困ったことがおきた。
何故自分がこんな状況に陥っているのか全く把握できていない。




「そろそろ返事くんね?」

「う、ち、ちかっ、近いです・・・綱海さん・・・っ!」

「答えてくれたら離れてやるよ」





壁際に追い詰められて息がつまる。
こんなにもこの人と近いのは初めてで、驚きと恥ずかしさとで体がカチンコチンになった。
逃げようにも私の前には綱海さん、顔の横には綱海さんの腕があって、右を向いても左を向いても前を向いても後ろを向いても逃げ道はない。
完全に閉じ込められてしまった。


私にとって綱海さんは頼れる兄的な存在だ。
優しくてかっこよくて素敵な人だと思う。
そんな素敵なお兄さんに私は先週、告白を、された。
綱海さんにはキャラバンでも今のイナズマジャパンでもとてもよくしてもらっている。
でもそれは、私に優しくしていたのは私に好かれたかったから、私の側にいたのは意識してもらいたかったからだったらしい。
しかし、私はそれを兄みたいな優しさとして受け取っていた。


徐々に近づいてくる綱海さんはいつもの兄のような雰囲気はなく、 (な、なんというか・・・色気?)まさしく男としか意識してしまうしかないものを纏っていて、心臓は五月蠅いくらいに鼓動している。
この距離じゃ綱海さんに聞こえてしまうんじゃないかと思ってしまうくらい。





「あの、っ・・・わたっ私、は・・・」

「ん?」

「綱海さんの、ことは・・・い、いいお兄さんって思って・・・」

「んー?」

「わわわ、ちかいですー!!」






言いたいことがあるのに綱海さんがさらに顔を近づけるせいで、用意していた台詞がぶっ飛んだのを感じた。
あと少し近づいたらお互いの鼻の先がつきそうだ。
返事を求めているのはそっちなのに、自分の望む返事以外受け取らないというばかりに私の言葉を遮っていく。
このような状況に遭遇したことがない私は頭がぐわんぐわんして、顔が今までにないくらい熱くなって、思考がうまくまとまらない。




「俺は一度だってお前のこと妹みたいだ、とか思ったことねーよ」

「は、ひっ」

「ずっと女としか見てなかった」





綱海さんの真っ黒い瞳が色を含み出したのを間近で見た私は、何も言葉がでなくなった。
胸が苦しくなって、息ができなくなる。
まるで海にでも溺れたみたいな息苦しさ。
あ、え、なんでこんなことになってるんだっけ・・・?
自分の視界が少しずつぼやけてきて、今の綱海さんの雰囲気にあてられたのかクラクラとする。
動けず喋れないでいるのをいいことに、綱海さんが私の横髪を手に取り耳にかけてきた。 その行動に肩が跳ね上がる。





「なあ、」

「、っ」

「いい加減、俺に溺れてくれよ・・・」






晒された耳元で囁かれたのは色を含んだ掠れ気味の声。
もう、ダメだ・・・、爆発しそう・・・。
腰が抜けた、というのだろうか。
立っていられなくなり壁を背にずるずるとしゃがみ込む。
上を見上げると、綱海さんが笑っている。
でもその笑みはいつものカラッとした太陽みたいな笑みではない。
どこか綺麗で妖しく光る月のような妖艶な笑み。






「つな、みさん・・・」

「好きだ、





その一言はまるで魔法のように、私の体を動けなくした。
綱海さんが屈むのが見える。
スローモーションになったかのようにゆっくり、ゆっくりと。
海の香りが私の鼻を掠めたときには、すでに全身はすっぽりと綱海さんに包まれていた。
















溺れてしまった人魚姫





(もう気付いたときには、兄のような人ではなくただの男の人としての彼しか私の目に映っていなかった)