「合コンに・・・行こうと思ってるんです、けど・・・」
「へぇ、そうか」
「あの・・・そこ、通してもらえませんか・・・?」
「今、何時だと思ってるんだ?」
「え?6時ですけど・・・」
「子供が出歩く時間じゃないぞ」
「いやいやいや、私もう成人してますし。6時で子供が出歩く時間じゃないって・・・今時の小学生でもないですよそれ」
合コンが始まる一時間前。
玄関に立ちはだかるはかっこいい外人のお兄さん、もといディーノさん。
先程からずっとこの押し問答をしていて、私を外に行かすことを拒んでいる。
しかし私を行かせないために言っている内容が・・・なんともいえない。
6時で子供が出歩く時間ではないとか・・・いやある意味正しいが私には適応されない。
私は今年で21だ。ちゃんと成人してる。
小学生でも中学生でも高校生でもない、大学生。
そろそろ自分の年齢=彼氏いない暦に終止符を打ちたいのだ!
よって合コンに行き素敵な人と出会えたらなぁって思ってる。
それなのに・・・なんで邪魔をするのかなぁもう!
「成人してると言っても俺よりは年下だろ?それじゃあまだまだ子供だ」
「・・・ディーノさんおいくつなんですか・・・?」
「22」
「22!?私より1歳年上なだけじゃないですか!って私より1歳年上なだけ!?」
「え、って21なのか?」
「え、ええ、今年で21です」
「・・・いや、俺早生まれだから。本来なら23だから。2歳差だから」
「いやいや、本来とか言われてもディーノさんが早生まれで22という事実は変えられませんから」
私の指摘にディーノさんが視線を泳がす。
たった1歳上なだけでこんなにも子供扱いされるのは少々不満である。いや!大いに不満だ!
というか、ディーノさんの実年齢に内心動揺しまくりな私。
ディーノさんって色気とかそういうのするからもっと上かと思った・・・20代後半みたいな。
決して老けてるとかそういうことではなく、大人の色気があったので勝手に20代後半と解釈していた。
お互いがお互いの年齢に衝撃を受け少しの沈黙が降りたが、壁に立てかけてある時計が視界に入り私は本格的に慌てだす。
「デ、ディーノさん!合コンで行く場所ちょっと遠いんです!だからもう行かないと遅刻しちゃいます!」
「じゃあ合コンなんて行かなくていいだろ」
「どうしてそうなるんですか!ちゃんと晩御飯作ったでしょ!それでも食べて留守番しといてくださいよ」
「合コンなんて行ってどうするんだ?」
「そりゃ彼氏ゲットですよ」
「俺は合コンで彼氏作ったって長続きしないと思うぜ」
「う、いや、でも、そんなのまだわからないじゃないですか・・・!」
ぶっすりとした表情で玄関からどこうとしないディーノさんに私のこめかみがヒクヒクとしだした。
なんでそんなに私を行かせたくないのか・・・本当にわからない。
そんなに私って子供っぽいのかな?自分的には歳相応な感じだと思うんだけど。
そんなに私って恋愛できなさそう?・・・そりゃ付き合ったことなんてないけどさ。
そこまで否定的に言わなくても良くない?
彼氏作るぞーっていう上がっていた気分が急降下していく。
「なんで・・・、」
「?」
「なんでそんなことばっか・・・言うんですか。そんなに私ってダメですか?どうして・・・」
ディーノさんなんて私のこと全然知らないくせに、それなのに、あんなに否定的に言ってきて、 すごく悔しくなって、私は震える拳を強く握る。
するとディーノさんは小さく何かを呟いた。
でも私には何と言ったのかまったく聞こえなくて、ディーノさんの名前を呼ぶ。
けどディーノさんは私をじっと見てくるだけで何も言わない。
なに、私はエスパーじゃないんで見つめられただけじゃわからないんですが・・・。
私が言い出すまで黙っていることに気付いたのか、困ったように観念したようにディーノさんが溜息をついた。
いや、むしろ溜息をつきたいのはこっちなんだけどな・・・。
ちらりと掛け時計を見れば、待ち合わせにはもう間に合わない時間になっていた。
どうしよう、このままでは本当にまずい。
もういっそのことディーノさんを突き飛ばして玄関からどかそうか。
そんな危ないことを思案してると、控えめに私のバックを持つ腕を引かれる。
変なことを考えてたのがバレたのかとか一瞬思って顔がひきつるが、そうではないみたいだ。
そろりとディーノさんを見上げると、彼は複雑そうな表情をして私を見ていた。
それに首を傾げると、ゆっくりと口を開きだす。
「飯を・・・一人で食べるのって、どうも慣れないんだ。
の飯はすごくうまいんだけど・・・と一緒に食べた方がもっとうまく感じる。
俺の方が子供っぽいこと言ってるってわかってるんだ。
けど、寂しい。ここで、今、頼れるのはそばにいてくれるのはしかない。
だから・・・合コンに行ってほしくない。そう思うのって、ダメか・・・?」
それから小さく嘲笑を浮かべるディーノさんは、なんて卑怯な人なんだろうと思った。
私だって、一人暮らししてから一人のご飯がどれだけ寂しいということかわかってる。
ディーノさんと出会ってから、ご飯がいつもよりおいしいと感じるのも、わかってる。
私だって、今、頼れるのはそばにいてくれるのもディーノさんだってこともわかってる。
だからさ、そういう風に言われてしまったら、
「・・・わかりました。行きませんよ」
「え・・・、ホ、ホントか・・・?」
「本当です。ていうかもう時間的にも間に合わないし・・・あーとりあえずユイコちゃんに連絡しないと・・・」
「、」
「はい?」
「ありがとう、な」
目を細め優しく微笑まれ、私もそれに笑みがこぼれる。
ろく。
「ごめんね、ほんとーにごめんねユイコちゃん!」
『んーまあいいわ。あんたの彼氏ができない歴史が増えるだけだし』
「ユイコちゃん怒ってます!?その言葉私の心を深く削りましたけど!」
『ドタキャンされて怒らないほど、できた人間じゃないので。・・・けど、体調不良じゃ仕方ないわね。明日までには治しといてね。じゃなきゃ今日の分の埋め合わせしてもらえないから』
「う、うん!頑張って治します!そ、それじゃユイコちゃん、私を裏切らない程度に頑張って!」
『馬鹿。あんたに合わせて彼氏作らないほどできた人間じゃないから。裏切るから。じゃまた明日』
プツッと切れた電話を握り締めて、悔しさに震える体。
わ、私だって本当は行きたかったんだから!
でも、でも・・・!
ギッと後ろを振り返る。
そこにはテレビを見ながら呑気にわははとしてるディーノさん。
私が行かないと宣言したらこれだ。切り替え早すぎる。
その姿に内心チクショウと呟きつつ、用意してなかった自分の分の晩御飯の準備をする。
・・・うん、用意してたディーノさんの晩御飯よりちょっと豪華にしてやろう。
(なんだかんだ言って・・・私はディーノさんに甘くなってるような、気がするなぁ・・・)