懐かしい面々が集まる居酒屋。
今日は10年振りに再会する人間も少なくはない。
「よっ、久しぶりやなー忍足!」
「んお、おーか!本間久しぶりやわー!」
そう、この忍足謙也とも10年振りの再会だ。
今日は同窓会。メンバーは中学の時の三年二組。
スポーツ関係じゃ三学年の中で一番強かったが、お笑いではてんでダメだったクラスだ。
なぜかと言うと、白石が毎回みごとーにすべってたのが原因だった。
あの時の白石はある意味で笑えた。白石とともに頑張ってた忍足も結構すべってたけどな。
そんな思い出深いクラスだ。
ふふっと笑いを零せば「うわ、何笑とんねん。思い出し笑いやったらエロい証拠やで」と忍足に言われた。
ちょっとムッとしたがお酒を飲んでたから気分もいいしで反論はしないでおく。
とりあえず、ずっと立っているのもなんだしと思い、忍足の隣に腰をおろした。
忍足は中学時代、男の中じゃ一番仲の良かった奴だ。
もう1つ言えば、初恋の人でもある。
誰にでも気兼ねなく話し、明るく元気で素直な忍足にあたしは惹かれていた。
・・・、正直言ってしまえば10年経った今でも忍足のことが好きだけどね。
「10年かー・・・早いもんやなぁ」
「せやなぁ・・・あたしももう25やわ」
「俺はまだ24やでー」
「そら、あんたは早生まれやからやろ。それでおばさんとか言うたら殴るで?」
「おーこわ!」
昔みたく冗談を言って笑う。
あの時と何ら変わりのない自分達に安心する反面、ちょっとだけ悲しくもある。
お酒をちびちびと飲みつつ、最近のことを話す。
当然だが、あたしの知らないことばかりで勝手に寂しくなってきた。
10年ってやっぱでかいな、なんて改めて思う。
「そうや、ちょお聞きたいことあんねんけど・・・ええか?」
「スリーサイズ以外ならええでー」
「そんなん聞くかアホ!そうやのうてって・・・か、彼氏とかおらんの?」
「・・・・・・は?」
「い、いやお互いええ年やろ?せやから、やっぱ、彼氏とかできたりしたんかなぁて・・・」
「・・・居るわけないやろ。そういう忍足はどうなんよ」
「お、俺!?俺か!?」
「せや、お前や。あんた中学ん時からモテモテやったからなぁーやっぱ今もモテとんのやろ?」
「はぁ!?い、いやそんなんやないし!!ちゅーか、彼女もできたことないねんからな!!」
唐突な質問にきちんと答えてから、そう切り返すと予想外な回答が返ってきて思わず目を見開く。
忍足は白石ほどではないけど確か結構なファンがいた気がする。
顔だって普通の人より整っていて美形の分類に入ると思う。
そんな奴が彼女できたことない、だって?
何の冗談だろう。だって、お前、卒業間近の時かなりの女子に告白されてたの知ってんだからな!!
じと目で見てると忍足は居心地が悪そうに頭をかいた。
「おにーさん、嘘はあかんで嘘はぁ」
「う、嘘やないわ。まぁ告白とかはされたことあるけど、付き合うたことはないし・・・す、好きな奴おったし」
・・・初耳だ。
忍足に好きな人がいたとは・・・。
確かに告白とかされてたけど、彼女ができたという話は聞かなかったかも・・・。
昔の記憶をよーく掘り返してみても、そんな話はなかった。
・・・でも、好きな人に好きな人がいたとか、ショックすぎる。
10年越しの発覚とか・・・ないわ。
忍足が落としたとんでもない爆弾発言にへこみつつ、あたしは忍足の話に耳を傾ける。
「そいつに告白しようとか何度も思ったんやけど結局今の今まで告白できへんかったんや」
「へー。ま、忍足ヘタレやもんなーしゃあないわ」
「ヘタレ言うな!・・・よう話しっとたんやけど、なんや男と見られてへんみたいでな一度は諦めてたん」
「ふぅん・・・一度はっちゅうことは今は違うんか?」
「おん・・・忘れられへんかったからな」
・・・なんや、この、惚気話、は!!
さきほどちびちびと飲んでいたお酒をぐびぐびと飲む干す。
飲まないとやっていけないというか聞いていられない。
まさかこんな話になるとは思ってなかった。
びっくりだっつの!
店員さんに違うお酒を頼んで、忍足の話の続きを待つ。
なんかここまできたらとことん聞いて背中を押してやろうかと思うわ。
「でー・・・あー、」
「・・・・・・なんや、早よ話しぃや」
やってきた新しいお酒を飲みながら、一向に話しださない忍足にしびれを切らして少しばかり喧嘩腰に言葉をなげかける。
すると忍足は自分の頬をペチペチとたたき出した。
突然の行動にお酒を飲むのを止める。
なんだ、そんなに気合がいる話なのだろうか。
少々不安になりながら忍足を見ていると、忍足が小さく「おしっ」と呟いて叩くのを止めた。
その表情に緊張が見えて、あたしもつられて緊張する。
な、なんだっていうんだろうか本当に・・・!
「そのな、実は・・・、」
「お、おう・・・」
「俺、中学の時・・・お前のこと好きやったんや・・・ま、まぁ正直、今もやけど」
「・・・・・・は?」
あまりのことにあたしは口を大きく開けたまま忍足をじっと見つめた。
い、いま・・・なんて言ったこいつ・・・。
理解なんて全くできなくて、頭がぐるぐると混乱する。
そんなあたしに気付いたのか、忍足が顔を赤くしながらさらに言葉を続けた。
「さっき言っとったんは、のことやったんや。よう話すけど男として見られてないのはわかっとんねん。
せやけど、俺お前のこと好きで・・・10年経ったけど忘れられへんかったんや。告白とかもしてへんから諦めもできんくて・・・」
「あ、え・・・ほ、本間に言うとんの、か・・・?」
「・・・じょ、冗談に見えるんか・・・?」
そう言ってあたしを睨みつける目は微かに潤んでいた。
その姿を見て、冗談だなんて思えなかった。
それに、あたしが冗談にしてほしくないと思った。
「う、あ、その、な・・・」
「お、おう。・・・あ、ふ、振るならちゃんと振ったってな!せやないと俺引き摺りそうやし・・・」
「じゃ、じゃあはっきり言うたるわ!あたしは、」
「!!お、おん!」
「あたしは、忍足のこと好きや・・・しかも中学ん時から」
「・・・・・・は?」
さっきのあたしと同じように口を大きく開けぽかんとあたしを見つめる忍足。
そんな間抜けな姿にふふっと笑いを漏らせば、忍足がはっとしたようにあたしの肩を掴んだ。
「ほ、ほほ本間に言うとんのか!?」
「ほ、本間やで・・・ちゅうかこれが冗談に見えるんか・・・?あと、ついでに言うと初恋や」
「お、俺かてお前が初恋や!!」
お互い初恋というのをばらして顔を見合わせると、二人してぶっと噴出してしまった。
緊張しすぎてよく見ていなかったが、忍足の顔はそれはもう真っ赤な顔をしていた。
お酒も入っているっていうのもあるだろうけど、おそらくそれだけじゃない。
そして、きっと、あたしの顔もこいつと同じなんだと思う。
しばらく笑いあっていたが、忍足がふいにおずおずと手を差し出すのが見えて視線をそちらに移す。
「?」
「いや、その、りょ・・・両思いってわかったんやから、よろしく、みたいな・・・」
「あ、あぁ、そういうことか。おん、よろしくお願いします・・・」
あたしも手を出して、忍足の手をぎゅっと握る。
あたしとは全く違う、おっきくてごつごつしてる手。
なんだかさっきより恥ずかしくなってきて、余計顔が熱くなった。
「えと、改めて・・・のことが好きや・・・俺と、付き合うて下さい」
「・・・喜んで」
お互いがヘタレで10年越しに初恋を実らすとか、笑えるけど幸せな恋の始まりです。
(おい、お前ら・・・そういうんは他所でやりぃや・・・)
(し、白石・・・!?)
(見てたんか!?)
(おん、ばっちり見てたでーついでに言うとクラス全員見てたわ・・・ごちそうさまってとこやな)
(なっ・・・!)
(うわっめっちゃ恥ずかしいいいい!!)
(まあ・・・俺としては二人のこと応援しとったからくっついて嬉しいっちゃ嬉しいけど、目の前でイチャつかれると腹立つわ)
(イ、イチャついてなんかしとらんわ!)
(うわーうわーもうみんなに顔向けできひんわ・・・!!)
(はぁ・・・みんなの気持ちを代表として一言。ま、おめでとうなお二人さん)
(し、白石・・・!)
(あ、ああありがとう!)
(っちゅうことで、幸せ一杯な忍足謙也くんにこの同窓会での飲み代は全部払ってもらおかー)
((((((おーそらええわ!!))))))
(ちょ、は、お前ら待てやゴルァァァ!!)
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