「うわ・・・どうしたのその顔・・・」
「・・・まぁ色々ありまして・・・」
「隈も酷いし・・・レポートそんなにてこずってたの?」
「いや、そんなことはなかったよー・・・まぁ、その色々あったんだよちゃん」
「・・・そう。とりあえずあんまり無理しないでね」
「うん、ありがとー・・・」
ふふ、もうダメかもしれない・・・。
ちゃんと別れフラフラとした足取りでトイレに向かう。
昨日は全く寝れなかった。
そらもう一睡もね。
鏡に映る自分の顔に苦笑した。
私の顔には隈でひどいがさらにはバンソコもペタペタとはられていて・・・そりゃ気になるよね。
どうしたのって思うよね。
トイレの個室で腰を下ろし盛大に溜息をつき、もう大昔のように思えてきた昨日の出来事を思い返す。
「いや、え、え?マ、マフィアのボ、ボスさん、ですか?」
「あぁ」
食後のお茶をずぞぞと音を立てて飲むディーノさん。
その姿は非常にリラックスしていて・・・いや、そんな、まさかマフィアのボスなんて・・・見えないよ!!
私もお茶を啜りながらダラダラと冷や汗をかく。
マフィアってあれだよね?あの・・・日本でいうヤクザみたいなもんだよね?
え、この人マジで?まったくそんな風に見えないけど・・・え、マジで?
いくら頭で整理しようとしても、こんがらがった頭では何ひとつ整理なんてできない。
熱でも出るんじゃないかと思うくらい脳をフル回転していると目の前で突如立ち上がるディーノさん。
びっくりして思わず手にお茶を零す。あっつ!!
「いいこと思いついた!」
「ど、どうかしました?」
「、今欲しいもんとかあるか?」
「え、ほしいもの・・・?」
「あぁ。財布なら持ってっから今からなんか奢ってやるよ!」
にかっと笑って私に財布を見せるディーノさん。
財布はパンパンに膨らんでいて自分の財布のことを思い出すとちょっとだけ虚しくなった。
私の財布もいつかそんなふうにしてみたいよ・・・。
ってそうじゃなくて!
「い、いいですよ!!ホントにそういうの気にしなくていいですから!!」
「だからそれはダメだって言ってるだろ!俺の気が済まないから礼はちゃんとする!それでほら、何がほしい?」
「いやえっと・・・えーそんなこと言われても・・・!」
期待満々のキラキラした感じに私を見てくるディーノさんに、今度は違う意味で冷や汗が出る。
うーんうーん、ど、どうしよう。
ほしいものっていきなり言われるとでてこないよね・・・。
唸りながら考えていたが、ふと自分がご飯を食べていないことに気付く。
あぁそうだ・・・今ほしいものは・・・。
「おにぎり、食べたいです」
「・・・おにぎり?」
「はい。私の今ほしいものはおにぎりです」
「おにぎりか・・・そんなんでいいのか?」
「はい。むしろそれがいいです。(お腹減ってるんで)」
「そうか・・・なら今からどっかに買いに行くか・・・ここからならどこが近いんだ?」
「え、普通にコンビニでいいですよ?近いし楽だし安いし」
「ならそこに行くか。俺はが食べたいとこでいいぜ」
食べたいとこって・・・別にコンビニで食べるつもりはないけどね。
そっと心の中でそう呟き、早く行こうと言うディーノさんに頷きながら私は暖かいコートとマフラーと手袋を装着した。
コンビニへの道はそう遠くなかった。
だけど、私はどこかでやんちゃに冒険をしてきたみたいになっている。
その理由はいくつもあるがまず始めに、アパートの階段を下りていたら後ろにいたディーノさんが階段を踏み間違えた。
もちろん避けることも受け止めることもできるはずがない私は、ディーノさんとともに狭い階段でともに転がり落ちる。
次に何故か知らないが、小さな段差に躓くディーノさんの前を歩く私は必然的に巻き込まれ転ぶ。
なんだかディーノさんの前を歩くのが怖くなった私は少し後ろを歩くことにしたけど、今度は後ろに滑ってしまったディーノさんに巻き込まれたりして転んだ。
これはもう呪いでもかけられてるのかな・・・!!と真剣に思った。いくらなんでもこれはひどすぎる・・・!
何度もディーノさんに謝られながら、なんとかコンビニへ辿りついた私たち。
途中、無口になった私にディーノさんがものすごく気をつかって自分の話をしてくれた。
けどほとんどがマフィアの話・・・というか全部マフィア関係の話で泣きそうになったのは内緒だ。
「えーと・・・おにぎりおにぎり・・・あ、これがいいですこれ!!」
「ツナマヨ?これおいしいのか?」
「はい!おいしいですよー!」
「ふぅん・・・じゃあ、あとはなにがいいんだ?」
「え、あとですか・・・?」
お目当てのものがあったことにより落ちていたテンションが戻る単純な私。
それからあと何がほしいと聞いてくるディーノさんにうーんと悩んだあと別にいらないと言うが、またしてもお礼がしたいからじゃんじゃんカゴに入れてくれとディーノさんが執拗に言うので適当に気になったものを入れさせてもらった。
新作のチョコとかジュース。自分のお金じゃなかなか買わないものだ。
「じゃ、これでお願いします」
「ホントにこんだけでいいのか?」
「いいですよー。それに、あんまり食べ過ぎると太るんでこれぐらいで調度いいです」
「ははっそっか。そんじゃもう夜も遅いしさっさと買ってくるか・・・えーっと、財布財布」
私の発言に爽やかに笑い、ポケットをごそごそとし出すディーノさん。
とりあえずカゴをレジに持っていく。
「・・・・・・・・?」
「・・・どうしたんですか?」
もう私のご飯たちが袋に入れられあとはお金を払うだけという時に、ディーノさんはまだポケットをごそごそしていた。
その行動に妙な不安を抱き話かけてみると・・・・・・ごそごそとしていたディーノさんは動きを止め、顔を引きつらせながら私を見る。
え、な、なに?
「・・・ねえ」
「・・・・・・はい?」
「財布がねえ・・・どっかで落とした・・・!」
「は、はい!?ちょっとそれまずいじゃないですか!あんなパンパンなお財布を落としたなんて・・・さっ探しに行かないとですよ!」
「でも俺どの道通ってきたとかもう覚えてねぇよ!」
「大丈夫ですよ私が覚えてます!」
「で、でも会計どうすんだ・・・?」
そ う だ っ た !
いつまでたってもお金を出さない私たちにコンビニ店員さんが冷たい視線でまだかと見ていた。
いつの間にか私たちの後ろにもお客さんが並んでて、軽く睨んでる、気がする・・・!
少しだけ泣きたくなってきた私は、とりあえず自分のお財布を出すことにした。
そして早々に会計を済まし、ディーノさんの腕を取り早足でコンビニを出る。
もうあのコンビニにしばらくはいけないなぁと思った。
「ホント、すまん・・・!!」
「いえ、いいですよー・・・失くしちゃったんですから仕方ないですよ」
「ホントに助けてもらってばっかりで、すまん・・・」
見つけたらすぐ払うから!と両手を前で合わせて私に謝るディーノさんの姿はとても必死で、失礼かもしれないがマフィアのボスになんてまったく見えない。
というか今のディーノさんは怒られてしょぼくれてる犬にさえ見える。
・・・なんかそう思ったらすごく可愛くない?・・・って人が謝ってるっていうのに何思ってるんだか私は!
とにかくディーノさんを宥めつつアパートまで歩き出す。
結果としては・・・結局帰り道に探してみたけど見つからなかったお財布。
コンビニに行った際にできた傷にバンソコを貼りながら(ディーノさんにも)
私の部屋の隅で項垂れてるディーノさんに「もしかしたら明日交番に届けられてるかもしれないから、明日見に行ってきますよ!」
と言って慰めたが・・・彼の心の傷は深かったみたいで先ほどから顔を上げてくれない。
ど、どうしようかなぁホント。
「あのーほら、別に私気にしてないですよー?ね、だからそんなに沈まないで下さいよ!」
「せっかくに礼をしようと思ってたのにかっこ悪ぃな俺・・・」
「そ、そんなことないですよ!ディーノさんはめちゃくちゃかっこいいです!!」
「財布がねぇんじゃホテルにも泊まれないよな・・・」
私の言葉は聞こえないのかディーノさんはそう呟いたあとさらにへこむ。
部屋の中がやばいくらいどんよりして・・・軽く息苦しいんだけど!
確かにお金がないとホテルにだって泊まれないしご飯も食べれない・・・お財布をもっていないディーノさんはまさしくピンチだ。
部下さん達もボスの携帯が壊れてるからGPSが使えなくてすぐ見つけることはできないしで・・・
下手したらディーノさんは路頭に迷いホームレスになり、ボスであるディーノさんがそんな風になってしまったら部下さん達も路頭に迷ってしまう。
・・・ど、どうしよう、そんなのすごく可哀想だ・・・!!
私は今後のディーノさんの将来を考えてると胸が締め付けられた。
たまらず私はディーノさんの名前を呼んでしまった。ホントに何の意味もないけど。
「デ、ディーノさん・・・!」
「ん?・・・あぁ、悪ぃな・・・飯まで食わせてもらったのに何の礼もできずこんな遅くまで居座っちまって・・・」
「いいえ、それは大丈夫です!それよりこれからどうするつもりでいるんですか・・・?」
「これから、か・・・とりあえずはロマーリオ達に会えるまで俺はその辺フラフラしてようかと思ってる。あ、もちろんへの礼はあいつらが見つかり次第ちゃんとするから安心してくれ」
まだお礼うんぬん言ってるよ・・・。
ディーノさんは本当にどこまでも律儀と言うか真面目というか・・・良い人すぎると思う。
本当にマフィアのボスなのかとか思っちゃうよ・・・。
私は、自分の明日のこととかよりあくまでも私にお礼をしようとするディーノさんの姿勢に気持ちが温かくなってくる。
こんなにも律儀で優しくて良い人を私はこの寒空の下、放置してしまってもいいのだろうか?
・・・・・・そんなのダメに決まってる。
私はグッと自分の拳を握り、目の前で暗い影を背負ってるディーノさんに向け、自分の心の中で決めたことを話すことにした。
「あの、ディーノさん。提案なんですが・・・
ディーノさんの部下さん達がディーノさんを迎えに来るまで、私の家に住みませんか?」
「は・・・?い、いやそんな、そこまでにしてもらうわけには・・・それに、俺は男だぞ?しかも今日会ったばかりで・・・マフィアのボスだし、・・・危ないとか思わないのか?」
「私はただ、困ってる人を放ってなんておけない性格なんですよ。それにディーノさんは優しいです。だから大丈夫だと見なしました」
「・・・でも・・・やっぱ迷惑だろ・・・」
「迷惑だったら言いませんよ。あ、けど、強制とかじゃないですからね!ディーノさんがむしろ迷惑だって思うならホテルに泊まるお金貸しますよ・・・少ないけど。」
「・・・本当にいいのか?ここに、居ても・・・?」
「まぁ・・・こんな狭い部屋でよければ、なんですけどね」
「・・・・・・その、ありがとな。そんじゃその・・・悪ぃけどしばらく世話になるぜ」
本当に申し訳なさそうに眉を下げながら言うディーノさんに、なんだかこっちまで申し訳なくなってきて微笑むしかできなかった。
ちょっと、お節介すぎたかな・・・?
少し不安になって俯くと、ディーノさんに優しく頭を撫でられて顔を上げる。
するとそこに優しげに目を細め微笑むディーノさん・・・やばい周りに花が見えるくらい、すごい綺麗な微笑みだ。
私は胸をドキドキさせながらその姿に見入っていると、「俺、お前に拾われて良かった」と言ってくしゃりと髪の毛を乱される。
その一言でさっきの不安は一気に消え去り、私はそっと安堵の溜息をついた。
やはり言ってよかった・・・。
と、ここまでは良かった。いい雰囲気!
しかし、それからディーノさんに住むにあたっての注意事項をさらりと言って寝る場所の指定にお風呂の話もした。
そしてお風呂の時にディーノさんが服がないと言って慌てて裸のまま出てきてそこでまたプチハプニングがあったのは言うまでもないと思う。
もちろん寝る時もプチプチハプニングがあったのは・・・言うまでもない。
に。
そんなわけで、昨日のことを思い出しただけで疲労がどっとでてきた。
いいこともあったけど、ついてないこともたくさんあったからね・・・。
なんていうか・・・・・・・・・・ディーノさんって天然だわ。
ドジなとこも加わってるから余計大変だ。
でも困ってる人(マフィアのボスだけど)はやっぱり放っておけないよね。
そりゃお金もないしさ、貧乏だし部屋も狭くて不便かもしれないけど、私にできることならなんでもしてあげたい、
そう思ったから。
私は鏡に映ってる情けない自分に叱責してトイレを出た。
(一度決めたんだから・・・ディーノさんの部下が迎えに来てくれるまでがんばるぞー!!)