「お前・・・またバナナかよ」

「うるさい」







あたしだって嫌なのよ。毎日昼飯がバナナって。 だけど仕方ないじゃんか。貧乏なの。 いくらバイトで稼いでたって家賃でほとんど消えてくの。 海外で仕事してる父さん達の仕送りだってそんなあるわけじゃない。 バナナをもさもさと噛み締めて食べながら、あたしは阿部を見やった。







「文句あんなら、あたしのこと見ないでくれる?」

「見たくなくても隣の席だから視界に入んだよ」







机に頬杖をつきながら、呆れ顔で阿部があたしに言う。 じゃあどっか違う場所に行けばいいのに。 というか、







「昼休みだよ」

「昼休みだな」

「いつもの野球部メンバーと食べないの?」

「ん・・・今日は・・・、あれだ、みんな休み」

「いや水谷と花井朝いたじゃん。え、なに。阿部ハブられたの!?」







ブーッと笑いもつけて言えば、阿部に睨まれた。 おー怖。 だけど阿部が何も言わないあたり図星なのだろう。 自分の机で弁当を広げてる阿部は黙ったままだ。 しかしあたしはそれをさして気にもせずひたすらバナナを食す。 ほら、少ない食費の中の貴重な食べ物だからさ、ちゃんと食べないと。







「・・・バナナくせえ」

「・・・うるさい」







黙々と食べていたと思ったらこれだ。 なんだこいつ。本気で腹立つ。 別にバナナの香りはいいじゃないか。 普通においしそうな弁当を横で食べる阿部を憎らしく思いながら、本日2本目のバナナに取り掛かる。







「まだ食うのかよ」

「あたしん家は今食料これだけなの」

「いつからジャングル住まいになった」

「昨日バナナの特売だったのよ」







チラリと阿部があたしを見てきた。 その視線はなんとも居心地が悪いもの。 悪かったわね、主婦みたいなこと言って。 そんな意味合いも込め睨んでやると、阿部が弁当の蓋におかずを乗せ始めた。 なに今度はどんな嫌がらせをするつもりだこの野郎。 阿部の行動を不審に思ってたら、そのおかずの乗った弁当の蓋があたしの机に移動してきた。







「え」


「・・・バナナだけじゃやっぱ足んねぇだろ」

「・・・え?」

「やる」

「・・・え?」

「・・・あのなぁ、お前それわざとか?」

「あ、いや・・・まさか阿部がおかずを提供してくれるとは・・・」







だって普段ケチで有名って聞いてたから・・・と漏らせば阿部は眉間に皺を寄せた。 あたしはおかずと阿部の顔を交互に見る。うっわ美味しそうなおかずばっかりだ! 素敵なおかずに思わずごくりと咽が鳴った。







「マ、マジでくれるの・・・?」

「そう言ってんだろ」







弁当をパクパク食べてる阿部があたしを見ずに言う。 うわ、どうしよう。今だけ阿部が神さまに見える・・・! おかずの乗ってる蓋を持ち満面の笑みで「ありがと阿部!そんなとこが好きだ!」と言ったら 「はいはい」とあしらわれた。しかも顔逸らされた。ちょっとその反応はショックよ。 まぁ、別にいいか。 とりあえずあたしは残りのバナナを高速で食べ、おかずに刺さってる可愛らしい動物のようじでどんどん食べていく。 うっわーおいしい!やっぱり手作り弁当っていいよね・・・母さんの手作りかぁ・・・てか母さん元気にしてるかなぁ。 ・・・なんだか妙にしんみりしてきてしまった。・・・いやしかしおいしいな。 軽くしんみりしつつも口は止まらない。もぐもぐ。 もぐもぐしながら今回の神さま阿部を見れば、もう奴は食べ終わっていてあたしを見ていた。 がっちり目が合う。







「・・・なんだよ」

「んぐ、別に。そっちこそなに?」

「別に」

「あ、ごちそーさま」

「ん」

「すっごいおいしかった!ホントにありがとね」







もう一度笑顔で阿部にお礼を言えば、また顔を逸らされた。なんで? 弁当の蓋を返す際にももう一度お礼を言う。返ってきた反応はシカトだ。 ・・・あれ、あたし何がアウト?







「あ、阿部?」

「・・・っとにお前は・・・!」

「え、なに?え?」

「なんでもねぇよ!」







え、わけがわからない。 急にこっち向いたと思ったら、顔を赤くして怒鳴ってきた。 えー・・・あたし何もしてないはずなんだどー・・・。 はっ!!やっぱおかずあげなきゃよかった的な怒りかこれ!? あたしがオロオロしてるとガチャガチャ慌しく弁当を片付ける阿部。 眉間には皺寄ってて顔が未だ赤い。えーマジ大激怒じゃないですか。







「あの、阿部ー?え、なんで怒ってるの?」

「怒ってねぇよ」

「でも顔赤くなるほど怒ってるじゃん」

「!!」







あたしがそう言うと阿部が驚いたような表情をする。 あ、また顔赤くなった。と思ったら阿部は顔半分を右手で覆った。 目を見開いてあたしを見るもんだから、こっちも目が見開いてしまう。 一瞬何か言いたそうな感じがしてあたしが何か聞こうとする前に阿部は勢いよく教室を出て行ってしまった。







「・・・えええええ」







ぽかんとさっきまで阿部がいた隣の席を見る。 机には鞄に入れそこなった弁当が横たわってた。 阿部・・・本当にどうしたんだろう・・・。 あの真っ赤な顔が離れない。 ・・・って、あ、もしかして! そこで思い浮かんだことにポンと手を打った。 きっと、そうだ。てか、絶対そう!

























あいつ熱あんのか!!
(それで保健室に駆け込みか!!)



































(マジでありえねぇ・・・!)
(お、阿部ー!!どうだったさんとのひるめ(うっせぇクソ谷!!)ええええ!)
(顔赤いじゃん。なんかあったのか?)
(花井・・・やっぱ顔赤いのか俺・・・)
(?おう)
(やべぇ・・・に顔赤いの見られた・・・)
(あ、それで慌ててこっちに逃げてきたのか!)
(うーあー・・・マジありえねぇ・・・つかあいつ笑顔でありがとうとか言ってきて可愛すぎなんだよ・・・! しかもうまそうに飯食いやがって・・・!ちっ・・・可愛いんだよ!)
(う、わー・・・なんか今の阿部は恋する乙女だな花井)
(確かにそうだけど・・・気持ち悪いこと言うなよ水谷)
(あークソッ!!マジでありえねぇよ・・・!!)