あの人がいなくなって、約一ヶ月が過ぎました。
いやー、時が流れるのは早いものだなー。
自分の恋に気付いてからもう一ヶ月です。
まあ別に何ら変化はないんだけどね。
けど、心配をかけてしまったユイコちゃんには大泣きした3日後ぐらいに、あの人と過ごした一週間を話した。
その時、なんで言わなかったとかイケメン見たかったとか殴られたり蹴られたりパシられたりして・・・うん、これからはユイコちゃんに隠し事はやめようと思った。


そんなこんなで私は、・・・やっぱ時々は寂しくて泣いちゃったりするけど、あの人が、ディーノさんが来る前の生活に戻っている。
何の変哲もない、大学行ってバイト行って一人の家に帰ってくる、繰り返しの日々。
それも平和なことだと思えば確かに平和で、変わりない日々につまらないと言えばつまらないものだ。
・・・違うか。
これが『普通』だったんだ。
ディーノさんと出会ったから、この『普通』がつまらなくなっちゃったんだ。


と、またディーノさんを思い出すと鼻の奥がツーンとする。
なにやってんだか私は・・・。
講義が早く終わって久々にバイトもないからのんびりしようと思ってたのに・・・このまんまじゃ泣き泣きの一日になりそうだ。
それは避けたいなーなんて他人事のように思いながら家路を歩く(自転車はいまだ買えていない。)
今日はお酒でも飲んで気を紛らわそうかな・・・でも私そこまでお酒好きじゃないんだよね・・・。
というか、家にお酒あったっけ?
いや、なかった気がする・・・。
家にある飲み物って牛乳と水だけだったような・・・?
・・・ジュースでも買おうかな。
甘いもの飲んだ方が気が紛れるように思えるし・・・あ、甘い物も食べよう。
ケーキとか食べたいな!
最近食べてなかったし!
うふふ、何食べようかなぁーって言っても買いに行くのはスーパーだからなー。
と、言ってもー今日は家に財布忘れてきたからとりあえずは家に帰ってからじゃないとダメだな。



あと少しで私の住むアパートにたどり着く。
角を曲がれば、私の住むアパートだ。
角を曲がれば、一発で見えてくる。
そう、角を曲がればちょっとだけ古いアパートが見えるわけで、そんな古いアパートの前に黒塗りのベンツがあるなどと・・・、 そこから、金髪の人が出てくるなんて、その金髪の人が私に向けて手を振るなんて、そんな、えっ、あれっ、ええ!?






「デ、ディーノさん!?」

「よっ、久しぶりだな」

「いやっえっ・・・ど、どうしたんですか・・・!?」

「あー・・・まぁそのー・・・ほら、にまだ礼とかしてないと思ってよ来たっつぅか・・・いや、まあ、うん」






信じられない。
今、この、目の前の光景が信じられない。
さっきまで、思ってた人が目の前にいる。
泣きそうになったりしながら思ってた人が・・・。
うわ、これ夢?
私ついに頭おかしくなった?
だって、ディーノさんとまた会えるなんて・・・。
いや、会いたいとか思ってたけどさ、会えないって思ってて、あの、あれ、私ディーノさんと会ったら言いたいことあったよね?
うわ、あれ、やばい、どうしよう、嬉しいけど頭の中が混乱する・・・!
何とも言えない顔で、同じく何とも言えない複雑な表情を浮かべるディーノさんを凝視してたら、気まずそうに目を逸らされた。






「あ、の・・・」

「さ、最近どうだ?元気にしてたか?」

「え、あ、はい、元気でしたよ・・・・・・ディーノさんは・・・?」

「元気だった、かな・・・」

「そうですか・・・」

「・・・」

「・・・」






そして、沈黙である。
・・・あれ、あれれ?
なんでだろう・・・何故か、うまく話せない。
私が意識しすぎなのだろうか?
ディーノさんもなんだか少し緊張している気が、する。
何故だろうか・・・。
今度は私から何か言おうとしたのだが、真っ黒のベンツの窓が開いて、あの時話したダンディーさんが顔を出した。(!?)
い、いたんですか・・・!






「ボス、俺はちょっくらそこら辺フラフラしてくるぜ」

「ロ、ロマーリオ?」

「なんか時間がかかりそうだからな」

「!!」

「あ、嬢ちゃん久しぶりだな」

「お、お久しぶりです・・・」






ディーノさんに話しかけてたと思ってたら、人の良さそうな笑みを浮かべて私に手を振る・・・ロ、ロマーリオさん(やっと名前が判明)
私も手を振り返そうとしたがベンツのエンジン音が聞こえ始め、ん?と思う間もなく「ボスのことよろしくな」と謎の一言を残し、発進してしま・・・ってええええ!?






「あ、ちょっ・・・!」






私の声はエンジン音に消され、遠ざかっていくベンツ。
あの一言はなんだったんだろうか・・・。
風のようなロマーリオさんの去った後を呆然と見つめていれば、背後で小さな声が聞こえて振り返った。






「え?今何か言いましたか?」






そう聞けば、何故か俯いているディーノさんがこくりと頷く。
あ、どうしよう聞き逃した。
何を言ったか聞けなかった私は申し訳ない気持ちでディーノさんに聞き返すことにする。






「あの・・・すいません、何て言ったか聞き取れなかったんですけど・・・もう一回いいですか?」






私の一言にディーノさんの肩が揺れた。
・・・もしかして具合が悪いのかな?
そっとディーノさんに近づいて顔を下から覗こうとしたら、ぐいと強い力に腕を引っ張られて・・・、
――――――突如私の視界が真っ暗になる。









「へ・・・?」

「・・・き、だ・・・」






温かい暗さの中で・・・・・・私の心臓は破裂しそうなくらいの鼓動をしていた。












きゅう。












『す、好き、だ・・・』






震えた弱々しい声で、彼は確かにそう言った。









(混乱する頭の中、私はこれは夢なんじゃないかと思い始めた)