よく聞くお話。

『女は男の3歩後ろを歩け』

できる女はそうらしい。
あいや私はできる女だと自負しているが、男の3歩後ろを歩きたいとも思わないし、行動にも移せそうにない。
もともと歩くのが早いこともあるだろうな・・・男の後ろを歩いた記憶はほとんどない。
と、思ったのだが、ちらりと横を見る。
すました顔で女子達の視線を釘付けにしてる、私の幼なじみ。
コイツとは赤ん坊からの付き合いだが、高校になった今でも一緒に行動している。
お互い友達もたくさんいるけど、なんとなく気付いたら一緒にいるから周りに付き合っているのかと誤解されることもしばしば。
私は否定するんだけど、蔵ノ介は毎度女の子に言い寄られるのが嫌だとか言って肯定しやがるから本気で殴りたくなる。
思い出してイラッとすんなーなどと思いながら、足を止めた。
それに気付いた蔵ノ介も立ち止まり、私の名前を疑問符をつけて呼ぶ。
・・・今思えば、私達の定位置というのはいつも隣だ。
こうやって唐突に私が立ち止まって蔵ノ介が前を行ってても、気付いたら蔵ノ介は私の隣に来る。
下がっても前を行っても、隣に必ず来るのだ・・・それは逆も然り。
彼の隣に私も自然と足が行く。
決めてやっているわけではないのだけど、どうしてもその横に行ってしまうんだよなぁ。
今もほら、私が来るのを待てばいいのに蔵ノ介は当然のように私の隣に戻ってくる。





「なにボサッと突っ立っとるん」

「蔵ノ介は後ろ歩いて欲しい派?」

「は?いきなりなんやそれ」

「よう言うやん、できる女は男の3歩後ろを歩くーって」

「へーそうなん?・・・あ、お前あかんやん、俺の後ろ歩いてへんし」

「あんたの後ろなんて死んでも歩きたないわ」

「速度あげて後ろ歩けるようにしたろか?」

「余計なお世話やアホ」

「可愛えないなー」





ゆっくり、お互いの足がまた進み始める。
蔵ノ介と軽口を叩きながら歩くには、やはりのこの距離が一番なのかもしれない。
一人完結をし納得したところで今度は蔵ノ介が立ち止まった。
なんやと進んでしまった足を数歩下がらせる。





「どないしたん?」

「なーー」

「おー?」

「俺はには後ろより隣歩いててほしいわ」





もう終わったかと思った話はまだ蔵ノ介の中では終わっていなかったようだ。
私はワンテンポ遅れて返事をする。





「・・・へー」

「・・・お前聞いといてその反応はないんとちゃう?」

「いや、別にあんたの前でできる女になんてなる必要なかったから聞かなくても良かったなーと」

「女子力低下やな」

「あんたの前でそれもいらんやろ」





私がそう答えると蔵ノ介は少しだけ目を伏せて、・・・寂しそうに笑った。
何故そんな表情をしたのか気になって声をかけようとした時には、もういつもの蔵ノ介に戻っていて 「確かにお前が突然しおらしくなったら病気かと思ってまうわー」なんてのたまいだすから、一発肘鉄を食らわしておく。





「いったー・・・本間ありえへん・・・暴力反対やで・・・」

「失礼なこと言うからや」





フンと鼻を鳴らせばクスクスと笑い出す蔵ノ介。
「バーカ」と言えば「お前のがバーカ」と返ってくる。
実にくだらないやり取りだ・・・でも楽しい、私も自然に笑顔になる。
「ほな行くか」の声でまた歩き出す。
いつか蔵ノ介に彼女ができたら、 その子は蔵ノ介の3歩後ろを歩くのか、それとも隣を歩くのか・・・そんなのわからないけど、私という人間は蔵ノ介の隣に居たいな、と思う。
慣れてしまったこの定位置はなかなかに心地よいものだ。











隣同士がいちばん自然











「これから先もの隣に居るのは俺だけがええな」

「?何か言うたか?」

「んーお前デコ広なった?」

「死ねッ!!」