別に本気じゃなかったもん。
高校生での付き合いなんてしょせんお遊びみたいなもんでしょ。
だから全然悲しくないし!むしろあんな性格の悪い奴と別れてせいせいしたし!
「・・・じゃあいい加減泣き止めよ」
「うっ、う、っさいんじゃボケェ・・・・・・!!」
隆也が呆れ顔で私を見ていた。
勝手に流れくる涙を服の袖で拭くが止まる気配はない。
垂れそうな鼻水をずぞぞぞと吸えば「汚ねェ」という傷付く言葉を投げかけられた。
ちくしょう隆也め。
傷心の乙女になんてこと言うんだ!
「隆也コノヤロー!」
「なんで俺なんだよ」
「ううっ・・・」
「・・・ほら、せめてティッシュで顔拭け。見てらんねー」
ぽいと投げ出された箱ティッシュを受け取り、盛大に鼻をかむ。
そしたら盛大に隆也の顔が歪んだ。
目が「きったねェ」と語っているのがよくわかる。
・・・私この短時間で何回隆也に汚いって言われた(思われた)のだろうか・・・。
でも一向に涙も鼻水も止まってくれなくて、ティッシュのゴミが山積みにされていく。
そんな光景に隆也が呆れたように大きな溜息をついた。
「積むな。ゴミ箱に捨てろよ」
「い、まっは無理・・・!まとめて、捨てるっぅ!」
「あっそ・・・で?いつまで泣いてんの?」
「そんなん、っわたっしが、知り・・たい!」
デリカシーのないことを聞いてくる野郎だ!!
頬杖をついて私のぐしゃぐしゃの顔をじっと見てくるところもデリカシーがない!
出てけ!!乙女心がわからん奴は出て、け・・・ってここ隆也の部屋だった・・・。
今日は、まあ、彼氏に振られて、ショックで隆也の部屋にアポなしで突撃して、半分寝てた隆也に泣きついて、愚痴を聞いてもらってるという・・・現状。
うわ、私かなり迷惑かけてる・・・!
とは思っても重い腰は上がらない。
隆也も出てけとか言わないし・・・、いや、起こした時はすんごい顔で睨まれたけど、私が泣いてるって気付いたらすんごい驚いた顔で心配してくれた。
なんだか物凄く隆也に対して申し訳なさがこみ上げてきた。
うわ、ごめんね隆也!
「ごめんね!」
「は?」
おっと、心の中で言ったつもりが口に出てしまった・・・。
私の一言にグッと眉間に皺が寄った。
隆也って目つきサイテーだから余計怖い。
ぐじぐじと鼻を擦る。
・・・でも、鼻赤くなるからやめろよ笑うって隆也に言われて恐怖より今めっちゃ殺意湧いた。
はあ、吐いた溜息は予想以上に重い。
・・・初めての彼氏だったんだ。
私にとって、初めて告白して、初めて付き合った、大切な人だった。
本気じゃないとか言ったけど・・・本当はすごく真剣だった。
すごくすごく大好きで、いつも彼のことを考えていた。
なのに・・・・・・・四股ってなんだよッ!!!
二股ならまだしも四股って!いや、二股でも許せないけどさぁ!
これを聞いた瞬間には頭が真っ白になって、悲しくて悲しくて胸が裂けそうだった。
その次に怒りがどっときて、彼氏呼び出してぶん殴って振られたのだ。
私が振る前に振られた・・・。
本当に今思えば笑えてくる展開だ。
ずず、鼻をすすれば隆也がはあと溜息をついた。
・・・ごめん汚くて。
ティッシュで鼻をかもうと手をしたら不意に隆也が私の名前を呼んだ。
「?なに・・・?」
「・・・俺だったら、お前のこと泣かせねぇけど」
「へ・・・?」
「っだから、俺と付き合えばお前のことそんな風に泣かせたりしねぇっつってんだよ!」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・おい、反応なしかよ」
「ッう、うそ!?」
「こういう嘘付くとか思うわけ?」
相変わらず頬杖はついたままで、耳まで真っ赤にさせた隆也が私を睨む。
突然であまりの衝撃的なことに、だらだらと流れ続けてた涙がピタリと止まった。
まじまじと隆也を見れば、隆也は舌打ちしたあげく私から目を逸らす。
本当に唐突すぎて頭がうまく回らない。
ええええええ、っと、あれ、私は今日彼氏振られて、隆也に慰めてもらうとやってきて・・・隆也に、え、
「隆也、私のこと、す、好きなの!?」
「うっせぇな!大声で言うなよ!!」
「う、うっせぇなって、あんたの方が大声じゃん!」
「チッ」
「なんで舌打ちすんの!?だから、隆也ってば私のこと・・・!」
「好き、だよ!お前みたいな馬鹿でどうしようもねぇアホ女のことが!」
「!!ぼ、暴言織り交ぜの告白とかやめてくんない!?」
「今まで気付かなかったお前が悪い!」
今までって・・・じゃあ、隆也って結構前から私のこと好きだったってこと!?
とんでもない事実に私は思わず鼻水が垂れかけた。
慌ててティッシュで鼻をかんでから、隆也にいそいそと向き直る。
隆也もそれに気付いて私の方にきちんと向いた。
「え、−と・・・」
「・・・本気だからな」
「う、うん」
「さっきも言ったけど、俺だったら絶対お前を泣かしたりしないから」
「う、うん」
「で?・・・俺と、付き合う?」
あまりの急展開に動揺が隠せない。
・・・どうしよう・・・さっきまで元彼氏のことばかりで頭が一杯だったのに、今は隆也でいっぱいになっていく。
心なしか全身が熱くなってきた。
じっと真剣な目で私を見てくる隆也に、本当に隆也なら私を泣かせないんだろうなと思う。
いつだって隆也は私に優しくしてくれるし、なんだかんだ言って我侭聞いてくれるし厳しいところはちゃんと厳しくしてくれるし・・・
って・・・あれ?私・・・すごく隆也に大事にされてる?
そこまで考えて、本格的に顔が熱くなってきた。
人に恋愛感情として思われたことのない私にとってはとんでもない事で・・・うわぁ・・・すごく嬉しい・・・!
湯気出るんじゃないかと思うほど熱い顔を冷ますように手でパタパタ扇ぐと、私を見て隆也がふっと笑った。
う、わあ・・・!!
その顔が妙にかっこよくて私は胸がキュンとした。
・・・ど、どうしよう。私・・・隆也のこと・・・、
「返事さ、」
「へぇい!?」
「ぷっ、へ、へぇいってなんだよお前・・・」
「い、いやいきなり声かけるから驚いたの!」
「そうかよ。で、返事だけど・・・」
「う、うん」
「今度会う時でいい。ゆっくり考えとけ」
そんで今日はとりあえず帰って休め。
そう言って隆也は私の頭にポンポンと手を乗せ、普段あまり見せない柔らかい笑顔を見せてくれた。
私はそれにこくこく頷きながら隆也の部屋を出て行く。
「っ〜〜!!」
隆也のおばさんに一言挨拶してダッシュでお隣の自分の家に駆け込む。
自分の部屋までノンストップで行きベットに勢いよく飛び込んだ。
返事は次会う時でいいって言ってた・・・。
さっきの出来事を思い出してベットの上を転がりまわる。
「っし!」
短く覚悟を決めた。
・・・次に会うときには絶対に言おう!
「こ、こんな私でいいんなら!」
そして結局鼻ゴミ捨てて帰んないでごめんね!!