隣を見たら、いつもそこには君がいた。
06
とても、そわそわする。
横を見ても、いつものようなドキドキする感じはない。
(あーくそっ・・・やってられんわ・・・)
授業なんかも耳に入らずシャーペンをくるくる回してさっきから過ごしとる。
ノートはちゃんととってはいるが。
ったく、こんなつまらんと思ったのは久しぶりかもしれんな。
これもかれも隣に・・・が居らんせいやわ。
朝、教室に入ったらいつもいるはずの姿が見当たらず遅刻かとなんて軽く思っていたが、
そんなことではなく、今日は風邪を引いて学校を休んだ。
それを朝のHRで聞かされ、授業も一気にやる気を失くした。
先生も説明下手やから余計やりたない。が、黒板に新しく書き込まれた文字をノートに写した。
なるべく綺麗に読みやすいように、文字を書く。
もし、の風邪が治り、もし、俺からノートを借りる場合・・・汚いノートなんて渡せへんわ。
白石部長や銀さんの綺麗な字とまではいかないが、俺の字もそこそこ見れるもんやった。
謙也さんとユウジ先輩と金太郎に比べたら全然マシ。
(って、あ・・・)
そう思っとったら字を間違えた。
あーなにしとんねん。
机に置かれている消しゴムに手を伸ばすと、
消しゴムがころりと机から落ちる。
あの時とは違う、新しく大きめな消しゴムが。
舌打ちしそうになるのを抑えて、周りを見渡してみた。
誰も俺が今消しゴムを落としたなんて気づいてない。
クラスの奴らは全員前を向いて授業をしてたり寝てたり、色んなことをしとる。
けど、そんな中で、あの時、
は俺が消しゴムを落としたことに気づいて拾ってくれたんやったな。
(なんや、不思議やわ)
あの時と同じく、消しゴムが落ちて転がって止まった場所はの席。
まるで消しゴムまでを気にしとるみたいや。
は落ちた消しゴムを嫌な顔せず拾う。
そして俺に渡したときの困った笑顔。
あれ、本間可愛えかった。
今この場にいないというのに、俺は何のことばかり考えとんのやろ。
・・・・・・いや、むしろいないからこそ考えんのかもしれんな。
せや、今の状況だってやったら、
(今落ちたやつも拾ってくれるんやろな)
困った笑顔で「また落としとるよ」なんて言うんやろ。
落ちた消しゴムを見つめながら、未だ拾おうという気にはなれん。
が学校来るまで落ちとればええねん。
馬鹿なこと思ってるなとはわかってていても本当にそう思ってしまう。
せやけど、黒板はどんどん文字で埋まっていく。
俺が止まっているところはもうだいぶ前の内容になっとった。
(・・・嫌、やな)
いつもの日常にの姿がないだけで、こんなにも変わるのか。
に会えないだけ、そんな些細なことでも俺には重要で、本間な、柄にもなく、
(寂しい、なんて思うわ・・・)
この恋を叶えたいとか、そんなん無理なのは知っとる。
けど、せめて、一週間の5日間全部はに会わせてくれもええやろ?
祈るように目を閉じた途端、授業が終わるチャイムが鳴り響く。
ざわめき出した教室で、俺は誰かに拾われる前に消しゴムを拾った。
(今日は脳内で何回もの笑顔がリピートされた)