うわ・・・めっちゃ緊張するわ・・・!
ドキドキする胸を左手で押さえて、私はそっと机に触れた。
その行為だけでも顔が熱くなる。



(い、いつもここに座っとんのやな・・・)



そっとイスをひいて、恐る恐る座る。



(今、彼と同じ目線なんや・・・)



そう思うと胸の奥がきゅうんとなってとても幸せな気持ちが溢れてきた。
どの机だって同じ形で同じ色で、だけど彼がこれを使っているっていうだけで、それだけですべてが変わる。
イスだってそう。
彼が座ってると思うと、このイスだって特別。
彼は私の世界を変える。
毎日がキラキラとするのは、彼が私の毎日の中にいてくれるから。
彼がいない日は雨が降ったみたいにしとしとと冷たく、悲しくなる。
私では・・・まったく届かない遠い人。
彼の周りにはいつも女子がいる。
すっごく可愛かったり綺麗だったり、そんな子がたくさん。
そう思ったら幸せな気分が沈んでいきどんどん悲しみが溢れてきた。



(・・・本間、嫌な子やな私・・・)



勝手に彼の席に座って浮かれて、勝手に彼の周りにいる女の子に嫉妬して、わけがわからない。
私にはそんなこと思う資格なんてないのに。
少しずつ視界がぼやけてきたので手で目を擦った。
不意に、カタッと音がして不思議に思い辺りを見回した。
だけど何の姿も見えなくて誰もいなかった。
私は首を傾げたが時計の針がもう下校時間を指そうとしていることに気付き、そのことについて深く考えることはせず慌てて席を立ち教室を出た。























放課後、クラスの人たちがまばらに教室から出て行く。
そんな中、私は一人ボーっと自分の席に座っていた。
特に何の用事もないので急いで帰ることもない。
今日も彼は部活、そう思い何気なしに彼に視線を移せば扉へではなくこちらへ向かってくる姿が映った。



(・・・へ?え?)



違う違う。
私のところじゃなくて、きっと違う子のとこへ行こうとしてるだけ。
自分のもとへ来るはずがないと思いつつ、胸は高鳴る。



(や、やって彼が近くに来るやもん!しゃあないやん!)



一歩一歩距離が縮まるたびに私の心臓の音も大きくなっていく。
顔を俯けて彼に聞こえませんようにと願いながら、彼が通り過ぎるのを待った。
・・・が、



(・・・あれ?)



自分の席に影が落ちる。
私は恐る恐る顔を上げると、いつもドキドキしながら遠目で見る―――――財前くんが私の目の前にいる。







「ぇ・・・」

「・・・」







無言で、冷たいわけでもない優しいわけでもない、どこか固い表情で私を見下ろしている財前くん。
私は小さな声を漏らしてから何がなんだかわからずに固まる。



(え、え、え、?なじて財前くんが私を見下ろしてるん・・・?え?え?)



大混乱中の私はパクパクと口を開いては閉じていたが、財前くんが片手を首の後ろにやり私から目をそらした。
そんな動作もかっこよくてクラリとする。
しばらくお互いが無言でいたが、唐突に財前くんがポツリと私の名前を呼んだ。







「は、はい!?」

「お前・・・昨日、俺の席座っとったやろ」

「へ・・・っえ!?なっ・・・ななななんで知っとるん!?」

「ノート取りに行ったら片瀬が俺の席座っとるからノート取れへんかった。おかげで宿題出来ひんかったわ」

「えっあ、やっ、そのご、ごめんなさい・・・!!」







まさか本人に見られていたとは知らず、なんてことを・・・!
財前くんの言葉に一瞬顔を赤らめたが瞬時に青ざめる。
昨日の出来事を財前くんは見ていたらしい・・・。
そこでハッとした。
あの時、微かに聞こえた物音は財前くんだったのか、と。



(う、うわ!!最悪や!多分、というか絶対財前くんにキモイと思われた・・・! たいして仲良うない女子が自分の席に座ってニヤついてたら誰だって引くわ! さ、最悪すぎる・・・!)



もうだんだん泣きたくなってきて潤み始めた目を隠すように俯いた。
これから財前くんのことを見られなくなりそう。
ドキドキしていた胸は、今や違う意味で激しく鼓動している。
もう一度財前くんに「ごめん、なさい・・・」と少し震えてしまった声で謝る。
しかし何の反応も返ってこない。



(や、やっぱ完全に嫌われた・・・)



本格的に泣きそうになってきて唇を噛み締めた。
泣くな、余計嫌われてしまう。
その思いだけで泣くのを必死に我慢する。
すると、財前くんがポツリと何かを呟いた。
あまりにも小さな呟きだったのでうまく聞き取れず、思わず顔を上げる。



(・・・え?)







「財前、くん・・・?」

「せやから、・・・俺と同じこと、すんな。自惚れるやろ」







顔を上げた先には潤んでいた目でもわかるほど顔を赤くした財前くんがいて、私は目を見開いてしまった。
私の視線に気付いたのか、気まずそうに顔を背けた彼の耳は真っ赤に染まっていて、私も自惚れてもいいのだろうかと震える唇で告げる。







「・・・おん」







そう言って目だけをこちらに向け少しだけ笑った彼に、私はついに泣いてしまった。それは、幸せすぎる涙。












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