「ですからね、アリス・・・私たちには貴方が必要なんです!!!」
普通に聞いていたら告白か何かと捉えられるだろう台詞だ。
しかしこの台詞はそう言ったものは一切含まれていないものである。
というか、まず俺の名前はアリスじゃねぇ。
平和島静雄だ。
大きく長いふわふわの白い耳を1つにまとめて掴みながら、を睨みつける。
「あの、ですから・・・」
「うるせぇ。俺が今聞いてんのは、俺の服がどこにあるのかと帰り道だ。それ以外は帰ってから聞く」
「服はこの世界に降りた時に消滅しました!だって今来ている服こそアリスの正装ですからね!」
「・・・」
「あと帰り道ですが、それは女王に頼まないと帰りの扉が開かないんですよね・・・だからとりあえず女王のところに行きましょう!
そして女王から私たちを助けてください!」
「マジで意味わかんねぇ・・・」
が言っていることが本気でわからない。
いや・・・話している言葉は確かに日本語だ。
でも言っていることが電波すぎて理解したくねぇ。
服がまず・・・なんだって?消滅した?
いやいや何言ってんだ?
しかも女王に頼まないと俺は帰れないと・・・、誰だよ女王って。
まあ帰れるならそれに頼る他ない。
早く帰って・・・服、着替えたい・・・。
「あーんじゃ女王んとこ連れてけよ。俺は早く元いた場所に戻って幽に会わなくちゃなんねぇんだ」
「!い、行ってくれるんですか!?」
「?行かなきゃ帰れないんだろ?」
「っ、ありがとうございます、アリス!」
「いや、だから俺はアリスじゃなくて平和島静雄だっつの。お前覚え最高に悪いな」
微妙にかみ合っていない会話をしつつも、女王の城へと向かう。
さすがに耳を掴みながらの移動は可哀想だったので、そこはちゃんと離してやった。
「なぁここからその城ってどんくらいあんだ?」
「そんな遠くないですよ〜ほらあそこに見える真っ黒なお城がそうです!」
「・・・ずいぶんと趣味が悪い女王だな・・・」
「はい、かんなり悪趣味ですよ」
うえ、思い出したら気分が悪くなってきました、と顔を盛大に顰めてはずんずんと進んでいく。
すると突如目の前にしゅたりと黒い影が降り立つ。
ぴたりと足を止めたに俺も合わせて止まる。
よく見るとそいつも同様、頭にありえないものが生えていた。
ピンクと紫の縞々の猫耳がピクピクと動き、耳と同じ色の長い尻尾がユラユラと揺れている。
また変なのに会っちまった・・・。
そいつは口元を三日月のように歪ませて俺達に近づいてくる・・・って、あ?
あれって・・・、
「紀田か?」
「よう、麗しのシロウサギに・・・・・・アリス?」
「こんにちわ、チェシャ!そうだよアリスだよ!」
「ちげぇよ、間違った紹介すんじゃねぇ。つか、お前までなんでアリスなんて言うんだよ、紀田」
「キダ?ノンノン、俺はチェシャ猫の正臣だぜ?そんなキダ?とか言う変な名前じゃないっつの!」
「はぁ?」
もうわけがわかんなさすぎて、何が何だかわかんねぇ。
俺の目の前にいる男は、『紀田正臣』という大手グループの社長の息子にそっくりだ。
口調まで似てる、つか名前一緒じゃねぇか。
なのに、だ。
彼は自分をチェシャ猫と言い、紀田とは違うと言う。
本当にこの世界はどうなってんだ・・・?
と紀田・・・ではなく正臣のじゃれ合いを見つめ、改めてこの世界のことを考えた。
見つけた、チェシャ猫?
(もしかして・・・この先会う奴も俺の知り合いだったらどうしよう・・・)