ふと、気が付いたら目が追ってしまう背中。
普通より上手いサッカー。
でもどこから見ても普通な見た目。よってサッカー部ではあまり目立たない。
そんな彼の姿を、私の目は必死で追う。・・・本当に、なんで彼なんでだろ。
放課後の教室で一人首をひねる。


窓の下をを見れば、グラウンドでサッカーをするサッカー部(当たり前か)
そこでやっぱり彼の後姿を捜してしまう。



(あ、いた・・・って、あーあ、松野くんにボール取られてるよ・・・)



見つけた直後に松野くんにボールを奪われた・・・半田くん。
ちょっと悔しそうに松野くんを追いかけていく半田くんに知らず知らずに笑みがこぼれる。


(あーうん、やっぱあのサッカー部ん中じゃ地味だけど好きなんだよね・・・理由なんてないけど)



どこが好きって言われたらぶっちゃけ答えられないけど、好きなのは確か。



(不思議だなぁ・・・)



彼を見てるだけで満たされてく何か。恋っていうのは全く持って不思議なものだ。
だけど彼との接点はクラスメイトってだけで、話したことはほとんどない。
あっちが私の名前を知っているかも危ういところだ。ってなんか無謀すぎやしないか、この恋。
いや、別に、もともと希望なんてものはなかったけどさ、ここまで半田くんと私を繋ぐものがないと凹むんだけど。
サッカー部のマネージャーとかになれたらいいのに、と絶対できることのないことを思う。
てかさ、マネージャーの木野さんとか音無さんと雷門さんってレベル高いよね。三人とも可愛いってどういうこと?
それに三人とかもう充分な数だよね。



(・・・希望なんて一ミリもないね、こりゃ。)



どうしようもない現実に打ちのめされ、私はため息をつきながら席を立った。
そろそろ時計の針が下校時間を告げようとしている。
何も部活には入ってないただの帰宅部である私がいつまでも教室に居座るわけにはいかない。



(先生が来る前に帰らないと・・・の、前にもう一度見とこう)



帰るときにもグラウンドのそばを通るから彼の姿を見れるといえば見れるが、 私は遠くも近くもない中途半端のこの距離から彼を見るのが好き。



(叶うわけない恋でもさ、思うだけは自由だよね?)



誰に聞くわけでもないけど、心の中でそっと言ってから私は窓からグラウンドを見下ろした。
彼の背中の番号は6番。あのサッカー部の中では珍しい茶色い髪の毛。
見つけるのに時間なんていらない、すぐ見つか―――――・・・え?










「ッ!?」










ガタンと音を立てて後ずさり、すぐさましゃがみこんだ。
急激に熱くなった頬を両手で押さえつけ、バクバクと五月蝿い心臓を落ち着かせようと深呼吸をする。



(い、い、今っ、・・・半田くんと目が合った・・・!?)



見つけたと同時に半田くんが立ち止まりこちらを向いて・・・目が、合った気がした。い、いや!
気がしただけだし!てか、半田くんが私に気づいたとは思えない。教室いくつあると思ってんのよ!
き、きっと・・・



(きっと、空を見上げてただけだよね! そうだ、そうに違いない!なに期待しちゃってんの私!)



ブンブンと首を振り気のせいだということを確かめるため、再度屈みながら窓へと近づき恐る恐るグラウンドをのぞく。
まあ結果はわかってるけど。










「う、そ・・・」










あ、あれ?
おか、しいな・・・えっと、あれ?
ごしごしと目を擦る、だって、ねえ?結果はわかってたじゃん。気のせいだって・・・それが正解のはず、なのに・・・。
半田くんがさきほどと同じ場所に立ってこっちを・・・見てる。
呆然と固まってしまった私に半田くんはにこりと笑って手を・・・手を振ってる!?



(う、うそうそうそ!!え、私じゃなくて違う人にじゃ・・・!)



慌ててきょろきょろ辺りを見渡すが、この場にはもちろん私しかいない。あ、でも、別の教室の子とかじゃ・・・!
だけどとりあえず・・・、震える指で自分を指差した。これがもし私の勘違いだったらなんて恥ずかしいんだろうと思いながら。
すると半田くんは、一瞬きょとんとしてからにこって笑って・・・笑って・・・頷いた。



(・・・っじゃあ、半田くんは私に、手を振って・・・くれたんだ・・・!!)



熱いのは頬だけだったのに、今度は全身が熱くなった。
うわあああと思いつつ必死に手を振る。う、嬉しすぎ・・・!
だが、その時間はもちろん長く続かないわけで半田くんは小さな男の子に呼ばれ走っていってしまった。



(あ・・・残念、いや、充分すぎるか・・・)



窓にへばりついてる自分がものすごく恥ずかしくなってきて急いで帰り支度を済まし教室から飛び出した。
とんとん、リズムよく階段を下りていって、私はある覚悟をする。きょ、きょうは、



(帰るとき、もし、もし!半田くんが私に気づいたら・・・おっきな声で『お疲れ様!』って言おう・・・!)










駆け出せ勇気と恋心