あつい、なぁ。 秋になったとしても、夏に近い秋だ。 まだまだ暑い。 体育館は熱気によってむあむあと蒸していた。 汗がポタリと床に落ちる。 ネットのしきりで区切られている体育館の半面に目をやる。 こちらの面は男子がバスケで女子はバレーだ・・・サーブをしようとしてるの後姿が見えた。 髪、のびたなぁ・・・。 いつからは髪の毛を切っていないんだろう・・・なんていうか、髪の毛が伸びてから、すごく、女の子らしくなった。





「木吉ーボーっとしてんなよなぁ!」

「いてっ!」

「って、なに、またさん見てたのか?」

「え、いや・・・」

「いやってお前の視線の先さんじゃん」

「いや、まぁ・・・」

「つぅか大抵お前の視線の先はさんだけど」





大知の一言に心臓がドキリとした。 えっ、という俺の驚きの声は発せられることなく、授業終了のチャイムが鳴る。 ・・・俺、そんなにのこと見てたのかな・・・? ポタリとまた汗が床に落ちた。







。。。。。。。。。。。。。。







「席替えするぞー」





先生の一言で教室中がざわめく。 喜ぶ声もあれば非難の声もちらほら。 俺は・・・今の席が結構好きだったからちょっとだけ残念だ。 窓際の一番後ろはでっかい俺が座ってても誰にも迷惑をかけない。 それに日当たりがいいし・・・、それに・・・。 隣の列の真ん中に自然と視線がいく。 楽しそうに横のやつと話している横顔が見えた。 ちょっとだけ胸がきりりと締め付けられる。 ・・・なんでだ?





「俺おかしな物でも食べたのかな?」

「なんだよ拾い食いでもしたか?」

「したのかな?」

「いや知らねぇよ」





首を傾げて今の原因を考える。 うーん・・・何も浮かばないなぁ・・・。 隣の友人もそんな俺を見て首を傾げた。 そんな俺達に席替えのクジ箱を持った先生がやってきて、箱をトンと俺の机に置く。 ひとまずクジを引いてからまた考えよう・・・なんだか、もやもやするし。 ガサゴソと箱の中でクジをひとつ選んで先生に渡し、先生が「木吉は6番だー」と黒板で書記をやっている子に言う。 6番、つまりそれは廊下側の一番後ろだ。 また気を遣わなくていい席につけてラッキーだな。 クジを引き終わった隣の友人は1番だったらしく(俺とは同じ列だけど一番前)、一番後ろをまたもや引き当てた俺を恨めしそうに見てた。 ふと、顔を隣の列の真ん中に向ける。 あともう少しでがクジを引く・・・近くに、なれたらいいなぁ。 ひとり、またひとりクジを引いて、の番になった。 ドキドキと何故か俺の心臓がうるさい。 がクジを引く、先生が番号を・・・言う。









。。。





「隣よろしくねー!なんか隣の席は久しぶりだねぇ」

「そうだなぁ・・・クラスはずっと一緒だったけど、たぶん、・・・小学校振りじゃないか?」

「鉄平くんの隣ってそんなに久しぶりだったんだぁ・・・」





ガタガタッと机とイスの移動を終わらせて新しい席に着く。 隣にはまさかの。 久しぶりの隣で気分が高揚する。 いくつになっても変わらない笑顔で俺に話しかけてくれて嬉しい。





「鉄平くんは相変わらずおっきいね・・・座っててもすごいや。バスケやってさらに伸びた?」

「あーそう、かも?」





キラキラした目が俺を見る。 なんだか照れくさくて顔を逸らしてしまう。 ああ、まただ・・・また心臓がドキドキしてる。 こんなのはにだけだ。 こんなにもドキドキで全身が燃えるように熱くなるのも、にだけだ。 バスケをやってもドキドキするけど・・・その比じゃないくらいドキドキしてる。





「私めったに後ろの席引かないからなんか新鮮」

「いいだろ?後ろの席」

「うん、お昼寝に最適!」

「テストで困っても知らないぜ?」

「それはダメだ・・・」





たわいない会話なはずなのに、話せば話すほど・・・どんどんと体温は上がっている気がする。 風邪でも引いたのだろうか・・・? ちゃんと体育のあと汗は拭いたんだけどな・・・。 寒くはないけどとりあえず腕をさすっておこう。 腕をさすっている俺を見ては「寒いの?」と聞いてきたが首を振る。 寒くはない。全然。むしろ熱いくらいだ。





「そういえば鉄平くん、声低くなったよね」

「そうだな」

「身長も本当にすっごくおっきくなった」

「成長期だからな」

「手のひらも指長くておっきい」

「バスケットボールもつかめるぜ」

「それに・・・鉄平くん、もっとかっこよくなった」





はにかんだような笑顔に、思わず返事に詰まる。 あれ、俺・・・あれ、・・・え? 発火したかのように顔が熱くなった直後に、全身にもその熱さが駆け巡り、の顔を凝視した。 不思議そうな顔では「鉄平くん?」と俺の名前を呼ぶ。 ドクン、大きく心臓が跳ねた。 ああ、どうしようか・・・これは、さすがにわかってしまった・・・。 なんであんなにものことを目で追っていたのか、なんであんなにも他の奴とが楽しそうにしてる姿を見ると嫌な気分になったのか、 に名前を呼ばれるたびに嬉しくて、が笑顔を見せてくれるたびに心臓が高鳴るのか・・・。 俺は、







のこと、好きなんだ)






















ストンと俺の中に落ちたと思った恋は、どうやら昔からいた恋だった。

中3の秋