「三橋くんは、私にすべてくれますか??」

「う、ぇ・・・??」




オレがパンを食べていたらちゃんがオレを見つめていることに気づく。なにかな?って思っていたら、今度は不思議なことを聞いてきた。
オレは その質問がよくわからなくて、首を傾げると、ちゃんがオレの袖を控えめに掴む。上目で見つめられて、ドキッと心臓が鼓動した。
(どうしよう、顔熱い)




「え、え っと、」

「三橋くんを・・・私にくれますか?」

「オ、オレ、を っ?」




自分を指差すと、ちゃんはコクンと小さく頷いた。




「うん。そう。私、三橋くんのすべてが欲しいの。」

「え、 あ、の・・・っ」

「・・・・・・なぁんて、ウソです。ごめんなさい、変なこと言っちゃって」




やっぱりよく質問の意味がわからなくて戸惑っていたら、ちゃんはそんなオレに気づいて困ったように笑ってから冗談っぽく言って会話を終わらせた。
でも、ちゃんの瞳は悲しそうに揺れていて、オレが馬鹿なせいで、ちゃんの言ってることがよくわかんなくて、それで彼女を悲しませているなら、
オレはなんて、最低なんだろう。いまだに掴まれている袖に視線を向ける。(あ・・・)
そこでオレはハッとした。・・・そっか、わかった。かもしれない・・・
パンが少し口に残っていたからそれを飲み込んで、口を開く。




「あっ、の、ちゃ、んっ、」

「うん・・・?」

「もし、かしてさみしっ、いの ?」

「へ?」




オレの言葉にぽかんと口を開けるちゃん。あれ、もしかして言いたかったことの意味が違かったのかな?
ど、どうしよう・・・!!!慌ててなにか弁解しようにも、なんて言ったらいいかわからなくて、余計慌てる。 (なんたってオレの頭の中では、もうどうしようしかなかったカラ!)
ホント、どうしよう、これじゃちゃんに嫌われちゃう、よね・・・!!そしたら、自分の目が段々潤いを増してきた。ああ、情けないっ・・・!
けど、ちゃんはそんなオレを見て嬉しそうな顔をする。(あ、れ・・・?)




「・・・・・・・すごいね、三橋くんは」

「へっ!?」




ちゃんの口から、思わぬ言葉が出て、今度はオレがぽかんと口を開けた。そして目の潤いも乾きに変わる。
目の前のちゃんはオレの袖を掴んだまま机に乗せている腕に顔をうずめた(あっ、か、かわ、いい・・・)




「あのね、実はね、」

「う、んっ」




途切れ途切れちゃんが話し出す。オレはそれを聞き逃さないように必死に耳を傾けた




「ホントは、・・・寂し、かったの。」

「えっ え、っと、 なん、でっ・・・?」

「だって、三橋くんはいっつも野球のことばっかりで、」

「うっ・・・」

「だから、野球で満たされてる三橋くんには私はいらないんじゃないかって思い始めて・・・」

「!そ、そっ、そんなこと、ない、ですっ!!」

「っ、三橋くん・・・?」




オレが突然大きな声を出したのに驚いて顔を上げたちゃん。(オレ もこ、んな大声、びっ、くり・・・っ!)
たしかにオレは野球のことしか考えてない、けどっ
でも、好きの違いくらい、ちゃんとわかってて、だから、えっと、
冷たくなり始めてる自分の手をさするように握って、いつも逸らし気味な視線をちゃんに合わす
さっきまでのオレみたく目を潤ましたちゃんの目にオレが映った



「オ、オレ、は、やっ野球でいっぱいかも、だけどっ」

「うん・・・」

「っでも、こ、心は、ちゃんでいっぱい、だよ」

「っ!み、三橋、くんっ・・・!!」




ちゃんはオレがそう言うと、綺麗な涙を流し始めた
オレの袖を掴む指が白くなるほど、強く握り下を向いて嗚咽を押さえ込むちゃんにオレがしてやれることはなんだろう
遠慮がちにちゃんの頭に手をのばす。うっ、ふ、くぅ、小さな肩が揺れるたび、オレの心も揺れる
ちゃんの頭に手を乗せて軽く撫でると、ちゃんは勢いよくオレに抱きついてきた
肩に感じる、しめったもの。
オレは黙って、そっとちゃんを抱きしめ、目を閉じた









オレがとてもちゃんのことを好きかなんてちゃんは知らない
それと同時に、オレもちゃんがどれくらいオレを好きかなんて知らない
だから、言葉で示すんだ。わからないから、言葉に気持ちを乗せるんだ。
気づいて欲しいから・・・大好きな人に、この溢れそうなくらいの愛しさを
でも、口下手なオレは想ってるだけで、言わないから、彼女を不安にさせてしまったんだろうなって思った。