いつの間にか、俺の隣にお前がいるのが当たり前な日常になっていた
















09
















「席替えするでー」









一瞬、何を言っているのかわからなかった。
は、と思い担任を見るも、黒板にどんどん座席の欄を書いていく。

(ちょ、ちょお、待て、は?席替え?)









「今日で二ヶ月やからちょうどええやろ。ほなクジ引きやるでー」









二ヶ月・・・、もうそんなに経ってたんやな。
長いようで短かった、の隣。
あまりにも満たされていた日が今日で終わりなんて知らんかった。









「ついにこの席ともお別れやな・・・寂しいわ」









隣のが言葉どおり寂しそうな声を出す。
俺も、なんてことは言えずから視線を逸らした。
未だ俺達の間はぎくしゃくとしている。
それが解決しないまま席替えなんて・・・これで完全に俺とは何の繋がりも無いクラスメートになり喋る機会なんてなくなってしまうだろう。
隣だから気軽に話したりすることができなくなるのか・・・。
そうこう考えているうちに、どんどんクジ引きされていき黒板に書かれている座席の欄が埋まっていく。
あと少しでがクジを引く番や。
その次に、俺。
・・・が引いたクジ番号の隣は誰も居らんとええな。





ついにクジを持つ奴がの元に来た。
隣に座るは祈るように目をつぶってクジを引く。
誰かと近くになりたいとかあんのやろか。










「えっと、・・・20番です」









そう言ってが先生に紙を渡しに行く。
20番は・・・・・・・・望みないやんけ。
最悪なことにの引き当てた席は・・・見事に両隣、前後が埋まっていた。
残る空いている場所はと言うとほとんどから遠い席。





本間、ないわ。
俺は溜息をつきつつ、クジが入っている箱に手を突っ込んだ。















「あ、あんな、財前くん。ちょお、話しておきたいことがあんねんけど・・・」

「おー・・・なんや」









神さまなんて本間にいないんやなくそったれ。
ヤケクソ気味で引いたところの席から最も遠い席を引き当てた俺は完全に気分が最悪やった。
もうありえへんわ、クソ神。クソ。
イライラしつつもそれを隠しての言葉に耳を傾ける。
あーこんな風に話せるのも今日この時間で終わりか。









「私、財前くんの隣になれて本間良かった。短い間やったけど、本間に楽しくて、毎日この席に座るだけで幸せでした。 財前くんが・・・その、前に・・・私が泣いてた時なんやけど、そ、その、あの時財前くんにされたこと、・・・めっちゃ嬉しかったです」









は・・・?
それは言葉にならず、心の中で発された。
突然話しかけられてきたこともあるが、それ以前にの言ったことに俺は固まる。


(そうや、冗談、やろ・・・?そんなんまるで・・・、)

座席が決まりざわざわとうるさくなり始める教室で、俺はの顔を呆然と見つめた。









「せやけど、なんで嬉しかったんかわからなくて、 しかも次の日から財前くん見ると顔熱なったり妙に恥ずかしくなったりしてうまく喋れんようになってたん。 ずっと悩んでて考えてたら一週間くらい財前くんのこと避けるようになってて・・・ 自分のせいやってわかってても財前くんと話す機会が減って寂しいなぁとか思て・・・そこで、わかったんや。 その、私な、」









の頬がほのかに紅かみがかっていく。
俺は・・・夢を見てるんやろか?
こんな状況で、期待せぇへん方がおかしいと思う。
密かに握り締めた拳は少し湿っていた。









「私、財前くんのこと・・・好きです。短い間やったけど、財前くんの隣でいれて楽しくて嬉しくて幸せでした。 席、離れちゃっても仲良うしてな?」









最後に、ふわりとが微笑んだ。
俺が今まで見た中で一番、綺麗で可愛え笑顔だろう。

担任の「みんな引いた場所に移動してええぞ」という声が聞こえた。
だけど、そんなことより今は、









「あ・・・早よ移動せなあかんね!じゃ、私、!?」

「・・・俺も、」

「え?」

「俺もの隣で良かった。めっちゃ楽しくて嬉しくて、幸せやったわ。 ・・・・・・これからは席は隣ちゃうけど、俺の隣には居ってほしい」

「・・・え、え?」

「・・・好きって意味や。ほな、また放課後な」









立ち上がり新しい自分の席へ向かおうとしていたの手首を掴んで、耳元でだけに聞こえるように俺の気持ちを伝えた。
が俺と同じ気持ちだとわかると、遠い席になろうが全然構わないとさえ思えてきた。
やって、そうやろ?
これからは席関係なく、俺たちは関わっていける。
ただのクラスメートやない、恋人として、これからとはもっと話していける。
そらもちろん、触れ合ってだっていける。
何かが言いかけたがその前に、俺は自分の席へと移動していく。
今の俺の顔なんて見せられへんわ。
きっと、









「あっ!あたし今日から財前くんの隣にー・・・って財前くん顔赤いでどないしたん?」

「っ別になんでもないわ」









妙に熱い顔を片手で覆いながら、席に着いた。
本間、わかるほど赤いてどんだけや。
適当に新しく隣になった奴をあしらい、の方を見るとあの場所から動いていなかった。
あいつ何してんねん・・・。









「あれーちゃん何やっとるん?早よ動いてなーそこウチの席やねん」

「ほわっ!!ほ、へ!はい!!ごめんね!!」

「??うん、ええよ・・・ってちゃん顔赤ない?」

「っ赤くなんてないで!!」









は間抜けな声を出したかと思ったら、 ぎくしゃくとした面白い動きをし自分の席に移動していく。
顔はものすごく真っ赤で、あと少ししたら頭から湯気が出るんじゃないかと思うほどだ。
まぁ認めたくないが今の俺もと同じもんやろな。
あー・・・、本間全ておいてかなわんわ。









「っ」









ふとがこちらを向き、目がかち合う。
移動し終わって席についたはふにゃりと気の抜けた笑みを見せ俺に小さく手を振り出す。
熱い顔がさらに熱くなった気がした。
とりあえず、小さく振るその手に対し振り返すことはせず『ばーか』と口パクで告げるだけにする。






あぁ、放課後が楽しみで仕方ない。
















(あの席とともに、片思いも卒業した俺は今日一番の幸せモンやろな。そしてこれからも、)