最悪だ・・・なんてついていないんだろう。
中学生になって、初めてのクラスで私の席は男子に囲まれていた。
男子を苦手とする私にとってはこの上なく苦痛でとても怖かった。
いつから男子を苦手になったのかはわからないけど、とりあえず辛い。
ハァ、新しい学園生活なのに・・・とんだ災難だ。
この席になって数週間は過ぎたが、そう思わない日はない。
いや、女の子の友達はちゃんとできたんだけどね。同じ小学校の子とか、クラス表見たときに話した子とか。
そんな子達はみんな遠い・・・あぁ神さま、私が何をしたっていうんだ・・・。
けど、友達はみんな私の席が羨ましいと言う。
何故かというと、入学早々かっこいいと色んな人から言われている白石くんが私の右隣だからだ。
確かに白石くんはかっこいいけど、隣になられても嬉しくない。
現に私は何もしてないのに、白石くんの隣というだけで彼を狙ってる女子に睨まるんだもん。
あーあ、早く席替えがしたい。
そんなことを思っていた、・・・・・・・今日までは。
「ほな・・・これはー・・・お、今目合うたな。、これの答えは何や?」
「えっ・・・」
授業中、何気なしに先生を見たら運悪く目が合ってしまった。
先生が答えを求めている問題はちょうど私ができてない問題で焦る。
ほ、他の問題だったら答えられたのに・・・!!
うわっ本間どないしよ・・・っ!
左右を見たって男子しかいないし、聞けるわけない。
友達を見ても距離が遠いせいで聞けない。
絶対絶命だ・・・!
いよいよ先生の視線に耐え切れなくなってきて、顔を俯かせる。
「さん、」
「・・・?」
右隣から小声で名前を呼ばれ俯いた状態で顔を向けると、少し屈んだ白石くんがノートをこちらの方に寄せて指でトントンとある場所を指差していた。
目を細めて白石くんが指している場所を見れば、黒板に書かれている問題があって・・・答えもあった。
え?これは・・・?
「?この問題わからんのか?わからんならわからんと言いや?」
「あっえっと・・・」
どうしたらいいのかと困惑しながら白石くんを見たら「早よ答えな怒られるで?」と悪戯っぽい笑顔で言う。
その表情に胸がキュンとして、私はそれを隠すように顔を逸らし、白石くんが教えてくれた答えを早口で先生に言った。
もちろん、彼が教えてくれた答えは正解で私は先生に怒られないですんだ。
ホッと息を吐いてから白石くんの方を向く。
・・・ちょっと顔熱いけど、きっと気のせいだよね
「あの、ありがとうな・・・」
「ん、ええよ。困った時はお互いさまやで・・・ちゅうことで、俺がわかんなかった時はさんが教えてな?」
苦手だ、嫌だ、彼の隣なんていいことない・・・そう思ってたのに。
そう言って笑った彼に、胸のときめきは一瞬にして恋になった。
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「・・・ーぃ、おーい、!そこの寝てる!この問題解いてくれ」
「ぅえ・・・?」
・・・どうやら私は寝ていたようだ。
随分と前のことを夢に見ていたらしい。
先生の大きな声で、ぼうっとしていた頭がスーッと冷えていくのがわかる。
黒板の前に立つ先生は「受験生っちゅうのに居眠りとかのん気なもんやなぁ」とブツブツ言っている。
・・・あ、どうしよう。ちょうど先生が言ってる問題だけやってない。
困ったな・・・。
「さん、」
「・・・あ、」
あの時のように、私の右隣から小声で名前を呼ばれた・・・・・・白石くんに。
何の運命か、彼とは中学1年から今までクラスが離れることはなかった。
そして卒業まであと少しとなった3年の三学期、これも何の運命か席があの時と同じ右隣。
私は胸をドキドキさせながら白石くんを見た。
ノートをこちらに寄せ、指でトントンとある場所を指差していた。・・・・・・あの時とその姿が重なって、余計胸がドキドキしてくる。
「?どないした?答えられへんのか?あんな堂々と寝といてそらないわ」
「あ、はい、えっと答えは」
先生の嫌味を流して白石くんが教えてくれた答えを言えば、先生は不満そうな顔をして正解と呟いた。
それから黒板にむかって説明をし始めた。
「・・・あの、白石くん」
「ん?」
「ありがとう」
小声で、だけど白石くんにちゃんと聞こえるような音量で言ったら白石くんは黒板から視線をはずし、私を見た。
「・・・そういえば、このやりとり1年ん時もやったな」
そう言って笑った彼に、私は二度目の恋をしたのだった。
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