この頃、戦がなく平和な時の中、城内に閉じこもり鍛錬に執務の繰り返しをし少しばかり退屈だと思っていた。
その気分転換として、城外のどこかを散歩しようとふらふら当てもなく歩いていたら、
道草にしゃがみ込む少女の後姿が見える。
何をしているのだろうと近づいてみたら、少女が突如顔をあげた。
その少女は困った顔をして私を見上げる。
眉尻を下げ頬を微かに赤らめ唇をきつく結んでいる姿に人知れず胸を跳ねさせながら私は恐る恐る声をかけみた。
すると大きな瞳から一粒の涙が頬をすべり落ちた。
その姿を見て何が何やらわからず、少女と言えど女性を泣かしてしまったという罪悪感が胸を打ち、
慌てて懐紙を取り出す。
「こ、これをお使いください」
「あ、ありが・・・と、ございますっ・・・!」
懐紙を手渡した途端、彼女は次々に大粒の涙を零しだした。
小さな体のどこに溜めいていたのか、彼女の瞳から沢山零れる涙は、太陽が反射しきらきらと輝いている。
まるで・・・宝石みたいだ、と不謹慎ながらそう思ってしまった。
「あの、どうなさったのですか?」
「ぅっ、じ、実は・・・、っひくっ」
話をするため涙を止めようと目を擦る姿に胸が締め付けられる感覚がした。
な、なんなのだろう・・・。
胸に手を当て首を傾げていると、やっと落ち着いてきたのか、彼女が息を詰まらせながらも口を開く。
「すっ、すみません・・・こ、こんなお恥ずかしい姿を殿方に晒す等・・・本当に、すみません・・・っ」
「い、いえ!」
「実は・・・、その、母から貰った・・・か、簪をなくっ・・・失くして、しまって・・・!!」
彼女はそう言うとまた涙が流し出した。
失くしたことでこんなにも泣くとは、余程その簪が大事だったに違いない。
私は何としてでもその簪を彼女のために見つけようと、泣いている彼女を近くにあった大きな石の上に座らせ、
彼女がしゃがんで見ていた草が生い茂ってる場所に入った。
「えっ・・・、あっあの!」
「はい?あ、貴方はそこに座っていてくだされ。きちんと見つけてきます故、・・・あ、その簪の特徴を聞いてもよろしいですか?」
「あ、えっと・・・紅い蝶が、付いているのですが・・・って駄目です!
わたっ私なら大丈夫ですので、見ず知らずの殿方にそんなことしてもらうなんて恐れ多いです!!
それに見るところ・・・お、お侍さん・・・ですよね?」
「?はい。」
「でしたら、余計そのようなことをしてもらうなんてできません!」
「・・・私は、したくてしてるので別に気にしなくても平気ですよ?」
「駄目です!!」
先ほど泣いていたとは思えないくらい大きな声を出して、彼女も私のいる草むらに入ってきた。
大きな瞳にはまだうっすらと水の膜がはっていたが、涙はもう零れていない。
私はもう泣いていないことに安心しながら、時々、隣にいる彼女を窺いつつ草を掻き分けて簪を探す。
彼女の一生懸命に簪を探す姿はとても健気で愛くるしいと思う、・・・・・・愛くるしい?
ピタリと今まで動いていた手が止まる。
わ、私は何と・・・、自分の言いかけた言葉に頭が混乱した。
「・・・?どうかなさいました?」
「っ!!あ・・・いえ、なんでも、ないです」
「そうですか?・・・あっ!!」
「えっ!!」
「顔が赤いですよ!大丈夫ですか!?」
彼女にそう言われて、確かに自分の顔が熱いことに気付く。
ど、どうしたというのだろう・・・、か、風邪か?
い、いや、この幸村、風邪など引いたことはないというのに・・・。
大丈夫だということを言い、心配そうに私を見る彼女の瞳を見返せば、なんだか頭がくらりとし眩暈がした。
顔も、さらに熱くなった気がする。
ほ、本当にどうしたんだ・・・!
「本当に大丈夫ですか?まだ顔が赤いですよ?」
「う、だ、大丈夫です。」
私はこれ以上、彼女の瞳を見続けることは何故だか恥ずかしくて目を逸らした。
と、とにかく、簪を探すことに専念しないと。
(あっ・・・)
指先に硬い何かが触れ、それを掴み引っ張り出すと綺麗な紅い蝶が太陽に反射しきらきらと輝く。
なんて綺麗なんだろうと見とれていたが、すぐさま彼女が言っていた簪の特徴と一致した。
私は隣で探している彼女の肩をそっと叩いて、簪を目の前に差し出した。
「これ・・・」
「はい?・・・ああ!そ、それです!!あ、ありがとうございますううう!!」
彼女は簪を掴む私の手を両手で包み、何度も礼を告げた。
私も見つかって良かったと言って・・・そこで気付く。
私の手は未だ彼女の両の手で包まれている。
そのことに少し治まっていた顔の熱がまたぶり返してきた。
彼女の手は私のより幾分も小さく、とても柔らかくて温かい・・・私とは正反対すぎるそれに胸が急激に締め付けられ
、次には全身が熱くなった。
「あ、え、あ・・・ああああの!」
「本当に・・・本っ当にありがとうございます!!」
「いっいえ!そそそそんな・・・!」
掴まれている手に動揺していると、目の前で彼女の頬に静かに一粒の涙が伝う。
私は石のように動けなくなった。
先ほど流していた涙とは違う涙に、あぁ、私はどうしたというんだ。
彼女のすべてから目が放せない。
「母に貰った、何よりも綺麗な簪なので・・・本当に見つかって良かった・・・!
お侍さん!!本当にありがとうございます!!このご恩は決して忘れません!・・・あ!
そうでした、私まだ名前を言ってませんでしたね!すみません!
では、その、申遅れましたが私の名前はと申します。
お恥ずかしいところを何度もお見せしてしまい大変申し訳ございませんでした。
あの、是非ともお礼がしたいのですが・・・」
「・・・え!!い、いえそんな気を使わずとも・・・!」
「そんなの駄目です!!貴方様のおかげでこの簪が見つかったのですからお礼をさせて下さい!!
お礼は・・・あ、実は私、城下町の北側にある団子屋で働いているんです。もし貴方様がお暇な時があれば、是非お立ち寄りください!」
「っは、はい!!必ずや参ります!!」
その簪より綺麗な貴女に、
会いに行きたいと思います。
「っえ、えぇ!?あ、愛ですか!?」
「あぁそうだ幸村!それは愛だ!」
「し、しかしたった一度しかお会いしてない方なんですよ!?」
「それは一目惚れというやつだ。愛には変わりない」
「あ、愛・・・」
、殿・・・そっと心の中で呟いて、密かに心を温めた。
(彼女を助けたい気持ちが『義』、また彼女に会いたいという気持ちが・・・『愛』ですか?)
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キャラ崩壊ばろす^p^