部活以外で学校を楽しいと思ったことはない。
せやけど、今は・・・楽しいと思う。
03
「お、財前やん!昨日は大丈夫やったかー?ぷぷぷっ」
大丈夫やないわ。あんたのせいで小学生以来のたんこぶや。しかも何笑うとんねん。
「あ、財前やん!どや、頭大丈夫か?昨日のはええボケやったわ!」
ボケとらんし、ホモの頭と比べるとマシですわ。
「しっかし、光んのかわええ顔に傷付かんで良かったなぁ」
キモイです。
「めっちゃアホやなー!」
野生児の万年最下位に言われとうない。
「財前も気を付けなあかんで?いつボール飛んでくるかわかへんのやからな」
それは一理ある。
「ボーっとしとるからばい」
万年寝ぼけたような面と頭の人に言われたないです。
「まっあん時の財前はおもろかったなぁ」
・・・・・なんなん、この部活。まともに後輩の心配する人は居らんのか?
先輩らの言葉の数々に朝からイラつきつつ部活をして、
朝のHR前にクラスに入り隣の席を見てみればそこにはもうすでにの姿があり机に向かって何かしとった。
その姿を見た瞬間、さっきまで殺意とも言えるイラつきがあったというのに・・・面白いぐらいになくなった
少し汗ばんでいる手を握り、に挨拶をしようと思う。
何も緊張することはあらへん、俺が他の奴らに挨拶するように、自然に言えばええんや。
テニスバックを肩にかけなおして、自分の席へ向かう。
「・・・はよう、」
「あ、財前くんおはよう!昨日の怪我大丈夫やった?痛ない?平気?」
「昨日よりはマシになったから別に平気や」
は笑顔で俺に挨拶を返してくれた。
さらには心配までしてくれ、この姿を是非とも先輩らに見せたくなった。
先輩らもみたく心配とかして・・・うわ、あかんわ、先輩らが心配とかしてきたら逆にキモイ。
想像したらサブイボがぶわっとなって・・・頭を振って想像したことを急いで消去した。
(心配してくれるんはだけでええかもしれん・・・・)
チャイムが鳴り、担任が来る前にイスに座る。
起立、礼に従い渋々立ち上がって挨拶してまた座る。別に立ち上がらんでもええやろ、とか毎回思う。
担任の話を聞き流しながらバックから一限目の教科を取り出し、顔は窓の方に向けて頬杖をつく。
チラリと横目でを見ると、ノートに何かを必死に書いてて・・・めっちゃ気になった。
(何、書いとんのやろ?)
今は担任がだらだらと話しとってクラスの奴らも好き勝手話しとるし、
俺がに話しかけても平気やんな?
少しだけ辺りを見渡して誰もこちらを見てないことを確認し、頬杖をついた状態のままに小声で話しかけた。
「何、してるん?」
「ん?これ?」
「それ以外ないやろ」
「えっと、友達にマドレーヌの作り方教えてって言われたからレシピをね、書いとるん」
「へー」
笑顔のままがノートを俺に見せる。
絵つきのレシピはかなり凝っていて、驚いた。
しかも・・・絵うまいし字は綺麗でめっちゃ読みやすい。
ついの持つノートを凝視しすぎたのか、
が照れたように笑いながら
「えっと説明とかあんま得意やないから何書いとんのかわかんない部分があるかもなんやけど、読むならどぞ」
と言いノートを渡してきた。
俺は差し出されたそれを素直に受け取って、をもう一度見ると
「財前くんもお菓子作りに興味あるとは知らんかったわー」
なんて変なこと言っとったが・・・訂正すんのもめんどいからええか。
ジッとページを読むが・・・やっぱり絵もうまいし字綺麗やしめっちゃわかりやすい・・・なにが説明得意やないや。うまいやんけ。
「これすごいやん」
「えっそ、そう?わかりにくない?」
「全然」
「本間?うわー良かったー!なんや財前くんに言われると自信つくわー」
「なんやねんそれ・・・なぁ、他のページとかも見てええ?」
「うん!ええよ!」
ノートから顔を上げにそう言うと、とても嬉しそうにが笑ったので顔が熱くなった。
(不意打ちやわ・・・)
慌ててノートに視線を移し、他のページを見ていく。
他のもちゃんと絵がのっててわかりやすいものやった。
菓子とかって気にして見たことなかったからのノートは結構見てておもろい。
「あ、」
「?」
あるページにさしかかると、が小さく声を漏らした。
なんやと思ってを見れば、机の横にある紙袋を机の上に出す。
なにとんのや・・・、思わずページをめくる手が止まる。
「?」
「あのね、今財前くんが見とるページのお菓子、今日持ってきとるんよ!」
紙袋から手のひらサイズのもんを出して、はい、と差し出されたのは・・・『ガトーショコラ』。
俺が見とるページの題名はそう書いてあった。
「マフィンサイズのガトーショコラ!それ、財前くんにあげるわ」
「・・・ええんか?」
「おん!ノート褒めてもらったし、お菓子作りに興味あるみたいやし!」
いや、別に菓子作りには興味ないねんけど・・・とは思いつつにお礼を言って、有難く受け取った。
甘くてええ匂いのする・・・の手作り菓子。
(甘くてええ匂いとかと一緒の匂いやな・・・って俺は変態か)
『ガトーショコラ』は可愛らしくラッピングもされてるので潰さないようバックにしまいノートをに返した。
すると、ちょうど担任の話も終わったみたいでさっきよりもクラスの奴らがざわざわと動き始める。
もレシピの詰まったノートを持って教室を出て行った。
きっと友達に渡しに行くんやな。
俺はというと、特に授業が始まるまで何もすることはないから暇つぶしに携帯を開くと、いつの間にかメールが入っとった。
誰や・・・って、
「謙也さんか・・・」
『たんこぶ治ったかー!まぁそれはええんやけどな、白石が連絡ある言うとったから昼に弁当持って屋上集合な』
すぐたんこぶ治るわけないやろ普通に考えろやアホちゃうか・・・いや、謙也さんはアホやのうてバカやったな。
バカ丸出しのメールに思わずでかいため息が出よった。
あの人は本間に先輩とは思いたくない先輩やわ。
しかし昼に弁当持ちで屋上集合か・・・・あ、これじゃからの菓子食えんな・・・。
持ってったら確実に先輩らに誰に貰ったかをしつこく聞かれ、金太郎にはくれとせがまれそうや。それは回避したい。
・・・しゃあない、家帰ってからのお楽しみか。
ざわざわする教室で、一人頬を軽く緩ませバックの中にある『ガトーショコラ』の味を想像するのは、
ええ時間つぶしになりこれまたおもろいもんやった。
(甘いのは、菓子か彼女か、どっちなんやろ)