同じ時間帯に携帯がブルブルと震える。 着信を知らせるランプに私は深いため息をついた。 あー・・・マジでめんどくせー・・・。 この数週間、ずっとお約束の如く毎日同じ時間帯にかかったくる電話にうんざりする。 しかし出ないと後々もっとめんどくさいのでシカトするわけにもいかない。 ていうかあの人どんだけ暇なの? 確かバスケの大会は負けたとかなんとかで私の彼氏よりは暇なんだろうけど・・・ いやだからといってないわーこれはないわー。 一日にメールしてくる回数も電話かけてくる回数も彼氏より多い気がする。 言うてもほとんど嫌がらせみたいな内容ですけどね!! 腹立ってますけどね!! とにかく私は毎日迷惑メールと迷惑着信を、同じ人間からやられている。 どうにか断ち切ろうと頑張ってみたものの・・・あちらのが私なんかより頭もよく切れもよくで、私の抵抗は全然通用しなかった。 そんなわけでそろそろ出ないと本気でまずいかな・・・はあ。






ピッ



「・・・もしもし」

『出るの遅いんだよ。てかメールシカトとか性格悪いな』

「いやさっき送ってきたの空メじゃないですか・・・どう返信しろと」

『俺からのメールはどんなでも返すって常識じゃん」






はっと鼻で笑われて言われた言葉は初耳の常識だ。 花宮先輩・・・この、花宮真は名前はそらもうお花がついちゃってて可愛いー!とかなるけど、中身は本当に名前の可愛らしさなんて微塵もないクソ野郎だ。 とは言え、この花宮真クソ野郎は年上・・・つまりは先輩にあたるわけで、さらには彼氏の友達ということで無下にもできない。 なんてったって彼氏の友達ですからね・・・! 私的にはそこが重要だったりする。 私の大好きな彼氏の友達じゃなけりゃ花宮先輩と関わることは一生なかったと思う。 ちなみに私の大好きな彼氏は誠凛高校2年バスケ部の木吉鉄平先輩だ。 朗らかで優しくて寛大でバスケめっちゃうまくてかっこよくて笑顔可愛くてたまに抜けてて・・・ああっもうホント好きです!! 思い出すだけでも胸がときめく。 自分でも相当重症だと思うくらい好きな人だ。 そんな大好きでしょうがない鉄平先輩のお友達ということで、私は日々花宮先輩の嫌がらせにも黙って耐えてきてるわけですが・・・、 ホントこの人ってば私のことボロクソ言いすぎなんだよね! ちくしょう・・・人が下手に出てりゃあ調子に乗りやがって・・・! なんて何度も思ってるし、何回も心の中で花宮先輩を平手打ちしてる。 まぁ思っているだけで決して口には出さないしやらないけど! にしても・・・本当にこの人はベラベラベラベラと・・・、






「クソ野郎が・・・っ!」

『あ?お前それ誰に言ってんの』

「ハッ・・・な、なんでもないですぅていうか私に電話してくるなんてぇどんだけ花宮先輩暇なんですかぁ?」

『話したいからかけてんだよ』

「へー・・・えっ!?」

『って、んなワケねぇだろバァカ。暇じゃねぇよブス』

「っああん!?だったら電話かけてこないでくれます!?そしてブスとか!!あんたそれ!!それ・・・それ知ってるから言わないでください!」

『木吉もよくお前みたいなブスと付き合ってられるよな』

「うっ・・・!」

『お前みたいな性格凶暴のゴリラで見た目もブスとかさ、付き合うの大変じゃね?』

「うぐ、ぐぐ・・・し、知ってますけどぉ・・・私がどんだけ性格ブスでブス女か知ってますけどぉ」

『ふはっ違う違う。性格はゴリラ』

「うるっせぇよ!!もういいよ!嫌がらせだけならもう切りますからね!」

『なぁ』

「、なんですか!」

『ブス』



ブッチィ!!!






まじ死ねばいいあの性根悪男・・・!!! 携帯を全力で床に叩き付けそうになった。 でもダメ・・・携帯に罪はない・・・そう、携帯は悪くない、あの男の存在が悪い、悪です、滅ッ! ハァハァと何故か息切れしてる私はとてつもなく疲れ果てている。 電話してただけなのに・・・! 思わずキィッ!と声を出してしまった。 ぼふぼふとクッションを殴っていると今度はくしゃみが出て止まらない。 まさしく踏んだり蹴ったり・・・! などと思いつつ、一人で何してんだろ・・・とふと現実にかえったりして、なんとも言えない疲労感。 もう寝ることにしよう・・・。 チッと舌打ちをしてもぞもぞと布団に潜り込む。 携帯がチカチカとメールを知らせていたが、それを確認することすら億劫になっていた私は誰からのメールかも見ないでそのまま寝入ってしまった。 もちろん今日は花宮先輩に鼻フックする夢を見る予定だ。



――――――――それが、昨日の出来事。



目覚ましの音とともに朝起きて携帯を確認して・・・絶叫。 すぐさま下にいるお母さんに怒鳴られて慌てて大声で謝ったらそれも怒られた。 ってそんなことより!! 携帯画面を再度見て、起きたというのにまた布団に逆戻りしたくなった。 だって!!! そんな!!! 私が寝たあとにきてたのって・・・大好きな鉄平先輩からのメールとかぁ・・・!!! ガクリと布団の上で項垂れる。 あの時の私に心の余裕が少しでもあればよかったのに・・・。 もうなんていうか申し訳なさ過ぎて私はいまだ鉄平先輩からのメールを開けない。 つか普通に見るのこえええええ!!! いったん携帯を布団に置く。 急用だったらどうしようとか他愛もない話だったらどうしようとかとりあえず、どうしよう。 ぐるぐると色々な考えが頭を巡って何が何だか・・・落ち着くか・・・。 深呼吸を繰り返し、携帯に向き直す。 まず私がすべきことは・・・鉄平先輩からのメールを確認して最初に謝罪してそれから返答・・・OK。 じゃあ早速メールを、携帯に手を伸ばしたところで「!!何してるの!?遅刻するわよ!!」とお母さんが部屋に突入してきたことにより、メールの内容を確認する間もなく私は学校の準備に取り掛かった。






***






「おはよう」

「お、おはようございます鉄平先輩・・・」






教室についてからゆっくりメールを見ようと思っていたのに、まさか昇降口で鉄平先輩に出くわすとは・・・!! 誤算もいいとこだぜ! ぶわっと冷や汗を噴出していると私の心情など全く知らない鉄平先輩が「ん?」と不思議そうに首を傾げ、私の顔を覗き込む。 おっきな身体を折って私の顔を覗き込んでる姿はきっと周りから見たら可愛いんだろうなぁ私も見たいなぁ・・・あの、顔近い。 いつもより近い距離に顔が熱くなってくる。 幸いなことに後ろは下駄箱で目の前には鉄平先輩の大きな身体があるので私のこの赤い顔は他の人には見られな、ってオイ! でもこれって鉄平先輩にはバッチリ見られてんじゃないか! そのことに気付いた直後、熱が全身に広がり塵になりそうだ。 あわあわとテンパっていると鉄平先輩が「あれ?顔赤いけど・・・風邪か?」なんて言ってさらに顔を近づけてくるもんだからアーッ!!!






「ダァホ!朝っぱらからなにしてんだよ!」

「ってぇ・・・日向痛い・・・」

「痛くしたんだっての。つうか・・・大丈夫か?めちゃくちゃ死にそうな顔してんぞ?」

「今しがた・・・死にかけたもので・・・」

「えっ!?マジで?が死んだら俺どうしたら・・・!」

「お前は黙ってろ!!」






鉄平先輩を蹴飛ばして順平先輩が不機嫌MAXな顔で登場する。 私の顔が赤いわけを風邪だと勘違いしてまた近づいてこようとした鉄平先輩にもう一発蹴りをいれて順平先輩が鉄平先輩を叱っていた。 うう、鉄平先輩可哀想だけど、今はこの顔の熱をなんとかせねば・・・! パタパタと自分の顔に向けて手で風を送りつつ、二人の漫才みたいなやり取りを眺める。 って、やっば・・・!まだメール見てなかった・・・! すっかりメールのこと忘れていた私は急いでポケットから携帯を取り出す。 素早くメールを開いて内容を見てみると、引いたはずの顔の熱がぶわっとぶり返した。 ふお、おおっ、おおおおおお・・・! そこに書かれていたのはなんと『明日部活休みだから放課後デートしようぜ』で嬉しすぎて奇声をあげたくなったけど、あ、これ私返信してないじゃん。 ふと我に返ってバッと鉄平先輩を見ると、ちょうど彼もこっちを見てきてガッチリ目が合ったと思ったらふにゃっとした笑顔を見せられた。 昇天しそう・・・!!! ・・・ってだからね!!!私その前にメールのお返事せなダメでしょう!! 鉄平先輩の笑顔にK.Oされかけたがなんとか踏ん張って鉄平先輩のもとへ行く。 いざ返事をば・・・!と意気込んだところで無情にもキーンコーンカーンコーンと予鈴が響き渡った。嘘だろ・・・。 えっ?と思ったときには順平先輩がダッシュで「!HR遅刻すんぞ!」と言ってこの場から走り去る。 続いて鉄平先輩も「も早く行かないと遅刻だぞ?」あっという間に鉄平先輩も走り去って・・・もうなんでこんなついてないの!!! 私もマッハで自分の教室へと走り出す。ものすごく不満たっぷりでぶっすりと頬を膨らましながら教室に入り自分の席について、早速返信を打つ。 『返事遅くなってごめんなさい!今日のデート楽しみにしてます!』 少々簡潔すぎるかなとは思ったが、指はもう送信ボタンを押していてメールは鉄平先輩のもとへ送られてしまった。 それから『ああ、俺も楽しみだ!また放課後な』とすぐに来た返信を見た瞬間の私は相当気持ち悪い顔をしていたと思う。 ・・・ん?あれ?もう一件きてる? 鉄平先輩からともう一通メールが・・・、うわぁ・・・花宮先輩だ・・・。 嫌々開くと『今日の放課後暇だろ』・・・意味わかんないです。 なぜ肯定なの?そこ疑問符じゃないの?なんで勝手に私暇設定にされてんの。 花宮先輩の謎のメールに一言『暇なわけないです』顔文字もなにもつけず送信。 すぐさま携帯が震えたけど見ない振りしてポケットにしまった。




***




そしてそしてついにやってきた放課後に私は緩む顔を抑えきれない。 鉄平先輩と久々のデートでそらもう何通も来てた花宮先輩からの死ねメールだって全く気にならない。花宮死ね! 携帯を取り出してさっき鉄平先輩からきた『すまん、昇降口に先行っててくれ』というメールを意味もなく何回も見ながらそわそわと昇降口にて鉄平先輩を待つ。 数分経ったくらいに鉄平先輩が手を振りながらこちらにやってきた。






!悪い、またせたか?」

「あっ先輩!大丈夫です待ってないです!」

「そうか・・・ならよかった」






鉄平先輩の大きな手のひらがぽんぽんと私の頭に乗せられる。 ああ、こういうとこ好きだなぁなんて思って頬が少し熱くなった。






「あれ?また顔赤くなってる・・・やっぱり風邪引いてるのか?」

「へっ」






ぐいっと顔を近付けられ後ろに下がった瞬間背中に当たったのは下駄箱で、気付いたときには私は鉄平先輩と下駄箱に挟まれていた。 ・・・これって朝と同じ状況じゃないすか・・・? どんどんと熱くなってくる顔に鉄平先輩の顔が近づく。 ど、どうしようこれもしかして、ちょ、学校で、えっ・・・わ、えと・・・!!!! 恥ずかしさが限界を超えてしまい近づいてくる顔を見ていられなくてぎゅっと目を瞑って、くるであろう衝撃に身構える。 だが何故か「何してんだよバァカ」と言う聞きなれた声が聞こえてドカリと何かを蹴る音も聞こえて、・・・え?






「っつぅ・・・って花宮!?」

「え!?マジでクソ野郎!?」

「ブスお前潰すぞ」






鉄平先輩の言葉に目を開ければ、目の前から鉄平先輩はどいていて代わりに険しい顔でこちらを睨んでいる花宮先輩が登場しなすった。 あれ?これある意味朝のと軽くデジャブだ・・・。 え?ていうか本物?訝しげに花宮先輩を見てたら「なんだよブス。見てんじゃねぇよ」・・・ってコイツ本当に最低だ本物だよ。 ニヤニヤ笑う花宮先輩を睨みつけると、鉄平先輩が花宮先輩に蹴られてた場所をさすりながら 「はブスなんかじゃないぞ。すごく可愛い」なんて・・・なんて!!なんて言ってくれて私泣きそうです・・・! すかさず花宮先輩の私への暴言がまた出たが知らないです聞こえないですもう鉄平先輩以外見る気しないです花宮クソ!! ハッそれよか!!






「ちょっと!!花宮先輩!」

「なんだよ」

「鉄平先輩に何してくれてんですか!てかなんでここにいるんですか!」

「あ〜?邪魔だったから仕方ねーだろ。あと暇だろうから来た」

「はい!?なに失礼なこと言ってんですか!」






なんでいるかより愛しの鉄平先輩に蹴りなんて言語同断!! 許せない! 謝れやオラァという勢いで花宮先輩に食いかかるが「はいはいブスがさらにブスになってんぞ」けらけら(笑)みたいな対応をされ私の口元は引きつるばかりだ。 全然相手にされてないのはわかるけど、ここで食い下がるわけにはいかない。 ふんすしながらまた花宮先輩へ文句を言おうとしたら少し黙っていた鉄平先輩が口を開いた。






って花宮と仲良いんだな」

「・・・えっ!それ盛大な勘違いですよ!」

「そうか?まあでも仲良いことはいいことだと思うぜ」






鉄平先輩が突拍子もないことを言ってきて反応が遅れてしまったが、にこりと続けてそう言われてしまえば反論する気も失せる。 むしろ反論なんてできやしない。 本当は本当に本気で真面目に心底、それはもうっ花宮先輩と仲が良いなんて思ってほしくないけど!!! 鉄平先輩がよく思ってくれてるならもういいや。 ちらりと花宮先輩を見てため息が出ちゃうのもこの際いいよね。しょうがない。






「人の顔見てため息とか最低だな」

「すみませんつい・・・はぁ」

「おいおい、俺とお前は仲良しなんだからさぁもうちょっと仲良しな俺と会えて嬉しそうな顔できねーの?毎日毎日電話してんのつれないなぁちゃん?」






思ってもないことをコイツはベラベラと・・・。 呆れ半分で花宮先輩を見やればニタァと気味の悪い笑みを返されて鳥肌が立った。 何企んでるんだ・・・。 あの顔は絶対にロクでもないこと考えてるよ・・・。 そう思ってたらいきなり花宮先輩に顎を掴まれ無理矢理顔を引き寄せられた。 結構な力で掴まれているので・・・、






「いっひゃいですよ!」

「ふはっぶっさいく・・・!木吉ーお前の彼女本当に不細工な顔すんのうまいなぁ?」






その言葉に鉄平先輩の眉間に皺が微かに寄る。 私は微かどころか眉間には盛大に皺が寄っていると思う。 不細工な顔ですけどさらに不細工にしてんのは花宮先輩のせいですよ!! と口に出したくても顎を掴まれているためうまく喋れない。 まぁ下手に喋ったら逆に花宮先輩が喜ぶんだろうな・・・マジクソ野郎・・・! よって私の抵抗は睨むだけにしとく。 でもそれすらもクソ野郎は嬉しそうに口元を歪ます。 ・・・もうホント最悪・・・。 「お前の今の顔最高に好きだぜ?笑えるし・・・しかも彼氏の木吉だって見たことない顔だろ?本当に傑作だわ・・・」 私をちらりと見たあとに鉄平先輩に顔を向けた花宮先輩。 きっと嫌な顔してんだろうなぁ・・・鉄平先輩の眉間にまた皺寄ってるし。 そしたら急にぺちんと花宮先輩の手を叩き落とし私の顎から手を外させた鉄平先輩。 いきなりの開放感にきょとんとしている私同様にぽかんとして鉄平先輩を見てる花宮先輩がいた。






「今のはさすがにムッときたな」

「へ?」

「顔あげてくれ」

「は、ぃんっ!?」

「!?」






鉄平先輩の言うとおりに顔を上げれば大きな手のひらに頬を包まれ、疑問符を浮かべる前にそのまま顔を近づけられ・・・ 気付いたら唇が鉄平先輩の少しかさついた唇とくっついていた。 心の準備も何もかもしてなかった私は目も閉じることもせず、鉄平先輩と、キスをしていた。 そして唇の間から熱い舌が入り込んできてて、くちゃりといやらしい音が漏れる。 ハッとなって口を閉じようとしたが、鉄平先輩が舌を深く絡ませてきたことによりそれは阻止されてしまう。 やだ、どうしよう・・・っ。 花宮先輩がいるのに鉄平先輩はお構いなしに深く口付けをしてきて、私の頭は破裂寸前だ。 心臓も鉄平先輩に聞こえてるんじゃないかってくらい鼓動している。 頬を固定している手のひらをどかそうにもビクともしないし・・・ううう、もうなんだか泣きそうになってきた・・・! 何故、どうして、なんで、こんな突然、ぐちゃぐちゃの思考回路の頭にはその単語だけがループする。 執拗に口の中を鉄平先輩に舐めまわされてる感じに足もガクガクと震え出した。 もし鉄平先輩が手を離したら私は完全に座り込んでしまうだろう。 恥ずかしくてたまらなくてやめてほしいのに、口からはだらしなく情けない厭らしい声が止まらなくて、ついには涙が出てきた。 ぼやけた視界の端には花宮先輩が見えて、どんな表情しているかはわからないけど・・・見ないで下さいと思うしかない。






「ぁ・・ふっ・・・てっぺ、ぅんっ」

「ん・・っはぁ・・・ちゅっ、ん・・・っ、」






そろそろ本当に限界というところで鉄平先輩は口を離し、口の端から垂れていた唾液を指で拭ってくれた。 その行為にもまた羞恥心がじわじわときて泣き出したくなる。 ぐったりとぼんやりと鉄平先輩を見つめれば、彼はにこりと笑った後花宮先輩に顔を向けた。






「悪いな花宮」

「なっなななにがだよ!!」

は・・・俺の大事な彼女だから嫌がらせはほどほどにしてくれ」

「っ!!」






ぐっと私をさり気なく支えていた腕に力が入る。 それにまたきゅんっと胸が高鳴った。 ああ、ホントにときめきすぎて死にそう・・・。 鉄平先輩の腕をまだ力がうまく入らない手で掴むと不思議そうに首を傾げられた。






「て、てっぺぃせんぱ・・・」

「ん?お、一人で立てるか?」

「無理です・・・!い、いきなりあんな・・・!」

「ははっ顔真っ赤だな」

「誰のせいですか誰の!」

「え?俺か?」

「そうですよ!!」






こんな時までボケますか! さっきまでのピンクさはどこへすっ飛んだのか、いつも通りのテンションで鉄平先輩がボケるもんだから私も普通にツッコミをしてしまう。 一生懸命鉄平先輩の腕にしがみついて立っている私に笑顔を向けてくるとこを見ると何だかんだ鉄平先輩もSっ気あるんじゃないかと思えてきた。 ため息じゃないけどはぁと息を吐き出して、やっぱりさっきのはすごく恥ずかしかったし花宮先輩の目の前でなんていうことをしたんですかと鉄平先輩に言おうとしたが、 不自然なほどに黙りこくってしまってた花宮先輩が「・・・今日は帰る」と小さく言ってきたことにより口に出ることはなかった。 なんていうか・・・急に大人しくなったというか・・・なんというか・・・微妙に花宮先輩の雰囲気が暗くて、少々不気味だ。






「あの・・・」

「ああ、気をつけて帰れよ」

「・・・いいか・・・俺はお前が嫌いだ」

「っふ、お!?」






完全に油断をしていた。 花宮先輩に腕を引っ張られたと認識したら、おでこにさっきとは違う温もりが触れる。 びっくりして固まっていると花宮先輩が小さく「クソッ・・・しくった」と呟いた。 目線を上にあげれば頬がほんのり色づいて悔しそうに眉に皺を寄せている花宮先輩。 え?・・・えっと? 何が起きたのかイマイチ把握できない私はただ花宮先輩の顔を凝視するしかできない。 そんな私の視線に気付いた花宮先輩は舌打ちを一つして、それから、とんでもない爆弾を落とした。






「木吉・・・お前からを奪ってやるよ」






・・・。・・・・・・・・・・・・。






「は、はいいいいい!?」

「せいぜい俺に奪われないように注意しとかねーと大変だぜ?木吉」

「ははっ注意はするが・・・奪われるとか絶対ないな!」






信じられない気持ちが一杯で口があんぐり開いてしまう。 私のとんでもない動揺をよそに、鉄平先輩はいつもの朗らかな笑顔を浮かべたまま花宮先輩の言葉を簡単に否定し掴まれていない腕を引っ張って私を抱き締めてきた。 それにもびっくりで口が閉じられない。 いや、なんだっていうの!?え!? 急すぎる展開に私の頭は追いついてないよ!? てか花宮先輩って・・・えっ私のこと好きなの!? ぎゅうっと鉄平先輩に抱き締めながら花宮先輩に視線を移せば、ぎりりと歯軋りしてる花宮先輩の姿があって、うわっこわっ!






「〜〜〜っクソ!!オイ、!」

「ひえっはい!!」

「これからもっとたっぷり苛めてやるから覚悟しとけよ・・・?」

「え、ええええ!?」






なにその結論!! なんでそうなるの!? 花宮先輩の死刑宣告みたいな発言に血の気が引く。 うう、と声を漏らせばすりすりと私の頭に頬擦りをして「安心していいぞーのことは俺が絶対離さないし守ってやるから!」と鉄平先輩が言ってくれたけど、 あの、その前に目の前の人が、えっと、やばいくらい睨んできてるっていうか・・・歯軋りもしてるんですけど怖すぎる!! 悲鳴を心の中で上げていると、頭上の鉄平先輩が突如「あっというかもうこんな時間じゃないか!早くしないと!」 そう言って体を離したと思ったら今度はぎゅっと手を繋いで校門へと歩き出す。






「えっ先輩!?」

「この前行きたいって言ってたクレープ屋に行こうと思ってたんだ」

「え・・・?」

「おい!木吉!てめぇをどこに連れてくんだよ」

「ああ、俺たち今からデートなんだ!じゃあな花宮!」

「っはぁ?そんなん邪魔すんに決まってんだろ!俺もついてく」

「っはぁ!?」






そうだよ、今日は貴重な鉄平先輩とのデートじゃん・・・! よくわかんない展開でよくわかんない時間ロスしたけど、デートだよ!! だけどもそれを言ったら花宮先輩はまたしてもとんでもない事を言ってきた。 俺もついてくとか・・・はぁ!?しか出てこないですよ!! 鉄平先輩も花宮先輩の発言に驚いたのか歩みを止めて近づいてくる花宮先輩を丸くした目で見ていた。 と、思いきや、






「っ!!鉄平先輩!?」

「せっかくのデートを邪魔されるのは癪だからな!目的地まで我慢してくれ!なっ」

「木吉・・・!待てクソッ!」






足が浮いたと思ったらぐっと目線が高くなって、何故か私は鉄平先輩の肩にかつがれて、てぇ!? いくら鉄平先輩が大きくてしっかりしているとしてもこの浮遊感は怖くて必死に鉄平先輩の肩にしがみつきながら下ろしてくれるよう頼むけど・・・ ダメだなんか知らないけど鉄平先輩すごく楽しそうで話聞いてくれない! うわぁと思って顔を上げたら、もっとうわぁな光景で、ちゃんと口から「うわぁ・・・!」と言葉が出てしまった。 ガチンコの顔で追いかけてくる花宮先輩に戦慄する。 これ花宮先輩に捕まったらどうなるんだろう・・・と考えたくもないことを考えてしまって、もうこうなったら私がすることは一つだけだ。






「てっぺ、せんっ、ぱいっ!」

「んっなんだー!」

「ぜった、いっ、落とっさないで、くださっい!あとっぜったい、にげっきりましょう!」

「ああっまかせろっ」






そう言った直後、鉄平先輩の走る速度がぐんと上がる。 めっちゃ怖くてやばいけど、なんだかんだこの状況を楽しんじゃってる自分もいて、気付いたら口から出るのは悲鳴じゃなく笑いになっていた。 花宮先輩の顔もすっごく怖くてやばいけど、鉄平先輩と一緒ならなんとかなるかな!なんて思っちゃってますよ!



















さあ、おにごっこのスタートです。