目の前にはボールを磨いてる先輩の後姿。 おれよりちょっとだけ背の低い先輩。 そんな先輩がしゃがんでるんだからもっと小さくみえる背中。 ・・・も、もし、このまま後ろから「せーんぱい!」とか言って抱きついたらどうなるんだろ・・・。 や、やっぱ「もうっなにすんの!」とか言って照れたりするかな!? いやでも、先輩のことだから無表情で「なに?」とかだけかな・・・!? で、でも振り向いた先輩にき、キスとかしちゃったらいくら先輩でも照れたりするよね!? なんだか変に興奮してきて思わず鼻息が荒くなる。 ど、どうしよう・・・すごくやりたい・・・! だけど「あー・・・お腹減ったなぁ」という先輩の呟きによっておれはハッとなる。頭をブンブンと左右に振り、変な考えを取り払った。 お、おれは何考えてるんだ!先輩になんてことをしようと・・・!! ちょっとだけほってしまった頬をペチンと叩いて、とりあえず気持ちを落ち着かせる。 その最中も先輩はボールを磨いていて、後ろにいるおれに気付かない。 それはそれで悲しい、な・・・。 昂ぶっていた気持ちが少し落ち着いたあとに「せ、先輩!!」と少し上擦った声でその後姿に呼びかける。 呼ばれた先輩はゆったりとした動作で振り向いた。












「・・・なに、立向居」

「あっえっと、ボ、ボール磨きおれも手伝います!!」

「別に一人で平気だよ。立向居は練習に戻れば?」

「う・・・、や、けどその、先輩一人じゃ大変かなって・・・」

「いや一人で大丈夫。でも心配してくれてありがとね」












そう言って先輩はフッと笑った。 う、うわわわ素敵です先輩!! さらにしゃがんでるから必然的に上目遣いで・・・!! うわわわわ直視できません先輩!! とっさに両手で顔を覆うけど耳までは隠れなくて先輩に「・・・立向居、耳赤いよ。風邪でも引いた?」と言われた。 は、恥ずかしい・・・!












「立向居、風邪を引いてるなら帰れば?」

「ちがっ違います!風邪は引いてません!」

「だけどさ耳赤いし・・・あぁ、もしかして寒いの?」












私のジャージ貸そっか?と目の前で服が擦れる音が聞こえる。 ま、まさか・・・! 顔を隠してる両手の指の隙間からそっと盗み見をすると、先輩が自分のジャージを脱いでいた。 真っ白い先輩の二の腕が見えて、おれはもう頭が爆発するんじゃないかと思うぐらい大混乱する。 だ、だって先輩Tシャツ一枚でいつもジャージ着てるから二の腕なんてめったに見れないし、て、ていうか先輩何気にむ、胸がある・・・!!












「立向居?」

「あっわっ、あ、ありがとうございます!!」

「どういたしまして」












先輩の体に気をとられていると不思議そうに先輩が首を傾げた。 おれは慌てて先輩の匂いがムンムンとするジャージを受け取る。 それからさり気なく抱き締めとく。 うわぁおれ今幸せかもしれない・・・!目も鼻も頭も幸せ一杯です! ジャージを抱き締めたまま、再度じぃっと先輩を見つめる。 うわぁもう本当に幸せ!!












「・・・さっきからなに?」

「!!いえ、なんでもないです!!」

「あっそ。それじゃさっさとそれ着て少し休んでれば?」

「はい!!あ、その休んでる間先輩の・・・そ、そそそばにいてもいいですかっ!?」












先輩の言葉にジャージをいそいそと着て先輩のいい匂いに包まれながら、おれは勇気を出して先輩に言った。 きゅっとジャージの袖を握って先輩の返事を待つ。 風邪なんてまったくひいてないけど(むしろ先輩に会うためひけないけど)、一緒にいられる口実となるなら喜んで風邪になります!












「立向居、」

「!は、はい!」












ドキドキと激しい音を立てて心臓が鼓動する。 先輩が立ち上がっておれにゆったりと近づいてきた・・・。 そして、そっと頬に手を当てられる。 こ、この展開はもしかして・・・!? 先輩に見惚れていた目を急いで閉じた。 来るであろう唇の衝突を今か今かと待つ。 先輩の手がするりと少し下の方に降りた。 ・・・っ!!えっ!こ、こんなところで、先輩・・・!? あまりの急展開に頭がパンク寸前。 こ、こんな誰が来るかわからない、しかも外でなんて・・・! どんどん広がるこの先の展開に頭がショート寸前。 開きそうになる目を一生懸命閉じて先輩の次の行動を待ってみるけど・・・・・・あ、あれ? 手はいまだにおれの首筋に当たっているが、それだけで何もない。 いつまで経ってもこない感触におれは恐る恐る目を開く。













「せ、先輩っ・・・!」

「・・・」













目を開けたら至近距離に先輩の顔があり顔がボフンっと熱くなる。 ど、どうしようどうしようこの状況! わたわたと無意味に手を動かしてどうにかして少しでも気持ちを落ち着かせようとしてもうまくいかない。 せ、先輩の顔がこんなにも近くにあるから落ち着くなんて無理、だ・・・!













「立向居・・・」

「は、い・・・」













先輩がおれの名前を呼んだ。 くるか・・・!?と思って顔を引き締める。 先輩、大丈夫です・・・おれ、覚悟はできてます!!













「立向居・・・・・・・・







やっぱりあんた熱あるじゃん。熱い。帰れよ




「・・・・・・・・・・・・・へ?」













そう言うやいなや先輩はサッとおれから離れる。・・・・・・え? ぽかんと先輩を見てれば、「顔赤いし、ほっぺたとか首筋触ったら熱いし・・・それ風邪だから私に移す前に帰れ」と無表情な上に冷たい目で先輩は言い放った。 ・・・・・・え!? 大慌ててで、これ熱じゃないですよ!!と弁解しても先輩は近寄るなとしか言ってくれない・・・さっきまでの甘い雰囲気はどこへ・・・!?













「戸田に言っとくからあんたは早く帰りな。そのジャージ着てってもいいから」













しっしっと手で追い払われたおれはとぼとぼと先輩のもとから離れる。 本当におれ風邪じゃないのになぁ・・・。 多分熱かったのは色々と興奮しちゃってたせいだし・・・。 ハァと溜息をついてぐちぐち思いながらも、先輩に言われた通り帰り支度を始める。 ・・・・・・でも今日一日先輩が着てたジャージといれるからいっか。なんてことも思ったら案外気が楽になった。






























だって、思春期なんだもん。
(好きな人のこと思ったらそりゃ変な思考に走っちゃいますよ)