急展開すぎた。
私の脳はこの出来事に全くもって処理できてない。






「あ、の・・・」

「いやぁ今まですまなかった!ボスが世話になったなー」

「あ、いえ・・・」

「ボスも遅くなって悪かったな」

「ホントにな」

「でもボスも悪いだろ」






私の目の前で繰り広げられる会話、光景。
頭がついてかない。
目の前の人たちは真っ黒なスーツを着た、おじさんたち。
口々にボスが世話になったなと私に言う。



そう、実は・・・ディーノさんのお迎えが、ディーノさんを拾ってちょうど一週間の今日やってきたのだ。




***




「ディーノさん、夕飯何がいいですか?」

「そうだな・・・んー・・・あ、鍋食いたい」

「鍋ですか・・・今日は寒いですし、ちょうどいいですね。何鍋にします?」

「ごま豆乳鍋が気になる」

「じゃ、それにしましょう」






ディーノさんの夕飯リクエストを聞いて、私は重い腰をあげる。
初めてディーノさんと買い物に行った時は本当に酷かったなぁー。
今はもう遠い過去のように思われる・・・あのコンビニ話は・・・。






「なぁ、鍋になに入れんだ?」

「野菜たんまりですよー」

「肉は?あ、肉団子入れてくれよ!」

「肉団子ですかーいいですね!いれましょうか!」






上着を着て、何を買うかリストアップして、ディーノさんにエコバック持ってもらって、さぁ出よう!
とした。
しかし、ドアノブに手をかけた瞬間に、呼び鈴が鳴る。
あまりのタイミングにディーノさんが私の後ろで声を漏らした。
私も声は出しはしなかったが、肩をびくつかせてしまった。






「ナ、ナイスタイミング、だな・・・」

「ですね・・・」






ははっ、と二人して笑って、のぞき穴を見ず、私は普通に扉を開けた。






「はいは・・・・・・いいいいい!?」

「ぅおっ!?ど、どうした!?」

「あっボス!!」

「えっあっロ、ロマーリオ!?」

「ロ、ロマーリオ!?えっ知り合いですか!?」

「俺の部下だ!」

「え、えええ!?」




***




そして冒頭に戻る。
玄関で再会を喜ぶディーノさんと部下の方々。
よく見ると、アパートの下の駐車場にもいる。
なんていう人の多さ・・・!
なんかディーノさんはマフィアって気がしなかったけど・・・このおじさん方が顔が怖い人がちらほらいるから、マフィアですって言われても納得できる・・・。
私はそんなことを思いながら呆然とディーノさん達のやりとりを見ていた。
たまに私に部下の人達がお礼を言ったり話しかけてきたりしてくれる。
まあ話す内容が大半はディーノさんを茶化すような話で、そのたびディーノさんが必死弁解していて面白かった。
ふと、ディーノさんの側にいた一人の(部下の中でも一番ダンディーと思われる)ダンディーなおじさんが私の目の前にきた。
・・・ち、近くで見るとな、なんか怖い・・・!ていうかでかい・・・!






「あ、あの・・・」

「嬢ちゃん、本当にありがとうな。ボスの世話大変だったろ?」

「は、はは・・・(笑うしかできない・・・!)」

「この礼を今すぐにでもしたいとこだが、ボスがいなかったせいでちょっと仕事が溜まっててな・・・後日この礼はちゃんとさせてもらうな。それでもいいかい?」

「いえ、そんなお礼なんていいですよ・・・!」

「ダメだ。なんたってボスの恩人なんだからな」






ダンディーなおじさんは私にそう言うと、優しく笑う。
その笑顔に、ディーノさんは部下の人達にすごく愛されてるんだな、と思った。
ディーノさんの笑顔も、すごく嬉しそうに幸せそうでディーノさんも部下の人達が大事なんだということがわかる。
いいな、その言葉が私の頭に浮かんだ。
って、何がいいんだろ?
首を傾げて悩みだす、直前にダンディーなおじさんがディーノさんに大きな声で呼びかけた。






「おーい、ボス!!そろそろ時間だ!」

「え、時間って・・・マジか」

「マジだよマジ。さ、行くぞ」

「あー・・・うん、わかった」






ダンディー(仮)さんとディーノさんの短い会話のうちに、玄関と家の前にたくさんいた黒スーツのおじさん達はぞろぞろと出て行く。
それにきょとんとしてしまった私に、ダンディー(仮)さんが苦笑した。






「大勢でいきなり来て礼もせずいきなり帰って本当にごめんな、嬢ちゃん。それじゃあ、また今度改めて礼をしにくるからな。本当にボスが世話になった」

「いえ・・・」






ダンディー(仮)さんはそれだけ言うと、他の黒スーツさん同様出て行く。
玄関に今残ってるのは・・・――――ディーノさんだけだ。






「なんか、その、急だったな・・・」

「そう、ですね・・・で、でも良かったじゃないですか!やっとお迎えが来たんですから!」

「まあな・・・そうだな。その、ホントにありがとな。見ず知らずの俺に良くしてくれて・・・」

「私がしたいと思ってやったことですから、そんなに気にしないでくださいよー」

「それでも、俺は助かったんだ。に助けられた。あのままじゃ、あいつらに会う前にどうなってたかわからない。だから、本当にありがとう、






私が今まで見たディーノさんの表情の中でも一番・・・寂しそうに笑った顔を見て、息が詰まる。
ディーノさんのことだから笑ってバイバイみたいなのにと思ってた。
それなのに、こんな・・・。
言葉が続かない。
どうやら私は、とても混乱してるんだと今気付いた。
ディーノさんが言ったことにも言いたいことがあるのに、何も浮かばない。
ただ、なんでどうして、だけが自分の中で繰り返される。
ディーノさんの顔を見ていると、何故だか言ってはいけないことを言ってしまいそうな気がしてきてしまって、私は咄嗟に顔を俯けた。
妙な沈黙が降りる。
でもそれは数秒だった。
外でディーノさんを呼ぶ声がして、ディーノさんがそれに答えて、私の頭に何かが乗った。






「・・・んじゃ、行くな」

「はい・・・」

「短い間だったけど、世話になった。まだ言いたいこととかあったけど、あいつらうっせぇんだよな。・・・もう一回言うけど、ありがとな・・・」

「はい・・・私の方こそありがとう、ございました・・・」

「あのな・・・俺、に会えてよかったぜ。元気で、な・・・」






永遠の別れみたいな言葉に、何も言えず俯いている私の頭を軽く撫でてから、ディーノさんは私から遠ざかって行った。 扉の閉まる音を聞いても、私は顔をあげることはできなかった。












なな。












外が暗くなり始めた頃、漸く顔をあげた私は買い物に行く途中だったことを思い出した。






「あ・・・夕飯の材料買いに行かなきゃ・・・でも一人鍋はあれだからなんか違うの、作ろう・・・」






呟いた言葉は想像以上に玄関に響いて、途端に目頭が熱くなる。






「もう、わかってた、ことじゃない」






わかってた、わかってた、わかってた、よ。
なのに、なんで、こんなにも・・・胸が痛いんだろ。
私は・・・何を、わかってたんだろ・・・









(久しぶりに食べた、一人でのご飯。すごく・・・―――――寂しい、)