たらり。
謙也さんに貰ったクッキーを時折食べながら森を歩いていると、目の前にピンクと紫の紐が現れた。
一瞬思考が停止してがすぐにある人物が思い浮かぶ。
って、これは・・・、





「光くん、ですか?」

「聞くまでもないやろ。他に誰がこの色のしっぽ持ってるって言うん?」

「で、ですよね・・・」





しゅたり、今度は目の前に猫耳を生やした男の子、光くんが現れる。
さっきの紐と思わしきものは光くんのしっぽだった。
しっぽをゆらゆらさせながら光くんは眠そうに欠伸をして木にもたれかかる。





光くんとはワンダーランドに連れてこられてからすぐに出会った男の子だ。
気まぐれでちょっと意地悪でナゾナゾが好きらしい。
時より投げかけられるナゾナゾはどれも難しくて一度も解けたことがなく、鼻で笑われたりする。
べ、別に私が馬鹿だから解けないわけじゃないですよ!
光くんのナゾナゾは高度すぎるんです!
現に私だけじゃなくて謙也さんも解けないですしね!
って、私は誰に言い訳をしているんだろうか・・・。






「いや、お前は馬鹿やろ」

「え!?」

「全部口に出とった」

「ええ!?」

「喧しい大声出すな」

「ご、ごめんなさい・・・!」





慌てて口を両手で塞ぐ。
そんな私を見て光くんがまた「馬鹿やな」なんて言ってきたので、否定の意味を込めて首を左右に振っといた。
でもまさか口から出ていたとは気付かなかった・・・こ、今度から気をつけないと!





「まあ口に出さんでも、の考えてることはだいたいわかるけどな」

「えっど、どうしてですか・・・?」

「顔に書いとる」

「!?」





今度は慌てて顔を両手で覆う。
うわわ、私ってばどんだけわかりやすい人間なんだろうか・・・!
前でククッと光くんが笑ったので、一応睨んでおく。
わ、私は真剣なんですからね!





「本間変なやっちゃな」

「そんなことないです!」

「見てて飽きひんわ」

「あ、あんま苛めないでください・・・!」

「苛められるようなことしとるが悪いやろ」





え、私何もしてないかと・・・。
首を傾げて光くんに苛められるようなことをしているか思い返してみるが、全く検討がつかない。
知らず知らずのうちに私は何かしてしまっているんだろうか?
うーんと唸りながら考えていると、光くんが「あ」と言葉を漏らした。





「?どうしました?」

「お前・・・」

「え、私?」

「それ、なんや?」

「?」





ふいに指差されたのは私が手に持っていたクッキーの袋。
自分の目線に持っていけば、光くんの指も私の目線まで上がっていく。
うん、光くんが指差しているのは間違いなくこれのようだ。





「えと、謙也さんから貰ったニンジンクッキーですよ?」

「ふーん」

「ふーんって・・・」





聞いといてそんな態度はどうかと思います・・・。
素っ気無い光くんの態度に少しだけめげながらも「食べますか?」と聞くと「・・・」無言で睨まれた。
あ、あれ?私なにか間違えたこと言っちゃったかな・・・?
睨まれた理由がわからず狼狽していると、いつの間にか自分の右手が軽くなっている気がした。
え、うん?





「あれ?」

「よくこんなもん食えるな。俺は無理やわ」

「へ?」





ぶらん、気付いたら私が右手で持っていたクッキーの袋は光くんの手に渡っている。
光くんは呆然としてる私を気にせず、クッキーに顔を近づけて嫌そうに眉を寄せた。






「ニンジンとクッキーを合わせるって・・・さすが謙也さんや。ドン引き」

「え、お、美味しいですよ?」

「ないない」





呆れ顔で私とクッキーを見やりながら、溜息をつく。
むしろ溜息をつきたいのは私なんだけど・・・。
口元を引きつかせながら、「えっとじゃあ返してくれる?」と言うと「嫌や」って返された。
・・・もうよくわからないなー。





「あ、せや。これ、貰いもんやけどやるわ。俺いらへんし」

「・・・花のピン止め?」

「ま、いらへんのやったら捨てるけど」

「えっい、いります!!」

「・・・ほな、やる」





突然手渡されたそれは、紫色の可愛らしい花がついたピン止めだった。
確かに光くんはいらないだろうな・・・だって男の子だからピン止めなんて使わないだろうし。
とりあえず可愛いそれを早速前髪に止めてみた。





「ど、どうですか?」

「・・・まあ、似合わへんこともないんとちゃうん?」

「えへへ、ありがとうございます!」





可愛いものを貰ったのが嬉しくて、自分でも情けない顔だと思いながらも光くんにお礼を言う。
すると光くんにそっぽを向かれてしまった。
・・・そ、そんなに情けない顔だったのかな?
不安になって光くんの顔を覗き込もうとしたら、頭をがしりと掴まれ光くんとは反対方向を向かされてしまう。
あう・・・、ひ、ひどい光くん・・・。





「こっち見んな阿呆」

「な、なんでですかー!」

「喧しいわ馬鹿。・・・お、俺はもう疲れたし眠いから帰る。ほなな」

「え、えええ!?」





急に現れたかと思ったら、急に帰ると言い出す光くん。
もう不思議すぎるというか自由すぎる・・・!
掴まれていた頭が離されたので後ろを振り向くと、ゆらりと森の奥に消えていく光くん。
本当に光くんは気まぐれでちょっと意地悪でナゾナゾ好きで・・・不思議かつ自由人だ。















ハロー、チェシャ猫さん


(って、クッキー全部持ってかれちゃった!?でも、これ可愛いからいっか・・・)