展望台で侑斗は一人、星を見ていた。大抵、ここで星を見るときはいつも一人でいたがる。
そういう時はデネブや私はそんな侑斗の背中を見つめ、ただ黙って夜が明けるのを待つ。
侑斗がまたいつもの侑斗に戻るまで。いつもの強くてわがままな子供の侑斗になるまで。
誰かを、(愛理さんを、)想って悲しそうな顔をする侑斗なんて見たくない。侑斗にそんな顔似合わない。
今日も離れてその悲しそうな侑斗の横顔を見つめながらデネブに言えば、
「そう、だな」ってデネブが少しばかり沈んだ声で言った。
「・・・ねぇデネブ。忘れられるのと、忘れるのってどっちが辛いのかな」
侑斗を待つ間、2人階段で体育座りをして暇を持て余していた。
そこでふと思ったことを投げかければデネブはうーんと頭をひねる。
すると、私とデネブの間に影ができて、振り返ると侑斗が険しい顔で私達の後ろに立っていた。(また眉間にしわ寄せてるや)
「お前ら2人して体育座りしてんじゃねぇよ。怪しいっつの」
「「侑斗・・・」」
私とデネブの声が重なって侑斗の名前を呼ぶ。侑斗はふんと鼻を鳴らして、その間に割って座った。
「ちょっと狭い」
「うるせー」
「どうしたんだ侑斗?」
「なんでもねぇよ」
さっき怪しいとか言いながら、侑斗も私達と同じく体育座りをする。
階段で3人はさすがにきつい。けど、侑斗が少しだけ眉間のしわを緩んだから私とデネブはどこうとはしなかった。
しばらく黙っていたけど「あったかいね」って呟けば、
「お前ら子供体温なんだろ。真ん中にいたら熱い」不機嫌な声だけど表情は柔らかい侑斗、
「これだけくっついてればなぁ・・・あ、これからもこうすれば暖房いらないな!」優しい声でこれからを話すデネブ。
こんな風にくだらない会話でも大切で、まるで家族みたいな温かさが私達の間にはある。なんて、幸せなんだろうね。
はぁ、吐いた息は真っ白で、今日はとても寒いんだなと思い出される。
そういえば寒さで鼻がちょっと痛い。でも心はほっかほか。左隣に侑斗の体温がある。それだけで充分。
「なぁ、」
「ん?」
「なに?」
「忘れられるのと、忘れるのってどっちが辛いのかって言ってたよな」
いきなり侑斗がさっきの話を口に出したから驚いた。(ていうか聞いてたんだ・・・)
デネブと顔を見合わせて、うん、1つこくりと頷けば侑斗は急に大きな声で「ばーか!」と言って左右にいる私達を
一発ずつ殴る。(痛い・・・私女の子なのに)
だけど、デネブが固いの忘れてたのか思いっきり殴って侑斗が痛がっていた。そんな侑斗を見て心の中でばーか!と言ってやった。
「ったく、いってぇんだよバカ!」
「ごめん侑斗・・・」
「侑斗が殴んのが悪いんじゃん・・・」
「なんか言ったかよ」
「別にぃ」
「・・・話逸れただろ」
それも侑斗のせいじゃん、という言葉は飲み込んで侑斗の次の言葉を待つ。
空を見上げれば、月はもう大分西に向かっていた。
「話戻るけどよ、」
「うん」
「ん」
「忘れられるのも忘れるのもどっちもな、同じくらい辛いんだよ」
侑斗は、感情の見えない瞳で前を見据えて、そう言った。
私なんかがわかるはずない傷みを、忘れられる恐怖を抱えている侑斗は静かに、はっきりとそう言った。
いつかの未来、その間に私も侑斗のことを忘れてしまうときがくるのだろうか。
その時、私は辛いと感じるのだろうか。そんなの覚えてなきゃ辛いなんて感じるわけない。
だから私は侑斗に「やっぱり忘れられる方が辛いし悲しいよ」と言った。傷むのは、覚えてる方なんだ。と
だけど侑斗は首を振った。
「ちげぇよ」
「・・・なんで?」
「お前な・・・楽しかったこととかも忘れんだぞ。自分の生きて歩いていた道にあったものを忘れるんだ。それはもしかしたら大切なものだったかもしれない。それがわからず過ごすのだって辛いだろ」
そう言って侑斗は私の頭をくしゃりと撫でる。侑斗は、やっぱり優しい。
なんだかんだいってそうやって他人を思いやる侑斗が私は大好きだ。ちらりと侑斗の左隣を見やる。
やっぱり・・・デネブは案の定ハンカチで目元押さえてた。
私もだけどデネブもかーなーり、侑斗大好きだからね。
侑斗の発言に涙腺が緩んだみたい。
泣いてるデネブに気付いた侑斗はびっくりしてデネブにチョップを食らわせる。可愛い奴め。
にやにやしながら見ていれば、「なににやついてんだよ!」と私にもチョップ。(だから私女の子だってば)
やられてばりじゃムカつくから、私も反抗して侑斗にチョップ。デネブもさりげなく侑斗にチョップする。
狭い階段で私達は馬鹿みたいにチョップの攻防戦をした。
笑い声が階段で響き合う中、空は色を変えて私達を迎える。
もう、夜は明けたよ
(寂しくないわけなかったんだ)
(だから君は、)
(私たちを求めてくれるんだよね)
(だから私達は、)
(そんな君が愛しいんだね)