朝から俺は、名前も知らん女子から告白された。
普段ならめんどくさくて朝の忙しい時に告白なんてふざけんなとか思っとったけど、
今の俺は人を好きになって告白するのがどんだけ勇気のあることかをわかってしまったから、
前の俺からするとありえんような、告白してきた奴に対してなるべく傷つけないように言葉を選んで断った。
そして、最後に『ありがとうな』と言って遅刻ギリギリで教室に駆け込んだ。
こんな風に、俺を好きになってくれてありがとうと思えるようになったのも、
全部、のおかげで、
俺はを好きになれて本間によかったと思っとる。
07
朝から、がずっと溜息をついとる。
今は帰りのHRだが、その最中にも隣から溜息が聞こえていた。
表情もどこか暗いし、何かあったんやろか?
「、」
「・・・ん?何?」
「溜息、さっきからずっとしとるで。何かあったん?」
「えっ!?」
帰りのHRと言えど、あまり目立って話しかけることはできない。
だから顔は前を向きつつ横目でを見ていると、は目を見開いて口を開けたまま俺を見た。
驚愕の表情で固まるに、自分が溜息をしていたことに気付いていなかったことがわかる。
(溜息は無意識に出とったってことやな・・・)
いつも明るいには似合わない、絶対に何かあったに決まってる。
俺はの顔を曇らす原因が何なのかが気になった。
何か悩んでて、友達に話しにくい言うなら、・・・まぁ自分で言うんは悲しいが友達未満なクラスメイトの方が話しやすいと思う。
俺がじっとの話し出すのを待っているのがわかったのか、が少し困ったように笑って話し出そうとした時、
キーンコーンカーンコーン
・・・・ちょお待てや、なんちゅうタイミングで鐘鳴るん。
やっと、が話し出してくれそうになったというのに・・・最悪やわ。
ざわざわと騒がしく帰り始める周りに舌打ちをしながらを見るが、何故かは俯いていた。
どないしたん?と小さく問いかければ、無言で一回頷くだけで何も言わない。
他の奴らから帰りの挨拶や部活先行っとるでという言葉に適当に返して、俺は頬杖をつきつつが話し出すのを待つ。
クラスの奴らがほとんどいなくなった頃、教室は驚くほど静かになった。
俺もも喋らんから余計静かで、なんていうかこの沈黙はかなり居辛い。
何か喋らなければずっとこのままの状況がずっと続くんじゃないか、と思って口を開くが言葉が出てこない。
こういう場合はどないしたらええんや。
困ってきた俺は無意味にあいている片手の爪を弄りだす。
それから、クラス全員がいなくなって10分くらい経った後、小さな声が隣から聞こえた。
「・・・・・・る?」
「あ?・・・あー悪い、聞こえんかったわ。もう一回言ってくれへん?」
「・・・ぁのね、」
黙って、耳に意識を集中させる。
今度は聞き漏らさないようにせな。
「財前くんだったら・・・自分の好きな人がモテモテやったらど、どうする・・・?」
漸く話し出したと思ったら、俺が最も振られたくない話題で一瞬肩がビクリとなる。
が溜息をついてたのは・・・好きな奴のことを悩んでだったのかと思うと胸がキリキリと痛む。
しかもの好きな奴はモテる奴とか・・・そんなん限られてくるやん。
知りたくないのに知ってしまいそうで嫌だが、今は・・・の杞憂を少しでも解消してやりたい。
自分で自分の胸を苦しめてるのに気付かない振りをして、の問いに少し考えてからその答えを口に出した。
「・・・まぁ、正直言ったらいい気持ちではないな」
「い、嫌な気持ちとかなったりするん?」
「そら・・・ムカついたりもするしイラついたりもするけど、そんなん好きやったらしゃあないんとちゃうん?」
実際、と話してる男子とか見るとムカついたりイラついたりする。
彼氏でもないただクラスメイトのくせに、そんなことを思うなんておかしいなんてわかっていても思わずにはいられない。
好き、なんやから。独り占めしたいとか思うんは普通な感情やって思う。ちゅうか思いたい。
平然と俺がそう言えば俯いていたの顔が上がった。
その頬には、涙を伝っている。
泣いてる女は今まで面倒で仕方ないと思っていたが、今ほどなんとかしてやりたと思ったことは無い。
「っ、・・・?ちょ、大丈夫か?」
「ふっ、普通なんかな・・・っ嫌なことばっか思っても、ええの・・・?」
「嫌なことって・・・のは嫉妬やろ。そんなんも・・・そいつのことが好きでなるんやから別にそこまで悩むことないと思うで」
が今戸惑って苦しんでるのは、そいつが好きでしょうがなくてでる感情で、それが俺じゃないのが、ものすごく苦しい。
これも、嫉妬やな。
こんなにに思われるそいつが憎いし羨ましくてたまらんわ。
ああ好きっちゅう感情は本間に様々は感情を生むから困ったもんやなと俺は苦笑した。
尚も泣き続けるを、俺はただ見てることしかできひんのか。
「こ、んな気持ちになったん初めて、で・・・っ本間にど、したら・・・!」
(泣くなや・・・お前のそんな顔なんて、見とうない)
俺が好きなのはの柔らかい笑顔だ。
止まらない涙に俺の胸の痛みはさらに増していく。
辛そうに眉を寄せながら静かに涙を流すなんて、嫌だ。
・・・俺なら、泣かせたりせぇへんのに・・・。
俺は気付いたら、を抱き寄せその目蓋に唇を寄せていた。
(その直後、の涙が止まり俺たちの間になんとも言えない沈黙と気まずさが残った。)