恋人がドSなんですが
緊急事態といえる。
蔵ノ介にシカトされて早3日になります・・・。
いつもは私の部屋に勝手に上がり込んだり、メールや電話もちょくちょくしてきたり、学校でクラスにちょっかいかけられてたりしていたのが・・・この3日は全く一切に何もなかった。
私からコンタクトを取ろうにも毎回うまくかわされてしまい、どうしようもない。
「クラスに行ってもいつも居らんし、忍足くんめっちゃ心配してくるし、」
「うん」
「電話もメールも全部シカト」
「うん」
「ねぇ千歳くん・・・私どないしたええと思う・・・?」
「なん?なんか話したばい?」
「あれ?私の話聞いてなかった系?」
同じクラスの前の席のテニス部員の蔵ノ介のお友達の千歳くんに相談していたところ、なんと聞いてくれていなかったらしい(あの相槌はなんやったんや・・・!)
私にはもう千歳くんしか頼る人はいないと言うのに・・・!
今回ばかりは私が悪いということで小春ちゃんはちゃんと自分でなんとかしなさいと言うし、他のメンバーにいたっては・・・
忍足くんには頑張れと一言、財前くんにはいっそ破局しろと無表情で言われ、小石川くんにはめげるなと励まされ、
石田くんには頭を撫でられ、金ちゃんには抱き締められ・・・今回の原因と言ってはなんだが、共犯の一氏くんには現在逃げられ中である。
いや、うん・・・私が悪いのは重々承知だ。
蔵ノ介は冗談でも私のことを一度だって嫌いと言ったことはなかった。
いくら暴言を吐かれていてもそれだけは言われた記憶がない。
それに気付いたら、本当にこの前のことがものすごく申し訳なくなって泣きなくなる・・・。
だからこそちゃんと蔵ノ介に謝りたいと思っているのだが・・・如何せん蔵ノ介が捕まらない・・・!
廊下でもすれ違わないってどういうこっちゃ!!
最終手段は蔵ノ介の家に行くだが・・・、私・・・蔵ノ介の家行ったことないねんなぁ・・・。
ぼんやりとそのことを思い出してなんともいえない気分になった。
それって彼女のくせにそれどうなん?ってものすごく思うのだけど、蔵ノ介が「家にはうるさい奴らが居るから上げられん」と言うので行くのを諦めていた。
かく言う私も、親に見られたら気恥ずかしいのもあり蔵ノ介を家にあげたことはない。
・・・って、それ私ら恋人としてどうなん?
今まで疑問に思わなかったが・・・色々とまずない?
何度でも言うが・・・私と蔵ノ介、付き合い始めたきっかけは唐突であれど、もう3年の付き合いだ。
せやのにこの状況ええんか?
さらに付け加えると・・・明日、蔵ノ介の誕生日です。
4月14日は蔵ノ介の誕生日ということでどこかでデートしてプレゼントを渡そうと考えていたのですが・・・、このままでは全部がパァになりそうだ・・・!
それだけは本当に避けたい!!!
ということで長くなりましたが、千歳くん、どう思いますかね?
「・・・」
「って、なに寝とんねーん!!」
気付いたら私の机に突っ伏していた千歳くん。
千歳くんに見捨てられすぎてて今にも泣きそうやわ私・・・。
顔を覆って絶望を身体全体で現していると、寝ていたと思っていた千歳くんが突然「ー俺は思うんばってん」と話し始めた。
よ、よかったなんだかんだ話を聞いてくれていたらしい・・・!
ドキドキとワクワクと微かな希望に瞳を潤ませながら千歳くんの言葉を待つ。
突っ伏していた千歳くんがゆったりとした速度で顔を上げる。
眠たそうな顔でニッコリと微笑み、私にたった一言をくれた。
アドバイス5
『あきらめてドMの道に目覚めればよかと』
どいつもこいつも本間にムカつく!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
どちくしょう!と苛立ちをそのまま廊下の壁に蹴りをいれるとあまりの痛さにしゃがみこんだ。
結局何の解決にもならず放課後になってしまった。
明日は蔵ノ介の誕生日なのに、仲直りもできず、なにもできず、あまつさえお別れとか・・・本間に洒落にならん。
私はドMやないしドMになりたくもないしドMになる予定なんて全くないわけなのだけども、でも、もし、蔵ノ介が望むなら・・・やっぱ普通に無理やわ。
本当に本当に私はどうしたらいいのだろう・・・。
何をしたらいいのかも何もかもわからばくなってしまった。
友人は・・・とりあえず皆当てにならなさすぎだろう・・・。
・・・足、痛いし・・・これも自業自得やけど・・・。
さすさすと痛む足を撫でながら、こんな時蔵ノ介だったら「何やっとんねん・・・本間アホやなぁ、ちゅうかクソ?むしろクソやな。はクソや」とケラケラ笑って言ってくるんやろうなぁ。
・・・なんて、もう3日も聞いていない罵倒を思い浮かべる辺り私相当きてるわ・・・。
「何やっとねん・・・本間アホやなぁ、ちゅうかクズ?むしろカスやな。オイ、カス何しとんねん」
「ついに幻聴まで・・・」
「は?お前なめとんのか」
「いたっ!なにし、蔵ノ介!!」
「でかい声出すな。うるさいっちゅうねん」
ついには幻覚!?と思い目を擦っても目の前の蔵ノ介は消えない・・・ほ、本物・・・!!
よくわからない感動が込み上げてきて視界がぼやけてきたが・・・、待てや・・・こいつさっき私のこと蹴ったやろ。
しゃがみこんでいた私の背中を蹴ってきたことにより蔵ノ介さんの存在に気付いた私です。
なんていうか感動というものが一気に吹っ飛び、おかげで視界もクリアになりました。
でも怒鳴る気にはなれなくてじーっと蔵ノ介を見つめてしまう。
ちょっとの間会っていなかっただけなのに、もう随分会っていないような不思議な感じ。
そんな私の視線に居心地が悪くなったのか蔵ノ介は「いつまでしゃがみこんどんねん。お前デブやから道塞ぎすぎで邪魔なんやけど」と言ってきた。
すごい、殺意。
「すみませんねぇ!しゃあないやん!足痛いんやもん!」
「それ自業自得やろ・・・壁なんて蹴っとるから・・・本間蹴られた壁さん可哀想やわー」
「うっ・・・た、確かに自業自得やけど・・・って、いつから見とったん!?」
「内緒ーそう簡単に言うわけないやろ。なんか寄越せや」
「なんでそうなんねん!」
しゃがみこんでる私を足でつついてくる蔵ノ介にイラつきが増すが、ここで怒ってしまってはダメだ。
こんな風にいつも通りの会話を繰り広げているが・・・この3日間のことを思い出すと怒ってなんていられない(殺意はさっき湧いてしまったけど!)
私はまだ蔵ノ介に謝れてない・・・。
このいつもの流れに流されて『いつも通りの普通の』私達に戻りかけているけど、それは私的には嫌だ。
きちんと・・・なんか蔵ノ介は気にしてなさそうだけど私はとても反省して後悔したから、それをちゃんと伝えたい。
口を閉ざし蔵ノ介をじっと見つめると、私の変化に気付いた蔵ノ介も喋っていた口を閉じた。
「あんな・・・私、蔵ノ介に謝りたいことあんねん」
「おん」
「この前の・・・その、一氏くんといた時のことなんやけど・・・」
あの時のことを思い出してなんだか少し気まずくなった私は蔵ノ介から目線を逸らす。
だけど、蔵ノ介はそれを許してくれないみたいで、蔵ノ介もしゃがみこんで私の目線に高さを合わせてきた。
逸らすなよ、と目で言われている気がして、もう逃げられないと確信する。
せやな・・・謝るんやから、ちゃんと向き合わなあかんよな・・・。
目を逸らしたくなる気持ちを押さえつけ、私は、目の前にある蔵ノ介に顔を寄せそっと、
「んっ」
「っ!?」
「・・・冗談でも嫌いになりそうなんて言うて、ごめんなさい・・・」
私からは初めてのキスをした。
ものすごく恥ずかしくて顔から火が出そうだったけど、言葉だけじゃ足りないと思って今回私からキス、を、ですね、したわけですが・・・。
って、やっぱ無理めっちゃ恥ずかしい・・・!!
羞恥が私の全身をぶわっと駆け巡って、なんていうか、な、泣きそうになってきた・・・っ!
驚いて目を見開いている蔵ノ介の顔も、もう見れなくて私は体勢を体育座りにして膝に顔を埋めた。
何も言わない蔵ノ介の沈黙に私は恥ずか死にそうや・・・!
しばらく何も言えないで固まっていると蔵ノ介が小さく何かを呟いた。
何て言ったのかわからず、顔が赤いのに反射的に顔をあげてしまった私の目に飛び込んできたのは・・・今まで見たこともないくらいに顔を赤くした蔵ノ介。
思わず自分の顔を隠すのも忘れて凝視してしまう。
え、だって、え・・・!
「く、蔵ノ介・・・?」
「っ、ばっ見んなボケ!おま、お前は本間に・・・!」
「えっえっ?」
「ボケ!!」と暴言を吐き捨て立ち上がったかと思ったら、私の二の腕を掴んで私を無理矢理立ち上がらせる。
きょとんと蔵ノ介を見上げると「こっち見んな言うとるやろ・・・!」とデコピンが飛んできた。
しかしあまりの珍しい光景に私は蔵ノ介から目が逸らせない。
なおも見ている私から顔を隠すように片手で顔を覆っていたけど、耳まで真っ赤になっていることに彼は気付いているのだろうか・・・?
そんな蔵ノ介を見て、違う意味でドキドキしだした心臓をきゅっと押える。
「蔵ノ介、」
「なんや・・・」
「その、えと、」
「・・・」
「あ、あんな・・・」
「なんやねん・・・」
「・・・めっちゃ好きや」
「・・・おん、知っとる」
そう呟いて、蔵ノ介が緩く笑ったのがわかった。
普段やらないこと言わないことを言うにはすごく勇気が必要で大変だけど・・・こんな蔵ノ介が見れるなら、たまにはやってみようかなって思う。
だらしなく「へへっ・・・」と笑いを零すとすぐさま「きしょ」という言葉が飛んできて、また笑ってしまった。
あー・・・なんや嫌やなー・・・本間にドMとかやないのに、今はその暴言すらも愛しいわ。
ぽわぽわと温かい気持ちを胸に廊下のど真ん中で突っ立っていたけど、蔵ノ介がふと「あっ」と声を上げた。
なんやと首を傾げると蔵ノ介が掴んだままだった二の腕を引っ張って廊下を進みだす。
「ちょっ・・・」
「せや、俺テニス部の奴らに部室来い言われとったんや」
「え、そうなん?」
「おん」
「・・・これ私も行くん?」
「当たり前やろ」
前を向いて歩いていた蔵ノ介が私の方を振り返ってそう言ってきたときの表情はもういつもの意地の悪い顔に戻っていて、顔が引きつった。
ずんずんと進む蔵ノ介に引き摺られるように歩く私・・・おいおい、さっきの雰囲気はなんやったん、幻想なん?
ハハと乾いた笑いが口から漏れる。飛んでくる暴言。あかん、本間にいつものパターンやん。
なんとも切ない気持ちになり始めた私を余所に、あっという間に部室前までたどり着いた。
今までノンストップで着たので少々息切れな自分が情けない・・・。
蔵ノ介はそんな素振り一切ないけど・・・。
チラと蔵ノ介を見上げると、ちょうど蔵ノ介もこっちを見てきた。
がっちりと視線が合って気恥ずか「部室開けろや」しいわけないわクソが。
蔵ノ介にグイと部室の扉前に押され、しぶしぶドアノブを握る。
失礼しますよーと小さく呟いて、ドアノブを回し、扉を開けた瞬間に、
「「「「「「「一日早いけど白石誕生日おめでとー!!!!!」」」」」」」
「ぶほっ!?」
部室からビュンと言う音が聞こえた直後、顔面に衝撃。
視界が真っ白でただただわけがわからなく立ち尽くしている私の背後で、大爆笑している蔵ノ介の笑い声が聞こえる。
開けた先の部室からは戸惑った
「えっ!なしてが居るん!?」「あー・・・うわぁ」「ええっ蔵リンやなかったん!?」「げ、!」「あちゃー!やってもうたわ!」
「気の毒や・・・」「あああ本間にすまんな!」
複数の声。
・・・おい、どういうこっちゃこれは・・・。
とりあえず眼元を手で拭うと、べっとりとしろいものが手についた。
甘い匂いもして、さらには足元に落ちているものを見て・・・私の顔面に飛んできたものがケーキということが発覚する。
・・・おい。
「す、すまん!明日白石の誕生日やん?やけど明日はお前らデートやろうから、一日早い誕生日パーティをしようっちゅうことになって、それで、あの、」
「それでケーキ投げか・・・」
「お、おん・・・いや、まさかが開けてくるとは思わんくて・・・!」
おろおろとしながら物凄く申し訳なさそうに忍足くんが謝罪してきた後に「あっでも白石と居るっちゅうことは仲直りできたんやな!おめでとう!」と笑顔で言ってくれた。
その笑顔に多少癒されたが、いやしかし、背後の爆笑にふつふつと怒りがこみ上げる。
バッと後ろを振り向けば・・・腹を抱えて笑っている蔵ノ介がいて、私はブチ切れ寸前だ。
きっと蔵ノ介はケーキが飛んでくることがわかっていて私に扉を開けさせたんだろう、そうだろう、絶対そうや!!!
これは蔵ノ介の誕生日祝いということでしているのに・・・なんで私がくらわなあかんねん!!
本間腹立つ!!こうなったら私の顔についてるクリームは蔵ノ介の服で拭いたるわ!
背後で「ータオル貸したるから早よ顔洗ってきー」「ワテのふかふかタオルやでー」という声に「ええ拭き物があるからいりません!」と大きく返して、いまだ笑いが収まらぬ蔵ノ介に近づく。
蔵ノ介は目に涙を浮かべて私を見て笑っていた。
ゆ、許せん・・・!
手を伸ばして蔵ノ介の服を掴もうとしたら、逆に何故か蔵ノ介の手が私の頬に伸びた。
「えっ」と声が出たときには蔵ノ介の顔が近づいてて、次の時には柔らかくて温かい何かが私の唇に触れていて、背後のテニス部達が悲鳴をあげた。
私も今起きたことに脳がようやく追いつき悲鳴をあげそうになったが、次の瞬間にはぺろっとクリームのついた私の唇が舐められ、声が出なかった私の変わりに再度テニス部達が悲鳴をあげたの言うまでもない。
恋人がドSなんですが、
私はありのままに彼を愛そうと思います。
そんなこんなで4月14日の誕生日にデートをして私が蔵ノ介に何をプレゼントしたのかは・・・私達の内緒です。
起訴、私の訴えはきっとこれからも続くでしょう・・・やって私はドMになんてならんからな!!
Happy Birth Day!