ディーノさんがお風呂に入っている間に洗濯をしよう。
ディーノさんの下着を恥ずかしがることなく洗濯機に突っ込む。
お父さんやお兄ちゃんので見慣れているので今更照れることはしない。
他の洋服も同様に入れていく。(ディーノさんの臨時の服は古着屋で買った。下着は新品だが。)
これで最後・・・。そう思い摘み上げた服からごとりと何かが落ちた。
(ん?なんだろ・・・?)
目線を下にやれば、何やら鞭みたいのが落ちている。
(なんだ鞭か・・・・・・・・・・・・・・む、鞭ぃ!?)
思わず目を瞠ってしまった。
いや、だ、だってこんな・・・む、鞭って・・・何で鞭・・・!?
見た目からして結構鞭が太いから攻撃されたら蚯蚓腫れなんて可愛いものじゃ済まないだろう。
確実に・・・気絶するぐらい痛いと思う(私だったら)
こんなの何に使うわけ・・・?というか鞭なんてア、アダルトなイメージしかないんだけど・・・!
一瞬、ディーノさんが鞭を持って女の人を叩いてるイメージが浮かびすぐさまかき消した。
いやいやいやディーノさんがそんなことするわけないよ!
ちょっとの時間しか過ごしてないけど、優しくて良い人だもん!
自分のひどい想像に半泣きになりながら、さきほど思い浮かんだことを否定した。
けど、ふと思い出す。
(・・・そ、そういえば、ディーノさんってマフィアのボスさんなんだっけ・・・。)
もう一度まじまじと鞭を見た。
で、でもボスの武器が鞭って・・・なんかパッとしないよ、ね?普通に考えて武器とかって銃とかじゃないのかな?
ま、まぁだからと言って?銃が出てきたら嫌ですけど?
ディーノさんの服から銃が出てきたことを想像してこれまた泣きそうになった。
マジで怖いわ・・・。
私は溜息をついて鞭から視線を逸らす。
(・・・と、とりあえず鞭のことは置いといてさっさと洗濯しちゃおう)
摘み上げたままだった服を入れて、ようやく洗濯機をまわす。
鞭は・・・どうするべきだろうか・・・?
見なかったことには・・・できないよね、うん。
しばらく鞭を見つめていたが、そろそろディーノさんがお風呂から出てきてしまうことに気付き私は洗濯場から退散した。
だ、だってあそこに放置もよくないでしょ!
***
「鞭って・・・ああ、それは俺の武器だぜ」
「ぶ、武器ですか!?」
「武器だ」
「・・・まさかとは思いますが、銃とかも、持ってたりします・・・?」
「いや、俺は持ってないな・・・というか持つの忘れてたんだ。ロマーリオ達に持っとけって言われてたんだけどよ」
そう言ってははっと笑うディーノさんにこの人がボスで部下の方々は本当に大丈夫なのだろうかと本気で心配になってきた。
さきほどの鞭はテーブルの上に乗せ、そのテーブルを挟んで私とディーノさんは向かい合わせで座っている。
お風呂上りのディーノさんは頭から湯気を出しながら「これなーレオンが吐き出してくれたんだよな。そういやエンツィオの奴はどうしてっかな・・・あ、エンツィオもレオンから生まれたんだよ」と揚々と語った。
レ、レオンってやつから吐き出された鞭って・・・わけがわからないんだけど・・・。
それでエンツィオはレオンから生まれた・・・?
レオンって何者なわけ!?
大混乱しまくりな私にはまったく気付かないディーノさんは思い出に浸っている模様。
やばいくらいついていけない。
「俺も最初の頃はマフィアのボスになんか絶対なんねーとか思ってたけどなぁ・・・」
「え?そう、なんですか・・・?」
「おう、クソくらえとか思ってた」
それが今じゃんなこと思ってた職に就いてさらにはボスなんだから笑っちまうよな、とディーノさんは苦笑いともとれる笑みで言った。
私はというと、マフィアって職なのか・・・?と空気が読めないにもほどがあることを思っていた。
「まぁ、それもこれもリボーンのおかげだ」
「リ、ボーン?(またカタカナきた感じ・・・?)」
「俺の元家庭教師」
家庭教師・・・、家庭教師って勉強とか教えてくれる人だよね?
え、そんな職業の人がマフィアと何の関係があるの?
本気でわけがわからないんだけど!
さすがにこれはきちんと説明してもらいたかったけど、ディーノさんは懐かしむように瞳を細めて天井を見つめていたのでなんとなく聞けない。
なんていうか・・・雰囲気が聞いちゃいけない、みたいな。空気読めてるよね、私?
ジッとディーノさんがまた話し出すのを待っていたら、ふいに自分の左腕に掴み袖を捲くった。
その行動に首を傾げながら見ていると、なにやら刺青が描かれている。
刺青とか生で初めて見たかも・・・!
変にドキドキしながら見入っているとディーノさんがプッと噴出す。
「な、なんですか?」
「いや・・・刺青そんなに珍しいか?」
「はい。周りに刺青なんてしてる人いないですし・・・というかすごいですね・・・なんというか、・・・綺麗です」
「綺麗、か・・・ありがとな。これ、実はボスの証みたいなもんなんだ」
「え!?そうなんですか!?」
「ああ」
ボスの証と言われてますますその刺青に目が釘付けになる。
私の想像していたボスの証というのは怖いものを想像していた。
たとえば、指が何本かないと顔に傷が入ってるとか・・・ってこれヤクザか。
まぁとにかく怖いイメージがあった。
けど・・・ディーノさんのこれは、全然違う。
綺麗、その一言につきる。
デザインは細かくて繊細でついつい顔を近づけて見てしまいたくなるくらいだ。
私はディーノさんが何も言わないのをいいことにじいっと見続けているとある動物がいることに気付いた。
「ディーノさん、それ・・・馬、ですか?」
「ん、おおそうだ」
「・・・ディーノさんのマフィアは馬が好きなんですか?」
「んーさぁな?・・・あ、ちなみに俺、跳ね馬のディーノって言われてんだ」
「跳ね馬・・・!ディーノさん馬好きなんですね!」
「はは、別に俺がつけたんじゃないんだけどな」
困ったような口調とは裏腹に、表情は誇らしげな顔。
そこから見るに、どうやらその名を結構気に入っているみたい。
跳ね馬のディーノ、か・・・なんかやんちゃっぽい感じがする。
そんなことを思ってまた刺青を見ようとしたが、いつのまにか刺青は袖の中に隠れていた。
・・・ちょっと残念。
「んじゃ、もう遅いしそろそろ寝るか」
「・・・そうですねー」
「?なんか機嫌悪くないか?」
「気のせいです気のせい」
話もいい具合に切れたので就寝準備に取り掛かる。ディーノさんのね。
まず立ち上がりディーノさんが寝るためのスペースを作るためテーブルを端に寄せた。それから布団を取り出す。
全部私がやっているので、ここで寝るのディーノさんなんだから手伝ってよとか思ったが、手伝う暇もなくさっさと布団を敷いてしまう私も私かとも思いなおす。
・・・こう思うと私ってかなり世話焼き、かな・・・?その事実に苦笑が浮かぶ。
何はともあれ、ディーノさんの布団の準備も整ったので、部屋の隅にいるディーノさんに声をかけようと振り向いた。
しかし、鞭を持って佇むディーノさんに私の動きが止まる。
・・・?
「?」
「あ、はい」
「布団また敷いてくれたんだな・・・わり、何も手伝えねぇで・・・」
「いえ・・・」
「・・・どうかしたか?」
「あ、なんでもないですよ」
あれ、と思った時には違和感が取れてて、ディーノさんがこっち向いていた。
鞭を寄せられたテーブルの上に置き、ディーノさんが布団に腰を下ろす。
それを見て私は部屋の電気を消して、私もベットに入り横になった。
「あの、ディーノさん」
「んー・・・」
「おやすみなさい」
「・・・おやすみ」
完全な暗闇ではない部屋でチラりとディーノさんの方を見てみると、彼は私に背を向けていた。
それに、何故だろうね・・・少しだけ、寂しいと感じた。
よん。
私はベットの中で、さっきのディーノさんの姿を思い出す。
不自然に私の動きが止まってしまったのはきっと・・・ディーノさんと鞭の組み合わせがどうもピンと来なかったからだ。
ディーノさんには武器なんてものが心底似合わないと思う。
・・・なんてボスに対して失礼だよね、こんなこと思うの。
(あと思うのが、ディーノさんが銃とか持ったら見た感じかっこいいけど、確実に危ないよね。主に味方が・・・ってこれも失礼か)