あの日の放課後



『え、えっと、えっと』

『なんや』

『な、なんやって・・・・・・その、俺もって本間なんですか・・・?』

『・・・俺が冗談でそないなこと言うと思うか?』

『い、いや思わへんけど・・・でも財前くんモテモテやし、私みたいな普通な子なん、』

『それ以上言うたら怒るで。あのな・・・・・・あーそのな、ええか、一回しか言わんからよう聞いとけ』

『?うん・・・?』

『確かには普通で地味やと思う。せやけど笑った顔めっちゃ可愛ええし料理うまいとか最高やし気配りもできて優しくて、 (くそっあかん何や恥ずかしくなってきた) と、とにかく俺はが好きや。全部、普通なとことか地味なとこ含め好きや。 ・・・あーもう本間にお前は何言わせとんねん』

『えっええ!?』

『・・・とにかく、そう言うことやからわかったか?』

『う、うん・・・あのな、わ、私も財前くんの真剣にテニスやってるめっちゃかっこいい姿やふとした時に笑う柔らかい表情や低いけど聞きやすい声とか・・・その、さりげない優しさが大好きです・・・よ?』

『・・・なんで最後疑問系やねん・・・』

『っだ、大好きです!』

『っ本間恥ずかしいやっちゃなお前!』

『ざ、財前くんだってそうやんか!』

『はぁ?お前ほどやないわ』

『・・・財前くんの意地悪や・・・けど、好きです。これからよろしくな・・・?』

『・・・おん・・・よろしく、頼むわ』
















10





















「あれ・・・?財前くん何しとるの?」

「・・・別になんもしとらん」

「え?今なんか隠さんかった?」

「なんも隠しておらへん」

「えー本間にー?」

「本間やから早よう日直の仕事終わらせろ」









もーそないなこと言うんやったら財前くんも手伝ってくれてもええやないかーと頬を膨らませながら言うに気付かれぬよう小さく笑った。
二人だけの教室はとても静かで、俺との声だけが響く。
ちなみに今日は部活が休みだからこんなにものんびりと教室にいられる。
そして、この後はとのんびり一緒に帰る予定だ。









「財前くん、日誌先生に渡してくるからちゃんとここに居ってな!」

「はいはい」









パタパタとが教室から出て行く。
それを見届けてから先ほど隠した紙を取り出した。
隠す際に少しだけクシャッとしてしまったみたいで軽くしわくちゃなそれを丁寧に伸ばしていく。
そこにあるのは何度も消したり書いたりした跡がひどく残る書き途中の汚い譜面。
に・・・送りたいと思うもの。
いつもはパソコンですべてやるが、この曲だけは自分の手で作りたいと思いこの残念な紙が生まれた。

(また・・・書き直しやな)

バックから白い紙を取り出す。
が帰ってくる前に映し終えて少しでもこれの続きが書けるとええな。
これは、に内緒で作っている曲だから絶対に見つかるわけにはいかない。
なら家で書けばいいと思うのだが・・・と一緒の時じゃないとどうも曲が思い浮かばない。
だからこうしてといるときバレないようにこそこそと書いている。
・・・しかし、今日はもう無理かもしれない。
廊下からパタパタと走ってくる音が聞こえる。
この足音は間違えなく、だ。
俺は一応映し終えた紙をくしゃくしゃにしないよう気をつけながらバックに突っ込んだところ、タイミングよくが教室に駆け込んできた。
少し息の荒いは俺と目が合うとにこりと笑う。
そんな急がんでもええやろ、とか言いかけたが俺のために頑張って走ってきたのかと思うと嬉しくて頬が緩んだ。









「財前くんっお待たせ!さ、帰るでー!」

「ん」



















を家まで送る。
一緒に帰るときに必ずすることのひとつ。
・・・まぁ俺がただたんにこいつと離れたくない、とか思うせいで家が反対だというのにの家まで付いて行ってるだけだが。
帰り道、話すのは主にで、俺はほとんどの話す内容に反応するだけ。
最初それだけじゃ駄目だろうと思った俺は必死に話すの内容を考えて、多少無理をしながら話していた。
だけどそんな俺に気付いた
「別に無理に話さんでもええよ?私、財前くんと一緒に帰れてるだけで幸せやし、私の話してることに反応してくれたりするだけで嬉しいし ・・・せやから、その・・・財前くんが話す時は無理して内容考えて話すんやなくて話したいことがあったらの時でええよ。 私に気を遣って無理に話すことなんてないんやからね」
と優しく微笑みながら言ってくれた。
ここでまた一段と好きになったのは言うまでもない。
それからと言うもの、俺は無理してに合わせることを止めた。
もともと俺の性に合わんことやったし、もそれを望んでいなかったからだ。










「今日の出された英語の宿題終わる気せえへんよー」

って英語苦手やったんか?」

「うんー・・・そこまで得意やない、かな。財前くんは英語得意?」

「まあまあ得意」

「本間に!?え、え、ほな明日の英語始まる前に教えてくださいよ財前先生!」

「うわ、めんど」

「ええっそないなこと言わんといてよ財前くん・・・!」

「ぷっ・・・冗談や、冗談」

「!も、もうっ財前くん最近意地悪や!」









俺が笑ったのを見てがほんのり顔を赤らめてそっぽを向いた。
こんなとこも可愛い。
俺も何だか顔が熱くなって違う方向を向く。
あー・・・何しとんのやろ俺。
暫く沈黙が降りたが、が小さく「あっ」と言葉を漏らしたので目だけの方に向ける。









「ねぇ財前くん、明日のお弁当になんか入れて欲しいとか希望ある?」

「んー・・・特にあらへんわ」

「そっか・・・んーほなご米とパンやったらどっち?」

「米」

「了解!ふむふむ・・・ご飯やったらおかずはどないなのにしよかなー」









楽しそうにおかずの名前をあげていく
その内容はどれもうまそうだった。
付き合いだしてから料理上手なは俺の弁当を作ってくれるようになった。
それを彼女のいない先輩らに見せつけながら食べるのが俺の楽しみと化してきている。
毎日うまそうな(実際うまい)俺の弁当を羨ましそうに妬ましそうに見てくる先輩らの顔は本間に傑作だと思う。
明日はどんなもんが入っているのかと想像するだけでも楽しい。

(・・・あ、せやまたあれ食いたいわ。)

ふと浮かんだ食べたいもの。
俺は隣でひたすらおかずを考えているに顔を向ける。

(おん、もう顔は熱くない。)









、」

「ほうれんそうのご・・・なに?」

「肉じゃが。」

「・・・肉じゃが?」

「明日の弁当のおかず肉じゃが入れといてくれ。あれ、得意料理って言うだけあってめっちゃうまかったからまた食いたくなってもうた」

「っ・・・うん!わかった、一生懸命おいしいの作るわ!」









俺がそう告げるとはすごく嬉しそうな顔をして何度も頷いた。
その姿に、また顔が熱くなりそうだ。
本間にこの可愛い生物はどこまでも可愛くて困る。









「って・・・もう私の家や」

「・・・本間やな」

「早かったなー・・・あ、今日もわざわざ家まで送ってくれてありがとう!」

「ん、当たり前のことやから気にすんな」

「・・・い、いや、せやけど、その嬉しいから・・・」

「・・・そ、うか」









お互い顔を赤くさせながら黙り込む。
どんだけ恥ずかしいねん俺ら・・・









「え、ええと、」

「・・・俺、帰るわ」

「っう、うん!気をつけて帰ってね!」

「おう、も早よ家入って英語の宿題しとき。んでわかんなかったら明日教えたるから」

「本間!?」

「本間」

「わ、わかった!頑張ってやる!」

「おん。」









小さく笑いあって、なんだかんだ言って結局の家の前で電灯がつく時間になるまで話し込んでから別れを告げる。
その時に寂しそうな顔をするに顔が緩みそうになった。
こんな時本間に自分は性格が悪いと改めて思う。

(やけど俺のこと想ってそないな顔するんやから、これが喜ばずになんていられへんやろ)









「・・・明日の朝、部活ないから一緒に行くか?」

「い、行く!」

「じゃ決まりやな。時間とかは後でメールするわ。・・・また明日な」

「・・・うん、また明日」









の頭を撫でて、自分の家へ帰るため通ってきた道を戻る。

(あー星とか出てきとるわ・・・腹、減った)

そんなことを思いつつ首にかけてたイヤホンを手に取り、アイポットに電源を入れた。
ふと、背中に視線を感じる。
なんやなんやと思い後ろを振り返るとが大きく手を振っていた。

(あいつまだ入ってなかったんか・・・)

とりあえず俺もそれに大きくではないが小さく手を振ってから、早よ家入れという意味でシッシッと手でに家に入るよう促す。
するとは素直にぴたりと手を振るのを止めて、大きな声で「絶対に迎えに来てなー!」と言い家に入って行った。
その姿をきちんと見届けてから、俺はまた歩き出す。
・・・ああいうとこも可愛えとか思うのは、俺が心底に惚れているからなのだろうか。









誰もいない帰り道、好きな曲を聞いて、一番大切な彼女を思い浮かべ、自然に上がる口元に、 俺は幸せを感じる。
・・・あぁ、またひとつフレーズが浮かんだわ。
















(早く君に捧げたい、君だけの曲を。俺だけのに)