私達の高校は学年が上がった春に校外学習というものがあり、少し遠出をする。 いわば、遠足みたいなものだ。 今日はその校外学習の日。 行き先はなんと・・・遊園地!! 校外学習という名の遊びに只今来ております! キャー!と心が踊る・・・横にいる人を見てさらに心が躍る、キャー!
「遊園地とかめっちゃ久しぶりだわ・・・」
「俺中学卒業ん時来たよーなー水戸部ー」
「・・・」
「アトラクションどこ乗るとか決めてある?」
「ハッ!アトラクションのあと楽し「伊月息止めてろ」なんで!?」
「どっか行きたいとこある?」
「ぃえ!?と、とくには!」
「そっかー」と言って小金井くんはバサッと遊園地のマップを広げた。 ここに来たことがある小金井くんと水戸部くんがどこどこはオススメだとかを言っているが(水戸部くんは指をさして)全くそれらの内容は私の耳には入ってこなかった。 だ、だだだって!今、私の、隣には・・・!
「ねー日向はなんか乗りたいのないのー?」
「俺?んー・・・俺も特にねぇんだよなー」
絶賛片思い中の日向順平くんが立っておられます・・・! ひううこんな風に隣に日向くんいるなんて・・・委員会の資料たんまり持ってた時に手伝ってくれたあの日以来だよー! 私それから貴方にゾッコンですー! それにしても私は本当に友人に恵まれている・・・! クラスメートで同じグループになった小金井くんと水戸部くんは日向くんと同じバスケ部に所属していてお友達だ。 もともと一年の時から小金井くんと水戸部くんとは仲が良かったこともあり、 私が密かに日向くんを思っていることを打ち明けたら、快く協力をするよ!と明るい笑顔とともに二人はそう言ってくれた。 そんな二人の協力により、本日の校外学習の遊園地周りは・・・クラスが違うというのに!!日向くん達と行動できることに! でもメンバーが私以外バスケ部の方でなんていうか私場違いじゃないかなぁとそわそわしていたけど、 小金井くんがこっそりと「ってどこでも溶け込むよね!なんかほら、空気みたい!」とか言ってくれたけど、何それ喜ばしいこと?ねぇ? なんてペチャクチャ脳内で喋ってるといつの間にか進み出す一同。うわん!待って! たたっと小走りで行けば、みんなの行き先はジェットコースターらしい・・・うん、遊園地に来たって感じでいいね! うふ、と笑いを漏らすと水戸部くんの心配そうな視線が刺さる・・・あの、笑っただけです・・・あの、やめて小金井くんも大丈夫かーみたいな顔で見てくるのやめて。 それから様々なところを回って楽しんだ・・・ジェットコースター連続で5回は真面目にきつかった・・・相田さんが小金井くん殴って止めてくれなかったらあと何回乗せられたことやら・・・。 というかみんなノリが良すぎるからついつい小金井くんに合わせて私もつられて何回も乗っちゃったよね・・・日向くん後半目が据わっててやばかったけど・・・。 今日は本当にとてもいい日だ・・・笑いすぎて若干顔が痛い。 け、結構日向くんと喋れたと思うし、今日初めて喋った伊月くんと相田さんと土田くんとも楽しく会話できたと思うし、小金井くんはうるさかったけど相変わらず水戸部くんは優しいし! 雲ひとつない真っ青だった晴天の空はいつの間にか優しい茜色に変わり始めていた。 そろそろ集合時間になるだろう・・・日向くんとお別れの時間かぁと思うとしんみりしてしまう。 普段クラスが違うからめったに会えないけど、今日は一日中日向くんといれて日向くんの色んな顔が見れて幸せだったなぁ・・・。 こんな充実した一日を過ごせたのも、小金井くんと水戸部くんの配慮のおかげだ。 今度お礼にお菓子でも作ってこようかな・・・あ、あわよくば、私が作ったお菓子がおいしかったーっていうのを日向くんに言ってくれるといいなぁなんて! 「、料理うまいんだって?今度俺にも作ってくれよ」な、なーんて!なんて!言われちゃったりして!とか期待しちゃったりして! 一人で盛り上がって一人で顔が熱くなる。今一番後ろ歩いててよかった!こんな顔とてもじゃないけどお見せできませんからね! だが誰かに見られる前にこの情けない顔をなんとか持ち直さねばと、顔をむにむに揉んでいたら、前を歩いていた土田くんが止まった。 ん?何故だろう・・・土田くんの背中から緊張が漂っている・・・。 ひょこりと前を覗き込み・・・案内人小金井くんと目が合う。 最後に、と小金井くんを先頭にやってきたのは・・・、お化け屋敷だった。 お、おおおお、おお・・・。 思わずひくりと口の端が引きつる。 え、えー・・・皆さん本気ですかー、えー・・・。 可愛い子ぶるつもりはないが、私はあまりこういう・・・怖いのは得意じゃないんだよね・・・。 きょろりとみんなの反応を見ると・・・みんな顔あおーい!私だけじゃない! これはお化け屋敷ナシの流れに・・・
「さーて!そろそろ集合の時間なの!ですが!その前に、というか、最後の楽しみオバケ屋敷だよー!」
「なにが楽しみだ!全然面白くねぇよ!」
「日向怖いの?」
「こわっ、怖くねぇけどよ!」
「じゃあいいじゃん!俺、ここは絶対最後に回ろうと思ってたからさーちゃあんとほら!あみだ作ってペア決めといたんだ〜」
「はぁ!?」
「まぁ日向落ち着いて・・・」
「伊月黙って」
「俺日向に何か悪いことしたか!?」
日向くんが小金井くんに猛抗議をするが、小金井くんはそれをへらりとかわして何故かとばっちりを受ける伊月くん。 そしてずっと黙っていた相田さんが口を開いたかと思いきや「いいじゃない、行ってきなさいよ」と・・・え、相田さん行かないの!? 相田さんは近くにあったベンチに座ってこちらに手を振る・・・振り返す私・・・いやいやそうじゃない!
「え!相田さんは行かないの!?」
「うん」
「う、うんって・・・!」
「さんは私に気にせず楽しんできて?ね?」
「う、うん・・・!」
ね?で可愛らしく首をかしげながら言われて反射的に頷いてしまった。私の馬鹿・・・! 完全に私は行くみたいな感じになってしまってどうしようと思って慌てていると、水戸部くんにぽんと肩を叩かれた。 救いの手!?かと思いきや水戸部くんの背後にいたらしい小金井くんがウインクして登場。
「俺と水戸部がスタートしたら次伊月とつっちーでー、ラストと日向だから!」
「え」
ひゅ・・・・・・日向くんとペア!? カッと目を見開くと小金井くんが短い悲鳴をあげた。 えっ、ちょっ、本気で日向くんとペア!? う、うれしいけどこわいよどうしようよこれ!! 溢れ出る私の動揺オーラに背後にいた土田くんにとても心配された。 と、とりあえず、私はこのお化け屋敷をクリアするために日向くんの邪魔にならないよう・・・つ、つかず離れずでついて行った方がいいよね・・・。 きゃーこわーい!と引っ付けるくらいまでの仲だったら良かったのだけど、如何せん私はまだ日向くんにとっては友達の友達レベルの存在なので自重しとく。 仮に日向くんのお友達に昇格したところでそんな引っ付くなんてそ、そん、そんなことできませんけどもね!!
「、とっとと終わらせるぞ・・・!」
「!!は、はい・・・!!」
いつの間にか小金井・水戸部ペアが行き、伊月・土田ペアが行き・・・残るは私達だけになっていた。 ごくり、生唾を飲み込む・・・隣にいる日向くんは真っ直ぐとお化け屋敷の入り口を見据えている。 よ、横顔もかっこいい・・・。 入り口のお姉さんが「お次の方どうぞー」と扉を開け・・・ついに、始まった、日向くんとのラストランデブータイム・・・!
***
「っあは、あははははは!!」
「うおおおおあ?!なっなんだよ!急に笑うな!!」
「ご、ごめん・・・!でもなんていうか怖いの通り過ぎて笑いがこみ上げるというか・・・!」
「俺は今のお前のが怖かったっつのダァホ!」
もう本当に限界だ・・・笑っていないと大泣きそうなレベルで超絶怖い!! 先程から脅かしに来るお化けがとか人とか機械だってさぁわかってるよ? わかってるけどどうしようもなく怖くて、でも泣くわけにはいかないと思って踏ん張って笑ってしまっているわけなんだけど、 私の笑い声に日向くんが反応して肩を揺らしているのはとてつもなく申し訳ないと思ってる・・・思ってるけども友達の友達に泣かれても困るでしょ!?これ自己防衛だから許して!! このお化け屋敷はどこまで続くんだろう・・・帰宅部な私は大笑いしただけでも腹筋に相当なダメージくらってるよ・・・。 お化けが出るたびに大笑いをして日向くんを怖がらして、ああ、もうっ私笑っても日向くんに迷惑かけてるよー!最悪だよー! 違う意味でも泣けてきそうだ・・・そう思った瞬間、バンッと後ろからどこか扉の開く音が聞こえて振り返って、――――後悔。
「・・・ねぇ・・・まって・・・?」
「−−−−−−ッ!?」
血だらけのゾンビさんが刃物を持って立っていて戦慄・・・声にならない悲鳴が喉から出る。 完全に私は足が竦んでしまって、そのゾンビさんから逃げる術を失ってしまったように立ち竦む。 あ・・・ど、どうしよう・・・日向くんは・・・? だけど、恐怖心はマックスでピークだったのに、私の頭の中にはやっぱり・・・日向くんがいて、 近付いてくるゾンビさんから目を日向くんに向ける。
「えっ・・・!」
「ぼさっとしてんなッダァホ!!」
おっきくてがっしりとした手が、力強く私の手を握って・・・引っ張られたと思ったら足が動き出す。 さっきまで竦んでいた足が嘘みたいだ。 日向くんに引っ張られ周りの景色なんて見れない速度で廊下を駆け抜けていく。 後ろから私達を追ってくる怖い声が聞こえても、前を走る大きな・・・大好きな人の背中を見ていたら、怖いのなんて吹っ飛んじゃうよ! 本当に日向くん、かっこよすぎだよぉ・・・っ! 全力疾走の息苦しさと握られてる手の痛さに夢じゃないんだなぁと実感して、怖さはなくなったけど感動で泣きそうだ。 途中足がもつれて危なかったけど、日向くんが「あともうちょいだから頑張って足動かせよ!」と声をかけてくれたので、まだ、頑張れる。 日向くん越しに、明るい光が見えた・・・よ、ようやく出れる・・・! 出口が見えた安心感でぎゅっと手に握ると、日向くんもまた握り返してくれて、ふわあああお調子者でごめんなさいお化け屋敷入れてよかったなんて思えてきた・・・!
「っし、出れた・・・!」
「っぜぇ、や、やった、ぶふっ!!」
バッと出口に飛び出してボスンッと勢いよく前にいる日向くんの背中に顔をぶつける。主に鼻を強打した。 痛みに声をあげそうになったがそこは我慢をして、鼻を押さえつつここまで連れ出してくれた日向くんにお礼を言う。 息も絶え絶えな私と違って、やはり運動部、少ししか息が乱れていない・・・さすがです・・・。 日向くんは私がぶつかった背中を擦りつつ、微かに笑ってから「気にすんな」と私の額を小突いた・・・やだ、もうどこまでも好きだよ日向くん・・・! さらには私の息が整うまで日向くんは待ってくれて、心臓は静まるどころか激しくなるばかりだ。 しかしいつまでもここにいるわけにはいかないしいたくないので、そろそろ行こうかと言うところで小金井くんが私達を迎えに来てくれた。 それに申し訳なさを感じつつ、集合時間も危ないこともあり急いでみんなのところへ行こう、とした時、
「てか、日向たちいつまで手繋いでんの?そのままで行ったらみんなさすがにびっくりすると思うよ?」
「「!!?」」
言われるまで忘れていた熱が、一気に顔まで侵食した。
慌てて離した手
「ご、ごごごめんね日向くん!!出たのにいつまでも握っててすみません!!」
「い、いいいいいや俺こそ悪い!!なんつーか握り心地よくて俺も離すのわす、わああ何言ってんだ俺!!」
「ひー!肉付きよくてごめん!!」
「ぎゃー!そういう意味じゃねぇ!!」
「?二人ともお化け屋敷でなんかあったの?」
「あ!キタ!キタコレ!お「はい、集合時間あるからさっさと行くぞ伊月」
「・・・水戸部ー、二人ともあんな顔真っ赤にさせてさ、もう秒読みだよなぁ」
「(こくん)」
これは付き合う一ヶ月前の話。