』



















「おはよう、

「ん・・・蔵ノ介?」

「おん、いつまで寝とんねん。早よ起きぃや」

「・・・嫌や」

「あ?」

「嫌言うとんねんボケ」

「・・・」







朝、またもや蔵ノ介が私の部屋に不法侵入してきた。
そしてまたもや起床時間より早く叩き起こされたが・・・今日の私は一味違うのだ。
絶対に・・・蔵ノ介に屈指はしない・・・そう、今日の私はとことん蔵ノ介に反抗すると決めたのです!
蔵ノ介が何か言っているようだけど、意地でも起きないで!という意思表示として布団を頭まで被る。
ぬくぬくと温かい布団に心地よい眠気がじわじわとやってきて気持ちがいい・・・。
あと少しでまた眠りの世界に・・・というところで、私の身体全体に重い何かが圧し掛かってきた・・・って、






「おっもぉおおおい!!!」

「・・・」

「ちょ!!おもい!!!」

「・・・」

「蔵ノ介!?聞いとる!?ねぇ!?」







布団の中から叫ぶが蔵ノ介は全くうんともすんとも言わずただ体重をかけてきて私は潰れてしまいそうだ・・・!
なんとか布団から抜け出してみようとしたが・・・こいつ・・・完全に覆いかぶさってやがる・・・。
私は完全に布団の中に閉じ込められたようだ・・・!!
うええんと情けない声を出しながら蔵ノ介に呼びかけるが、本当にうんともすんとも言ってくれない。
もう私は半泣き状態だ・・・!うう!
バタバタと手足を動かして出してという合図をするが、蔵ノ介は一向に出してくれないどいてくれない・・・私はどうしたらいいの・・・!
何も言ってくれないのもあり私に不安はどんどん増していく。
うえっ・・・本間にどないしたらええねん・・・暗いし熱くなってきたし苦しいし蔵ノ介何も言わんし・・・!
本格的に泣きそうになってきた私はとにかく蔵ノ介の名前を何度も呼んで、あと何度もごめんなさいを言う。
「蔵ノ介!お願いやからもう本間にあの本間にすいませんでしたごめんなさい許してください蔵ノ介ー!!」
何回も繰り返していたら少しだけ軽くなる布団。
え・・・と思った時には勢いよく布団が取り払われ・・・開けた視界に最初に映ったのは、蔵ノ介が心底楽しそうな笑みを浮かべて私を見下ろしている姿だった・・・。






「くらの、すけ・・・」

「そないに泣きそうな顔してどないしたん?」

「っど、どないしたってそら蔵ノ介が・・・!」

「ぶっさいくな顔がさらに不細工になって悲惨やなぁ」

「〜〜っ!!」







クスクスと笑っている蔵ノ介を睨むが余計に表情が楽しそうに歪むだけで何の効果もありゃしない・・・本間にもうっ、私はどないすればええちゅうねんっ!
ちょっと本当に怖かった身としては蔵ノ介の態度は大変ムカつくわけで・・・枕を力の限り蔵ノ介に投げつけてやった。
するとぼふんっと枕が蔵ノ介の顔に直撃した・・・え・・・。
私はてっきり避けるか受け止めるかをすると思っていたのだけど・・・いやはやまさか直撃とは・・・。
いや、当てるつもりで投げたけど・・・実際当たると・・・なんていうか・・・。
正直言って私は今汗ダラダラだ。
枕が当たってから俯いた蔵ノ介がどんな表情をしているのかわからないのが、とてつもなく怖い。
ど、どうしよ・・・この無言も怖い・・・。
そろーっとベッドから降りて、蔵ノ介の表情を見るべく顔を覗きこもうとした。

そしたらドンッと肩に衝撃。

びっくりして目を瞑ってたら背中がベッドに沈んで・・・そっと目を開ければ目の前には蔵ノ介。
ひくり、私の口元が引きつる・・・。
や、やって・・・蔵ノ介は一見して笑顔に見えるが・・・目が、目が笑ってへん・・・!
これはまずいと思い私は起き上がろうとしたが、蔵ノ介がぐっと私の肩を押さえつけてきた。
(・・・・・・ぜっ絶対絶命や・・・!!!)






「ちょ、ちょお、蔵ノ介!?」

「今日はやけに反抗的で・・・どないしたん?ん?」

「えっいや、それは・・・!」

「あんまそういう反抗的なことされると・・・俺にも考えがあるんやで?」

「へっ・・・」







蔵ノ介がそう言って顔を近づけてきたのでぎゃあっと悲鳴が出た。
いや、本間、私そういうんのまだ無理や!!
ばっと顔を横に向けて蔵ノ介から目をそらす。
蔵ノ介の息が頬にあたって私の体温が急激に上がった・・・心臓もうるさいくらい高鳴ってる。
頭いっぱいにどうやったら逃げられるかを考えるが・・・あっかーん!何も考えられへん!!
ぎゅうと強く目を瞑って早く蔵ノ介が離れてくれるように祈っていると、首筋にさらっと蔵ノ介の髪の毛があたって、あわわっ、またもや悲鳴が出る。






「くらっ蔵ノ介!」

「んー?」

「離れてー!本間に!!もう!耐えられん!!」

「んー」

「ひぃ!!!」







生暖かいものが私の首筋をたどる。
もう・・・本間にあかんやろ・・・!!
あまりの恥ずかしさに目頭まで熱くなってきて私は泣きそうだ・・・。
もう限界を越えてしまった私はありたっけの力で暴れようと腕に力を込めた瞬間、今度はチクリとした痛みが首筋に走りビクリと身体が震えた。






「う、うえ・・・?」

「ん・・・まあ、今日はこれで勘弁したるわ」

「!!」







ぱっと蔵ノ介が私の上からどいて、ベッドに腰かける。
たす、助かった・・・!!
心底ホッとしつつ私も上体を起こし、慌てて先ほど痛みが走ったところを触ってみるが・・・あれ、なんもない・・・?
なんかできてるわけでもないのになして痛かったんやろ・・・?
うーんと首を傾げていると、隣で蔵ノ介が「あ」と声を上げた。






「?」

、俺怒ってたん」

「・・・え、はあ・・・」

「なんか言うことあるやろ」

「えっと・・・?」

「俺に土下座で今したこと全て謝罪するか・・・今またこの場で襲われ 「はい!!!本日は本当に誠に申し訳ございませんでした!!!」






即座に床に土下座をする・・・おん、下手なやり返しは命とりだということを今日、身をもって知りました・・・そして気付いたら変な赤い痕が首にできていたのには恐怖でした・・・本間なんなんこれ・・・。
起訴・・・。