私はひょんなことから、この“ワンダーランド”にやってきた。
***
あれはよく晴れていた日だ。
大きなお庭で銀お兄様と本を読んでいたら、白い長い耳が草むらの中から見えたのでお兄様に断ってから私は草むらへ駆けていった。
それが始まり。
草むらの中にいるのは白い長い耳の『小さなウサギ』と想像していた。
だけど、実際は違くて・・・そこにいたのは、白い長い耳の『お兄さん』だった。
『・・・』
『・・・』
お互い無言で見詰め合うこと数秒、ウ、ウサギお兄さん、はニカッと笑って、私をひょいと小脇に抱えた。
『・・・へ?え、えええ!?』
『お前、やろ!さ、行くで!』
『えっえっなんで私のなまって違っ今はアリス、ってちょどこに連れてく気ですか!?』
『ついてからのお楽しみや!』
『はいいいい!?』
そして私は“穴”に落ちたのだ。・・・いや、落とされたのだ。
***
このとんでもない急展開で、私は今“ワンダーランド”にいる。
私が落ちた“穴”は“ワンダーランド”への入り口だとこの世界に降り立ったあと、ウサギ耳のお兄さんこと謙也さんに説明された。
他にも色々と説明されたけど、省きます。
いちいち説明するのがめんどくさい、・・・・・・というわけではないです!
ただ、ちょっと、その、ややこしいから、説明が苦手な私はできないなぁみたいな感じなだけです!!
***
と、まぁ、そんなわけで私は今“ワンダーランド”にいます。(3回目)
まったくビックリですよ。
いきなりウサギ耳のお兄さんに誘拐で、ここですよ?
ここは私がいた世界とは違うみたいで、色々と厭きないのですが・・・そろそろ家に帰りたい。
(あ、ちなみにここに来て3日経ちました)
銀お兄様やお父様にお母様、絶対に心配してる・・・。
自分で言うのもなんだけど、私は家族にとても可愛がられているので・・・3日もいなくなったとなれば大変なことになってると思う。
・・・うん、ホントにどうしよう、帰りたい。
とは言っても帰り方がわからない私は、こうして3日もここにいるわけだけども・・・。
もちろん3日の中で色んな人に出会って色んな人と仲良くなった、つもりだ。
でも、誰も帰り方については教えてくれない。
皆が皆、曖昧にはぐらかして逃げてしまう。
私は私で、まだ3日だけの仲という引け目もあり、あまりしつこくは聞けずじまいでいる。
「ハァ・・・本当に私はどうしたら・・・」
溜息をついて森を歩いていく。
とりあえず誰でもいいから会えないかなぁなんて思っていると、ひゅんと私の前を何かが高速で駆けていった。
と、思ったらひゅんと私の前に謙也さんが現れた。
白い長い耳がぴょこぴょこ揺れている。
「おー!」
「いやですから、私の名前はアリスですってば!」
「こないなとこで何しとるん?」
「何って・・・誰かとお話できたらなーって森を歩いてたんですよ」
「ふーん、そうなんか」
聞いてといて興味がなさそうに返答する謙也さん。
まあここの人達はそういう人多いけどね!
あと、私の名前は一応アリスなのだが、皆は私のことをと呼ぶ。
確かに間違ってはいないのだけど、一応ここではアリスと呼んでもらいたい(色々な諸事情によりね!)・・・、などと言っても皆聞いてくれないですけどね!
「あ、せや、これやるわ」
心の中で不満をタラタラ流していると、
唐突に差し出された手の上にはニンジンの形をしたクッキーがあった。
じっと見つめていれば、謙也さんが私の手を取ってクッキーを持たす。
「あの・・・これは・・・?」
「ニンジンクッキー。めっちゃ美味いんやで!さっき貰ってな、美味いからにもやるわ」
「あ、ありがとうございます!」
どういたしまして!と笑顔と共に返された言葉に、私も笑顔を浮かべる。
私をこの不思議な世界へと連れてきた原因の人(?)だけど、謙也さんのことを憎むという感情はわかなかった。
そりゃ最初は怒ったりもしたけど、この人(?)はなんでかわからないけど憎めない。
なんだろうな・・・人柄、いや兎柄かな?
私がうーんと首を傾げて考えてると、謙也さんも一緒になって首を傾げてきた。
目をぱちぱちさせて私を見てくる。
・・・。・・・うん、こういうとこか・・・・・・。
ようやく私は謙也さんのことを憎めない理由がわかった。
謙也さんはどこか癒し系だから、私は憎めないのだと思う・・・うん、この人(?)なんか可愛いよ・・・
そう結論がでたところで、私は謙也さんの可愛さにちょっと負けた気分を味わいながら、ダメ元でここの住人に会うたびに必ず聞く質問をすることにした。
「あの、謙也さん」
「ん?」
「私、いい加減帰りたい、んですけど・・・どうしたら帰れますかね?」
「・・・え、えーっと、あー、の家やったらこの道を真っ直ぐ行けば着くやろ!」
「仮の家じゃなくて、本当の家への帰り道です!謙也さんが連れ去った場所のです!」
「!!い、いや、あーえっと、」
今まで目を合わせて話してくれていたというのに、『帰りたい』の言葉からあからさまに私から目をそらしてそわそわとし出す謙也さん。
謙也さんに聞くといつもこうなる。
優しくていい人・・・いい兎さんなのに、どうしてこの話題には気軽に答えてくれないんのだろうか・・・!
じっと、懇願するように見ていれば、謙也さんが気まずそうに目をきょどきょどと泳がしていた。
あと一押しで何かボロを出してくれないかな・・・?
「謙也さん、私どうし「っぎゃー!!」ぅえっ!?」
もう一度聞こうと口を開いたはいいが、謙也さんは胸元に下げている時計を見て悲鳴を上げたため、私の言葉見事に遮られた。
そして、時計を青ざめた表情で見つめながら切羽詰った声で喋りだす。
「うわっどないしよ・・・!もうこんな時間かいな!!早よせんと遅刻してまう・・・!!」
「え、謙也さ「ほな、俺もう行くわ!またな!!」ええっ!?」
「ごめんな!」と言い、登場したときと同じように謙也さんは私の目の前からひゅんと走り去って行った。
何もいえないまま立ち去られてしまい、暫くその場に立ち尽くす。
そして、あぁまた上手いぐらいにはぐらかされてしまった・・・と肩を落としながら、謙也さんに貰ったクッキーを大事に抱えて、また森への散策に戻るのだった。
うん、いつものパターンだから・・・へ、へこんだりしないもん!
ハロー、シロウサギさん
(でもなんだかんだ言って、謙也さんんは優しいな。いつも私に何かくれるもん・・・って、アレ?私もしかして餌付けされてる・・・?)