ほんの、些細なことやった。
誰もが笑い転げてしまうようなベタな少女漫画の恋愛みたく、俺の恋は始まった。
















01
















(あ・・・消しゴムちっさ・・・)


自分の手のひらに転がる小さな塊。
本来の大きさよりはるかに小さくなった白い塊はまるで小石みたいになっていた。
この前買いに行くの忘れとったからな・・・しかし、これで本間に消せるんか?
小さすぎてうまく文字を消せるとは思わないサイズにため息がこぼれる・・・ちゅうか俺もようここまで放置しとったな。
最終的に舌打ちをしてあんま間違えんよう気をつけることにした、はぁ。












「あ、すまん。ここの字ちゃうな」

「ちょっとー先生しっかしいやー」







おい・・・なんやねん、気を付けよう思うた途端これかいな。
大分前に書かれた黒板の文字に訂正が入る。
もう少し早く気づいてくれていたならば、書いとらんかったのに・・・。
気分が一気に急降下した。
まぁ、そないなこと言うとっても直さなあかん。
間違えたまま書いて間違えたまま覚えて、テストで間違った答え書いたらそれこそ最悪すぎて笑えない。


(ちっ・・・先生なんやから字とか間違えんな迷惑やもし赤ペンとかで書いてたらどないすんねんボケ)


心の中で先生に悪態をつき ちっさな消しゴムを取ろうとすると、ちっさな消しゴムはころころと俺の手から逃げて 転がっていき机から姿を消した。
ここで気分がさらに急降下する。
あー・・・最悪すぎる・・・なんで落ちんねん
落下した消しゴムに苛立つ。あんなちっさい消しゴムは落ちたら探すのが大変や。
あー、と声を漏らし前髪をくしゃりと握る。
めんどくさ・・・なんやろ、今猛烈に動きたないわ。
ぐたりと机に体を倒し、目を閉じる。
もうええ、寝る・・・







「財前くん、これ落としたやろ」

「は・・・?」







あと少しで意識を飛ばすというところで体を軽く揺さぶられ、閉じていた目を開いた。
隣に目を向ければ、この前席替えで隣になったが小さな白いものを指先で持っている。
なんやそれと眉間に皺を寄せるとが困ったように笑った。







「あーちゃうかった?ごめんな、起こしてもうて・・・てっきり財前くんのかと」
「・・・あ」







よく目をこらしてみればが持っていたのはさっき俺が落とした消しゴムやった。
あんなちっさいのを落としたのに気づいて拾うとか随分ええ子ちゃんなんやな。
俺やったら気づいてもシカトやわ。
そんなこと思いつつ、俺がを凝視してるもんやからがまた困ったように笑う。
あ、その顔ええかも








「えっと、なに?」

「あー・・・それ俺のや」

「やっぱそうなん?なら、良かった!はい」

「おん、おおき・・・?」







から消しゴムを受け取る時に、気のせいだろうか、指先からふわりと香った匂いに動きを止める。
手のひらに消しゴムを乗せたまま動かない俺を不思議そうに見ているが小首を傾げた。
そのさい、またふわりと匂いが香る。








「財前くん?」

「あ、まい・・・?」

「へ?どないしたん?」

「いや、今なんか甘い匂いがしたんやけど・・・」

「え、そうなん?どこから匂う?」

「・・・、からやな」

「わっ私?」







せや、この甘い匂いから匂うてる。
くんくんと鼻で息を吸えば 菓子みたいな甘い匂いがからするもんやから驚いた。
ちゅうことはこいつ・・・・・・匂うほど菓子食うとんのか・・・。
そのことに少し引くように目を細めてを見やれば、はなにやら考えこんどるみたいに難しそうな顔をしとった。
・・・まぁ、ええか。別に話すことなんて何もないし、せっかく拾ってもろたんやし書き直しとかんと
横から机に向き直るとが「あっ」と声を漏らした。
なんやと思い、ちらりと横目で見ればばっちり目が合う。








「甘い匂いってもしかしたら昨日ケーキ作っとったからそれかもしれん!」

「・・・ケーキ?」

「うん、私お菓子作りとか料理すんの好きなんよ」







へぇ・・・結構家庭的なんやな。
書き直そうとしていた手を止めての話に興味を持つ。
はにこにことしていて、さっきの困った笑いよりこっちのがかわええななんて思った。
って、何思うとんねん
まるで自分じゃないみたくぽんとでてきた思いに戸惑うが、首を軽く振って眠いから変なこと考えてまうんやと結論付ける。
そんな俺をが不思議そうに見てる視線に居心地を悪くさせながら、俺は口を開いた。







「なぁ・・・って何作るのが得意なん?」

「得意、かー・・・せやなぁ、家族とかにも好評なんは肉じゃがかな!」

「っ肉、じゃが・・・」

「ふふっちょっとベタすぎかなぁなんて思うんやけど、得意料理言うたらそれしか思いつかんわー」







の言葉と笑顔に俺の心臓がどくんと跳ねる。
は・・・?いや、い、みわからん・・・。
の笑顔から目が離せず ふいに集まる頬の熱に顔をしかめた瞬間、授業終了のチャイムがなったのだった。




























(こうして、『そんなとこで惚れるんか!』と突っ込みそうな場面で俺は隣席に座る、に恋をした。)