ちょぉぉい!やばいあと3分弱で日付変わるじゃないか!
なんでこんな日に限ってバイト遅くまでやんなきゃなんないの!?
あんのクソ店長め何故に今日に限ってお掃除私にまかせんの!?
むしろお前の残りカスみたいな頭を掃除してやろうかアーッ何言ってんのとりあえず急ぐぞ・・・!
冬の寒い寒い夜に只今私は自転車をマッハで飛ばしております。
今の私はそれはもう風のように早い。素晴らしい。競輪選手になれちゃうかもね!いやなりたくないけどね。
ってアーッ!残り1分ンンン!?
ヒィィと声を漏らしながら漕ぐ足は止めず携帯を取り出す。非常に危険な行為だが、私なら大丈夫だ信じてる。がんば!
パパッと携帯画面に愛しの彼の番号を出しすぐさま電波を発信させた。ああああそういやこの時間にあの子起きてるかな・・・!?
ちょっと違う意味でガタガタ復活してきたよちょっとねぇ。
私の可愛い彼は寝起き最悪なんだよね。会話できるかな不安になってきたー!
私は付き合ってから寝起きの彼とまともな会話をしたことがない。えぇ一度も。この前起こしに行ったときなんか
「おはよーほら今日はデートだから早く準備してー」「あー・・・あはは犬だ」
「犬!?え!?」「あははあははあれよく見たらハナさんだ」
「ハナさんは犬に似てたっけ・・・!?」「ちょっとうるさいよモモタロス」
「ええええ最終的にモモタロス!?つか犬でもハナさんでもモモタロスでもねぇ私なんですけど!」
・・・とにかくよくわかんなかった。
プルルプルル、回想中も携帯は未だ繋がる音はしない。あぁやっぱダメか?5、6コール目で諦めて自転車の速度を落とし始めれば『もし、も・・・し』という聞き間違えるはずのない愛しい声が聞こえた。・・・ものすごく眠そうだが。
「もしもし、良太郎?」
『はい、良太郎です僕です・・・ぐぅ』
「ちょーっ!!寝ないでー!」
『ふごっ!うぇ、う?ひゃい?』
「ひゃいって・・・!くそっ可愛すぎる・・・!」
『う・・・あ、れ・・・、ちゃん?』
「っあ、あはっそういきなりごめんね。やっぱ寝てた?」
『や、あーううん、ちょっとうとうとしてただけっていうか・・・』
「いや良太郎の場合それ寝てるじゃん。いやむしろ出たとき寝ぼけてたよ」
『え!あ、いや、それは、えっと・・・ごめんね?』
「あはは謝らなくていいよ。私がいきなりかけたのが悪いんだもん」
『ううん!全然いいよ!ちゃんからの電話だから嬉しい、し・・・てあの僕なに言って・・・!』
なんてすごく嬉しいこと言いやがるんだこの子。もうっこのっこのー!一人にやけ祭りじゃないか!
私も負けじと「ありがと!もー良太郎好き!」と返せば明らか動揺しまくりの良太郎の声が聞こえ、
これにもまたにやけた。
リュウちゃんが見たら絶対にキモイと言うだろう。あの子マジで容赦ない。
漕ぎ疲れてしまい、ふぅと一息ついたとき吐き出した白い息は、夜空に浮かんで消える。
それを追うように見上げた空には、なんて綺麗なんだろう、満天の星たちに浮かぶ1つの大きな月が瞬いていた。
さっきは急いでたからまったく気付かなかったや・・・自転車を降り、月を見つめる。もちろん良太郎にも教えてあげた。
良太郎も『綺麗だね』って、きっと今の良太郎は笑ってるだろうな。
・・・あぁそうだ。この月はなんだか、良太郎みたいだ。そして周りの星がモモたち!
キラキラ輝いているモモたちの中で、ひときわ大きく輝いてる良太郎。
どんなに暗いとこでも優しく光を照らして道を示してくれる。だから、良太郎はお月様みたい。
・・・なーんて何言ってんだか私は。自分に苦笑。
けどそんなこと思っちゃうぐらい本当にきれ・・・い、ん?そういや私、なんで急いでたんだっけ?
急に黙り込んでしまった私に携帯の向こうで良太郎が心配そうに名前を呼んだ。
そう良太郎が、私の名前を・・・あ。
「りょりょりょ良太郎ぉぉぉ!!」
『へっ!?な、なななに!?』
「今何時ですかー!?」
『いっ今・・・今今今えっと、・・・あっ12時25分だよ』
「ん、な・・・!」
『?どうかしたの?ちゃん?』
ガッデム私!ごめんなさい私お馬鹿で!
なんのためにあんな急いで自転車漕いでたのさ!
こんな夜遅く、私が良太郎に電話したのは、
「良太郎誕生日おめでとうー!」
『え?あ・・・そういえば・・・えとありが』
「うわーんけど間に合わなかったー!」
『・・・?え?僕の誕生日確かに今日だよ』
「今日だけど間に合わなかった!」
『??』
本当は12時ぴったりに良太郎ん家に行って誰よりも早く一番におめでとうって言おうとしてたのに・・・!
良太郎との電話が楽しくて忘れてたよちくしょー!
私がわんわんと深夜にも関わらず良太郎にそう言えば、良太郎は『・・・ねぇちゃん今どこにいるの?』
と優しい声で私に問いかける。
それに対して素直に「良太郎ん家まであと5分足らずのとこ」、少しすね気味にだが言う。あーあ、ショックだよー
そしたら携帯から短く聞こえた『そっか』の後に、やっぱがっかりしたかと思ったら今度は前から大きく
「ちゃん!」の声が満天の夜空に響いた。
突然の登場に驚いて、「りょ、うたろう・・・」少し掠れた声で彼の名を口にした。
すると、ほら、良太郎は優しく私を照らしてくれる。
「っあの、僕の方が我慢できなくて来ちゃった」
息を切らしながら照れたように微笑む彼に、我慢できなくなって自転車を放り投げ抱き付いたのは、他ならぬ私である。
深夜12時30分、
響き会ったよ
ガッシャーン!
(わっ・・・!!っととと!)(良太郎ホントにおめでとー!来年はちゃんとジャストに言うから!)(うん、ありがとう・・・来年もちゃんからのおめでとう楽しみにしてるね)(私も来年言うのが楽しみだよ!)