あの日以来、私は何回も海面に顔を出してはあの豪華な船と金髪の美形さんを探している。
また会える確立なんて皆無に等しいのはわかっているけど、探さずにはいられなかった。
会いたい、ただその思いだけで私は今日もお姉さま達には内緒で海面に向かう。





「あれ・・・?今日もどこかに出かけるの?最近よく出かけるね」

「まあね」

「うん、まあ、それは別にいいんだけどさ、ちゃんと家のことはしてから出かけてくれる?」

「チッ」

「舌打ちしてもダメだから」





空気の読めないツナお姉さま。
海面へ向かおうとした私の尾を掴み、大量に汚れた食器どもがごちゃごちゃある台所に連れてかれた。





「これ誰の仕事?」

「私の仕事」

「わかってんならやりなさい」

「あとでやる」

「それ先週から言ってる」

「違う違う先々週から言ってる」

「いい加減にしろ」

「ぶっ!」





・・・痛い殴られた。

女の子に手を上げるのってホントないと思う。
ここの奴等はみんな容赦ないから嫌だ。特にタコみたいな頭してる奴。
殴られた頭を擦りながら、現状を見やる。
目の前に広がるのはキラキラの海面ではなく私の怠惰のあと。


(まあ確かに先々週からサボったのはまずかったな・・・もう、なんていうか・・・食器の山できっちゃってるもん)


ツナお姉さまも珍しく本気で怒っていたらしく、「この食器を全部洗うまで飯食えないと思ってね」なんて鬼畜なことを言ってきた。
ご飯食べれないとか死活問題だ。
私は渋々一番大きな皿を手にして、食器洗いをスタートさせた。





***





約2時間。
これは食器洗いの時間である。
どんだけかかってんだよとか思ったであろう。
マジでそれくらいかかる量だった。


(疲れた・・・)


なんだか肩が凝った気がする。
ぐるんぐるんと肩を回して、近くにあった紙を手に取った。
宛名はもちろんツナお姉さま。
まず初めの一行は「ちゃんと洗ったどうだざまぁみろ」だ。
それからつらつら書いて最後に「出かけてきます」と書いて終了。
淡い期待を胸に、私は海面へ向かう。





***





(なんていうことだ・・・!!)


顔を出した先は大嵐。
確かに海荒れてるなーとか思ってたけど、まさか大嵐とは・・・驚きすぎて目から鱗が飛び出そうだ、いや飛び出ないけど。
暫く大荒れの海にプカプカしてたが、そろそろ潜らないといくら私でも危ないと感じ始めた。
もし変な波に呑まれて変なとこへ流されたら無事に帰れる自信なんてない。


(きっとあの人だってこんな日に海にいるわけないから早く帰ろう・・・)


そう思い海に潜ろうとした時である。
一瞬、たった一瞬、暗く淀んでいた海でピカリと何かが光った。
私は目を細め一瞬光ったであろう場所を見つめると、荒れ狂う波と雨の中に大きな何かがいることに気付く。


(ん・・・?なんだろあれ)


それは徐々にこちらへ向かっているかと思えば遠ざかっていったりとよくわからなかった。
危ないから帰らないといけないけど、一度興味を持ってしまった私はそれが何かを確かめたくなって、荒れ狂う波をうまく泳ぎぬいていきその何かに近づく。


(っちょ・・・!!)


見えた、そう思った時に私はさらに驚いた。
だって、私が見つけたのは・・・、


(あの時の豪華船じゃんか・・・!)


暗く淀み荒れ狂う波の中にいたのは、私がさっきまで探していた豪華な船だった。
船体は高い大波に揺られ、今にもひっくり返ってしまいそうだ。


(ど、どうしよう!えええっと、ど、ど、どうしよう!)


私の頭の中ではずっとどうしようの言葉しか浮かんでこなくて、あわあわと揺れる船体を見つめることしかできない。
て、ていうか・・・、


(あの美形さんは!?)


もし、この豪華な船があの日見た船と一緒だったら、もしかしたらあの人がいるかもしれない!
そしたら大変だ・・・この船が沈んでしまったら彼は・・・!
最悪なシュミレーションが見えてしまい、慌てて頭を左右に振る。


(きっと大丈夫・・・こんだけ豪華でおっきいんだもん、そう簡単に沈んだりしないでしょ!だからあの人が乗っても大丈夫!)


だけど私の考えはいとも簡単に違う意味で崩された。
もちろん船が沈んだわけでない。
でも、


(な、あ!?)


船体が大きく揺れた時、あの日から忘れられない、あの金髪の美形さんが海に投げ出されたのだ。


















初めて私の足が、
(二本の足でなくてよかったと思った瞬間だった)