「足痛いなぁ」
誰に言うわけでもなく呟いた独り言
犬の散歩にローファーはダメだね(だって靴擦れするし)
制服もいけないね(だってスカート動きにくいし)
あーあと思いながら家路を急ぐ
時間はもう夕飯の時間だ
調子乗って遠くまで散歩するんじゃなかった・・・
結構な後悔を胸に、痛む右足の小指を無視して暗い坂道を登る
「あーねむー早く帰りたいなぁ・・・」
「あ、れ・・・?」
愚痴を漏らしながら、歩いていると背後から聞き慣れたクラスメイトの声が聞こえてすぐさま振り向く
振り返った先には栄口くんがいて、彼はチャリを押しながら片手をあげて、よっと言った
もちろんあの爽やかな笑顔つきで
一気に熱が顔に集まるのがわかった
「犬・・・の散歩?」
「う、うん」
「あ、の家ってこっち方面だったの?」
「え、あ、うん」
後ろにいた栄口くんは隣に移動してきて、「あ、そうなんだ。オレもこっち方面」と言ってきたので、「え、あ、うん。そうなんだ」と返した(なんて可愛くない返し方だ!)
そしてもん太(犬)の頭を骨張った手で撫でた。(う、羨ましい!)
私は慌ててなにか違う話題で盛り上がろうと頭をフル回転させる
だ、だってこんなミラクルそうそう起きないもん!
こんな、だって、ねぇ!?
ただ犬の散歩してただけなのに、す、好きな人と、偶然会って、家に帰る道が一緒で、肩並べて、一緒に帰ってるんだよ・・・!?
どんな奇跡だよ!って思うもん!それにいつもは栄口くん放課後になったら即部活だし・・・!
そう!だからこんな栄口くんと話せるチャンスを逃してはいけない!私は意を決して栄口くんに話しかける
心臓は破裂してしまうんじゃないかって思うくらいドキドキ鼓動していた。
悶々と考えているうちに少し前に行ってしまった栄口くんに追いついて話しかける。
「さ、栄口くんは、」
「うん?」
「あの、えっと、いま、今まで部活、だったんですかっ!?」
「ぷっ・・・そ、そうだよ」
っ今栄口くん「ぷっ」って吹き出した!
ど、どうしよう!やだ私ったら最悪!
あの栄口くんに笑われるなんて・・・!
恥ずかしい恥ずかしいっうわっもー!
あまりにも必死に言葉を発したため語尾が裏返って変だったのはわかるけど・・・ふ、吹き出さなくてもいいじゃないか・・・!
笑われたことがショックだったし恥ずかしかったから、さらに顔は赤くなる一方で気分がた落ち
これが暗い帰り道でなければ絶対突っ込まれてた。
「あれ?顔赤いよ?」って聞かれてた!
うーと唸ってると、栄口くんは慌てたように口を開いた
「あっ、やっ別におかしくて笑ったわけじゃなくて・・・あ、いやおかしかったけど。で、でも嫌な意味とかじゃなくて・・・!」
「あーうん、その、私変な子だから」
ハハと力なく笑うと栄口くんは余計慌て手を左右に振る
もん太が下から心配そうに私を見た。(うう、同情はいらないやい!)
「いや、さっき笑ったのは、が・・・」
そこで栄口が口を噤んだ。
え、私が、なに?
不思議そうに栄口くんを見れば、栄口くんは私の視線に気づいてコホンとひとつ咳払いをしてから
「か、可愛いなと思って・・・」
「っ!!!あ、べ、別にお世辞は・・・っ!」
「お世辞、じゃないよ・・・」
そう言って栄口くんは止まった
つられて私も止まる
すぐ側では街灯が輝いていて、私達の顔がはっきり見えた。
なんていうことだろう
これは私の目の錯覚かな?
栄口くんの顔が赤く見えるよ
ねぇどうしてかな?
栄口くんはいつものように優しい微笑みを浮かべて私を見てて、本来なら恥ずかしくて目なんて合わせられないけど・・・今は今だけは目を逸らしたくなくて
「あ、その、え、っと」
「っご、ごめん!急に変なこと言って・・・でも、その、ホントのこと、だから」
「え、ぇ?う、嘘だぁ!」
「嘘じゃないよ!はすごくかわいっ・・・!!」
「!!」
私より大きな声で言われてびっくりして、その栄口くんの言葉にも驚いた
栄口くんはハッとしたように口をおさえる
顔はさっきよりも赤くなってて、つられて私もさっきよりもっと赤くなっていく
どうしよう。
これは、自惚れてもいいんでしょうか?
月明かり、
私と犬と、
好きな人。
(えーと・・・と、とりあえず帰ろっか・・・)(う、うん)(・・・あのさ、)(!な、なに?)(嫌じゃなかったら、なんだけど・・・)(う、うん)
(その、俺と、付き合ってくれないかな・・・?)(う、う・・・えぇぇぇ!?)(ぅわっ!!え、あー・・・やっぱ、ダメ、だよな)(ちちちちがう!!えぇ!?ホント!?)
(う、うん)(あ、あのっ、私も、好き!!)(・・・うそ!?)(ホントだよ!!)(あ・・・じゃあ、その、よろしくお願いします・・・)(あ、はい、こ、こちらこそ・・・)