近寄りがたい雰囲気を出している少女がいた。 朝から港でずっと本を読んでいて、日が傾けばふらりと姿を消す。 誰かと一緒にいるところも誰かと話しているところも見たことがない。 本当に不思議な少女だ・・・見かければ見かけるほど、どんどん気になっていた。 いつもの俺ならすかさず彼女に話しかけに行っているのだが、最近じゃ俺の近くにはいつもJOJOがいる。 俺はどうしても一人の時に彼女に話しかけに行きたい。 他に寂しそうなシニョリーナを見かけた時はJOJOがいようが関係なしに話しかけに行き、 JOJOに見せ付けるようにシニョリーナとの会話をはずませるのだが、正直言って彼女をJOJOに見せたくないのだ。 俺自身全く彼女のことを知らないというのに、こんな風に思ってしまうなんて重症だ、わかってる。 買出しに出てきて、遠くから彼女を見つめたり、 JOJOと別れて食材を買う時は早めに終わらし海を見る振りをして彼女から3メートル離れた場所で座ったり、 まるで・・・変態のようだ。 もういっそJOJOのことなど気にせず話しかけてみようか。 本にばかり向けられているその長い睫毛に縁取られた綺麗な瞳を俺に向けて欲しい。 君はどんな声をしているだろうか? どんな声で笑うんだろう? 笑顔はやはり眩しいくらい愛らしいのだろうか? 手の柔らかさは? 見た感じ小柄だからきっと俺の腕の中にすっぽりとおさまってしまうだろうな。 俺は、君の事を知りたい。 名前を呼びたい・・・・・・・・、名前すら知らないぞ・・・。 がくりと項垂れると、突然項垂れた俺に驚いたJOJOが「シーザーちゃん下痢か?」と汚いジョークをぶちかましてきた。 シャボン食らわすぞオイランチャーだぞコラ、と思いつつ、もう少しで彼女がいつもいる港が見えてくる。 今日は買出しの物が多いのでJOJOとは別れて買い物をする・・・彼女に近づけるチャンスの日だ。 いつもは3メートル開けてるいる距離を2メートルくらいに縮めてみようか・・・。 密かに計画を立てJOJOと別れる。 とっとと買出しを終わらせて、JOJOとの待ち合わせ時間まで彼女との時間をたっぷり堪能するぜ! そう意気込んだ瞬間、ふわりと花の香りが鼻を掠め・・・俺の目の前を彼女が通り過ぎた。 突然の出来事に俺は持っていた使いの紙を手放してしまい、それは風にさらわれ・・・彼女の足元に落ちる。 ア、アアアアまさかまさかだろォ!? カッチンと硬直してしまった俺の体は馬鹿みたいに動けない。 彼女が、しゃがみこんで、落ちた紙を、拾う・・・そしてくるりと振り返り・・・固まっている俺と、目が合う。 その瞬間、ぶわっと全身を駆け巡った熱に、俺はようやく指先を動かせるようになった。 震える指先を彼女の持つ紙へ向ける・・・彼女はパチパチと瞬きをしてから、数歩の距離をすぐさまに埋めて俺の目の前に立つ。 初めて見た彼女の瞳はどこまでも澄んでいて宝石のようで、思わず見惚れてしまう。





「これ、貴方のですか?」

「・・・」

「?あの、すみません、これは貴方のなんですか?」

「!あ、ああ、そうだ!すまん、その、ありがとう・・・!」

「いえ」





差し出された紙を受け取る際に触れた指に心臓が飛び出すかと思った。 ドキドキと内から聞こえる心音に頭がクラクラする。 彼女の声も瞳同様に澄んでいて、ずっと耳元で話していてもらいたい衝動に駆られるほどに綺麗だった。 いつまでも紙を受け取った体勢で惚けている俺に、彼女は怪訝そうな顔をした後「では」と一言言って去っていった。 その際また花の香りがして、ああ、彼女はもしかして妖精なんじゃないかと思えてくる。 後ろ姿に羽が生えていても何ら違和感はない。 俺の視界から彼女がいなくなるまでその場に立ち尽くし、彼女とした会話を頭の中で何度も何度も繰り返す。 何とも言えない距離でずっと見つめていた彼女とあんなにも接近してしまうとは思ってもみなかった。 彼女が拾ってくれた紙を握り締めて、スキップでもしてしまいそうな気分を必死に押さえつけ早々に買出しを済まし、 彼女が向かったであろう港に行きたい。 本を読む彼女の隣に、俺は腰をかけてもいいだろうか? 彼女ときちんと知り合いたい・・・俺は、彼女との今の接点を確実なものにしたい。 後ろから見つめていたあの遠い距離と、精一杯の3メートルは卒業だ。 そこでハタと気付いたのは・・・今まで出会ったシニョーナ達にここまで強く執着しただろうか、ということだった。 おかしい・・・俺は何故そのことを今の今まで考えなかったのだろう・・・。 彼女を思い出すと全身に電撃が走る・・・たった数分だというのに彼女と関わった時間は何よりも輝いていたものになっている・・・、 今までと全く違う、シニョーナだ。

・・・ああ、俺は、彼女のことを・・・













好きかも、しれない
その一つの考えは、綺麗に俺の胸へと落ちていった。