幼馴染の静雄が入院しました。
なんでも、冷蔵庫を持ち上げて体の骨がぼきゃぼきゃいっちゃったそうです。
馬鹿以外の何者でもないなって思いました。
というか、そう言いました。
そしたら静雄が切れて私にリンゴを投げつけてきました。
そのリンゴは見事私の額に当たって砕けて・・・思わず私も切れてしまったのです。
べったべたになっちゃったじゃん!!と。怪我人相手にダメだとはわかっていたのですが、どうしても耐え切れず。
私は近くにあったもう一個のリンゴを手に取り、顔面に思いっきり投げつけてしまいました。
するとそれは静雄の鼻にもろはいってしまったらしく、静雄はダラダラと鼻血を出しました。
それにまた切れた静雄は体を起こそうとしましたが、 やっぱり骨が折れているせいでうまく体が起こせず苛立ち気に舌打ちしただけで何を投げるということはしてきませんでした。
反撃もできず鼻血をぼったぼた流しながらベットから起き上がれない静雄がなんだか可哀想に思えて、せめてもの償いにとティッシュを鼻に詰めてあげました。
「・・・おまえ、なにしにきたんだよ」
「おみまい、とひまつぶし」
「あ゛?」
「しずおがいないとつまんない。かすかもしずおがにゅういんしてるから遊んでくれないし」
「・・・かすか、おまえこいつ連れて遊びにいけよ」
「・・・なんで?」
「なんでって・・・」
幽が不思議そうに首をかしげたのを見て、静雄は呆れたような顔をしました。
でも、あえて何も言わずに幽と反対側にいる私の方に顔を向け何か言いたそうに口を開きますが、何も言ってきません。
ぱくぱくと口を開いては閉じ、閉じては開きを繰り返してます。
水がほしいのかな?それとも何か食べ物がほしいのかな?と思い、 何かを貰ってこようと立ち上がったところ、静雄が「あっ」と声を漏らしたので私が首を傾げると静雄は顔を赤くして口を結んでしまいました。
静雄が何をしたいのかわからない私は、とりあえず再度イスに腰を下ろして静雄に聞くことにしました。
「どうしたの、しずお」
「う、いや、なんでもない・・・」
しかし返ってきた答えは上の通りで、はっきりしません。
ついでに目も合わせてくれません。
ちょっとだけムッとしていたら、幽が私にそっとプリンを渡してくれました。
もらっていいの?と聞くとこくりと頷く幽。
静雄にもプリンを渡して、幽はイスに座ると自分の分を食べ始めます。
私も食べようとフタを開けると、静雄が小さく「おい」と言ってきました。
目線だけそちらに寄越し次の言葉を待っていると、静雄が恥ずかしそうに顔を顰めながら「・・・プリン、食べれない」と言いました。
その言葉に私はまた首を傾げます。
おかしい、静雄はプリンが好きなはずです。
どうして食べれないと言うのでしょうか。
幽もそれに疑問を思ったのか、スプーンを口に含んだまま首を傾げています。
私と幽が静雄をじぃっと見ると、静雄が顔を真っ赤にしながらすごく恥ずかしそうに口を開きました。
「プリンのフタあけられない」
「・・・ああ、そっか。じゃあ、わたしがあけてあげるね」
「おう」
「にいさんひとりで食べれる?」
「・・・」
「じゃあそれもわたしがやる」
「は、い、いや・・・!」
「はい、あーんして」
静雄が食べれないと言った理由がわかったので、私はすぐさま静雄からプリンを奪い、フタを開け、食べさせようとスプーンにプリンを乗せました。
静雄は私のこの行為に最初は顔をこれ以上にないくらい真っ赤にし嫌がっていたのですが、 私が食べるまでやめないことに気付いた静雄は観念したように口を開け私からプリンをパクパクと食べました。
これはとても恥ずかしいらしく食べさせている間、静雄は私と全く目を合わす事はありませんでした。
そして静雄はプリンを全部食べ終わると私から顔を逸らし、小さな声で「ありがとな・・・」と呟きました。
それにたいして「どういたしまして」と返して、私は自分の分のプリンを食べ始めます。
幽はというと私が静雄にプリンを食べさせている時に食べ終わったらしく、私がプリンのゴミを渡すのを待っていました。
私は急いでプリンを食べ終え、幽が持ってきてくれたゴミ箱に二つのプリンのゴミを入れました。
「おいしかった。ありがとう、かすか」
「どういたしまして」
「でも、しずおひとりでプリン食べれないのってふびんだね」
「ふびん?ふべんじゃないの?」
「そうなの?しずお?」
「おれにきくな」
「なんで?」
「うるせえ」
「・・・。にいさん、はやくケガなおるといいね」
「・・・おう」
「そうだよね、じゃないとプリンひとりで食べれないし遊べないもんね。わたし、早くしずおとかすかと遊びたい」
折れていない手をぎゅっと握ると、久しぶりに静雄が笑ってくれました。
さっきまでのぶすくれ顔が嘘のようです。
でも静雄が笑ってくれたことがすごく嬉しくて、私も笑顔になりました。
幽もわかりにくいですが笑っています。
そこで私は思いました。
二人と遊びに行くのもいいけど、こうやって二人とのんびり部屋で話しながら過ごすのもいいものなんだな、と。
むしろ、私は二人がいてくれればそれだけでいいのだと。
そう告げれば、静雄はまた顔を真っ赤にして黙りこくり、幽は優しく笑って私の隣に来て頭を撫でてくれて、幸せというものをじわじわと感じました。
そんなある日のわたしたちでした。