いつの間にかディーノさんの腕の中にいた私は、この展開に頭がついていかなくて、ただ身体を固くすることしかできない。
ディーノさんに会いたいという気持ちが見せてる夢じゃないかとも思えてきた。
こんなのあまりにも都合の良すぎるものだから、まったく現実な気がしない。
言われた言葉も、今ここに彼に、抱き締められてることも全て、全て、私が私に見せてる夢じゃないかって、思ってしまう。
恐る恐る、私は確かめるようにディーノさんの背中に手を伸ばした。
ぎゅっと、彼の服を握り締めれば、そこには確かに彼がいて・・・消えたりなんかしない。
目頭が一気に熱くなる。
ああ、じゃあ、これは本当に、
「ディー、ノさん・・・」
ぽつりと彼の名前を呼ぶと、私を抱き締める腕に力が入った。
その力強さに、ディーノさんにこれは夢じゃない、と言われてるような気がして、
それがすごく幸せで、気を抜いたら涙が出そうになる。
けれど、私はそれを堪えた。
泣く前に一言、ディーノさんに言わなければならないことがある。
すう、息を深く吸い込んで、ぐい、顔を上げて、じっと、不安に揺れてるディーノさんの瞳を見つめた。
「わた、し・・・も、すきです」
言葉にしたら、今ままで溜まっていた心のもやもやがすっと消えていった。
同時に堪えていた涙もポロポロと零れてくる。
泣き顔とか激しくブサイクだけど、今はディーノさんから目を離したくなかった。
「・・・」
「・・・」
チクタクと時計の秒針の音が部屋の中で響き渡る。
お互い見つめあったまま何も言葉を発さない。
・・・。
いや何か言ってくださいよ、と沈黙に耐えかねた私は頭の中で呟く。
涙もだいぶ引いてきて、混乱してた頭も冷静になってきた。
うん、今の状況かなり恥ずかしい・・・!
恋愛初心者な私は、ディーノさんと抱き合っていることに猛烈な照れが込み上げてきて、顔がやばいくらい熱い。
何も言ってくれないディーノさんにも恥ずかしさが・・・!!
て、ていうか、何も言わないのってもしかして、あの、あれ、私聞き間違えちゃって、間違った返答しちゃった、とか・・・!?
あ、えっと、どうしようか、ものすごく夢であれと思えてきたんだけど・・・!
気まずくてしょうがなくなってきた私は涙の跡が酷いぶっさいくな顔を引きつらせ、黙っているディーノさんに控えめに声をかけた。
「あの、」
「・・・」
「デ、ディーノさん?」
「・・・」
無視!?
えっやっぱ私の勘違い告白!?
それでディーノさんってば固まってるの!?
嫌な汗がぶわっと吹き出てきた・・・さっきとは違う意味で泣きそう・・・!
あともう一回呼びかけて返事してもらえなかったら、本気で泣くと思いながらディーノさんの名前を呼んだ。
「え・・・」
「(は、反応した!)えっと、あの、私・・・」
「っあ!!いやっ、その、俺っ・・・」
「な、なんですか・・・!?」
漸く返事してくれたと思えば、ディーノさんはきょどきょどと目を泳がしてみるみるうちに顔を真っ赤にさせた。
それから素早く抱き締めていた腕を解き私から遠ざかる。
それはもうバッという効果音が聞こえるくらいに素早く。
呆然としてる私に、ディーノさんは慌てた様子でまた近づいてきた。
どうしようもない不安にかられていたがディーノさんの反応に再度顔が熱くなってくる。
「あの、さ、さっきのって、ホントか!?俺のき、聞き間違いとかじゃ・・・!」
「え!い、いやっディーノさんこそさっきのホ、ホントですか・・・!?」
「ホントだ!本気で俺は・・・っが好きだ!!」
「っ!!わっ私もディーノさんが、す、好きです!」
ディーノさんにつられて大声で私も自分の気持ちを伝えた。
そして目がばちりと合って、お互い吹き出し笑い出す。
二人して顔を真っ赤にさせて、部屋の真ん中で大きな声で告白しあって、なんていう少女漫画だろうか。
でも、今のディーノさんの言葉で、私はまた夢でなくて良かったと心の底から思った。
さっきまで泣きそうだった自分を思い出すと、さらに笑えてくる。
暫く笑い合っていたが、息が整ってきたところでディーノさんが私の両手をそっと握った。
「っ、ディーノさん・・・」
「俺、マフィアのボスで、一般人とは違う。もしかしたらを危険な目に遭わせてしまうかもしれない。
傷つけて泣かせてしまうかもしれない。そうは思ってても、俺はが好きで・・・言わずにはいられなくて、今日会いに来た。
自分がどんな危ない立場なのかわかってるはずなのに、一般人のお前に・・・
たった一週間しか過ごしてないのこと、自分でも驚くくらい好き、なんだ。
俺の不注意っつぅか、そういうのでに出会って、今こんなにも好きになるなんて思わなかった。
それで、も俺と同じ、気持ちで・・・すごく嬉しい」
「私も嬉しいです・・・」
「でも、俺は・・・、」
「マフィアのボスって危険なんですよね?
実際私はマフィアの知り合いとかいないし、マフィアなんてテレビとかでしか知らない、どんだけ危険なのかなんて
薄っぺらい知識でしかありません。
それでも、私・・・あなたといたいです。
たった一週間だけでも・・・私にはすごい宝物な日々でした。
それを・・・これからも過ごしたいです」
本心だった。
ディーノさんとこれからも一緒にいたいと思うことも、全部全部私の本当の気持ち。
私が考えている以上に危険で大変でとんでもないことばかりだと思うけど、そばにいたい。
それ以外思うことなんて何もない。
何を言われたって私はディーノさんが好きだ!
その想いが伝わるようにぎゅっとディーノさんの手を握り返して、笑う。
きっとそうしたらディーノさんは喜んでくれると思ったから・・・。
「・・・」
「はい」
「・・・お前、本当に・・・」
「はい?」
「どこまで好きにさせる気だよ・・・!」
「へ」
握っていた手を離され、ぎゅむっという効果音がつきそうな感じで抱き締められ間抜けな声を出す私。
突然の抱擁に落ち着いていたはずの熱がまたぶり返してきた・・・めっちゃ熱いよ・・・!
少しもがいてディーノさんの腕から抜け出そうとしたけど、結構ガッチリホールドされてて出れそうな気がしない。
どうしよう恥ずかしすぎて倒れそう・・・などと考えていると、ふと頭に柔らかい感触がした。
「っディ、ディーノさん!?」
「ホントありがとう・・・」
「あっ・・・えっと、わ、私の方こそありがとうございます、ですよ・・・」
「・・・これからもよろしくな」
恥ずかしかったけど、そろそろと顔を上げたら優しく微笑むディーノさんがいて・・・思わず、あなたこそどこまで好きにさせる気ですかと言いかけた。
本当に・・・この人が好きすぎて、泣きそうだよ・・・。
潤みだした目を隠すようにディーノさんの肩に押し付けて、溢れんばかりの幸せを大きな声にして伝えよう。
「はい、これからもよろしくお願いします!大好きですディーノさん!!」
あの日は偶然の出会いじゃなく、私と彼が恋に落ちるための必然の出会いだったんだ。
幸せになるために・・・、私達は出会った。
じゅう。
『ボスはいい女に拾われたんだな』
ロマーリオの一言に俺は苦笑しながら頷いた。
『おう。俺は最高の女に拾われて、最高の女に恋したよ』
「で、最高の女と恋人同士になった。俺、最高に幸せだな・・・」
「はいー?なんか言いましたー?」
「んー別にー」
「そうですか?あ、もうそろそろ鍋のスイッチ入れといてくださいよ」
「わかった」
ああ、改めて最高の幸せを感じる。
そしてとりあえず今は・・・、
(鍋うめー)
(鍋うまー)