とてもいい天気だ。こんな日はぼーっとのんびり過ごしたい。
まぁそんなことは無理な話だということはわかっていますがね。
現に視界の端でオレンジのハットが見えた時点で、私の有意義な時間は潰されるだ。





「よー」

「げ・・・なんですか?」

「・・・今『げ』っつたろ」

「言ってないですよ言ってない」

「いいや、言ったな!」







お前ひでぇな!と大きな声で言って、隊長は私の背中をバシンと叩いた。
その痛さに顔を歪めながらも、自分より頭一個分背の高い人間を睨みつける。
うらやましい身長だちくしょう。







「ん?どうした?」

「どうしたじゃないですよ・・・今ものすごーく、痛かったんですが」

「そうなのか?そりゃ悪かったな!はははっ」

「笑い事じゃないです!エース隊長は力加減というのを知ってください!」

「だから悪かったって!そんな怒るなよ、!」







能天気そうな顔で今度は私の頭を撫で回す手。
ひっじょーに迷惑だ。
遠慮無しに髪の毛をぐしゃぐしゃにされ、私の不愉快度数はマックスに。
とりあえず、このうざったい行為を止めてもらいたくて隊長の手を払い落とした。
少し気分スッキリ。ホント少しだけだけど。
そしたらちょっとだけムッと顔をしかめた隊長。
いやいや、あんたが悪いんだからね。







「何すんだよ」

「髪の毛乱れるの嫌なので」

「どうせ後で潮風でお前の頭乱れまくるから今乱したって別にいいだろ」







隊長は平然とそう言ってのけてから、再度私の頭をぐしゃぐしゃにしようと手を伸ばしてきた。
すかさずその手を避ける。
でも、この人は案外子供だ。いや、むしろ案外もクソもない、ガキだ。
私が避ければムキになって、意地でも私の頭を撫でようとする。
マジうざいんですけど!この大人げない人!
イッライラしながら彼をボッコボコに殴りたいにも・・・ただのコック、さらには女である私。
さすがにおたまじゃ戦えない。
そんな私が彼に殴りかかったところで自分が怪我するオチだ。
そう考えると、手は出せない。まぁ、抵抗として・・・・・こうしてダッシュで逃げるわけですが。







「待てー!」

「はぁっ・・・も、もー!しつこいですよ!ホントしつこいっ!」

「頭触らしてくんねぇからだろー!」

「触んなくて、っいいですよ!」

「ケチだなお前!」

「ケチで結構っ!」







子供みたいな言い合いしながら広い甲板でコック追いかけてる二番隊隊長ってどうよ。マジで。
示しがつかなくないか?
そんなこと思い口に出そうとしてもとてもじゃないが喋れる状況じゃない。
ぜっはぜっはと息切れが激しい私に対して、にっこにこと満面の笑みで息切れひとつしてない隊長。
ちくしょう、そこは隊長やっぱ体力が違いすぎる・・・!!
必死に隊長に捕まらないように走り回り、助けてくれそうな人を探す。
てかむしろマルコ隊長どこ!?あの人ならきっとこの人止めてくれるはず・・・!!
きょろきょろと辺りを見渡すがマルコ隊長の姿は見当たらない。
あっれーおっかしいおかしい全然見当たんないんだけど!
本気でこの状況どうしよう、そう思ったとき私の体が大きく傾いた。
体力とかもともとない私の体は限界だったらしく自分の足でもつれたみたいだ。
ぅおーと思いつつ顔面から床にぶつかる瞬間、私の体が今度は後ろに傾く。
それからドターンという音に背中に感じる熱。しかもなんかやらかい・・・?あれ?
きょとんと今自分のおかれている状況についていけず固まっていると、背中の方から声が聞こえた。
え、







「っぶねー・・・!おい、大丈夫か?」

「・・・あ、はい」

「まったく、危うく顔面から突っ込むとこだったぜ?」

「あ、はい」

「気を付けろよな」







そう言いながら体を起こしたのは隊長。
もちろん私の体もそれに比例して起きる。
あぁ・・・・・・隊長が転びそうになった私を助けてくれたんだ。
ちょっと落ち着いてきた私は、自分の腹に回る腕と背中の温かさの意味をようやく理解した。
隊長の足の間に座りながら、私は後ろを見る。
隊長はそんな私を首をかしげて不思議そうにした。







「ん?どうした?」

「・・・いや、助けて下さりありがとうございました、と言おうと思って」

「あぁそんなことか。別に気にしないでいいぜ?俺がお前のこと追い掛け回したも悪かったしな」

「っ、い、いえ・・・」







少し困ったような表情で笑った隊長に不覚にも胸をときめかせる私。
なんたる不覚!一瞬動揺のようなものをした私を隊長が見逃すわけなく 先ほどの表情から一変、口角をにやりと上げて私のお腹に回っている腕の力を強めた。
ちょっ力強すぃたたたたっ!!







「くっ、隊長苦しいで、す・・・!」

「んー」

「んー、じゃなくて・・・!て、てかいい加減離して下さいよっ!」

「無理、だな」







そう言って隊長は私の肩にあごを乗せる。あまりの至近距離に口から悲鳴が出そうだった。つかでる!ひいいいい!
見事に硬直してしまった私は何も言えず顔の横にいる隊長を睨んでみるが、にっと笑い返された。
抵抗として手足をバタバタさせてみるものの・・・うん、無駄みたいだ。ビクともしねぇよちくしょー
船員達は私たちをちらちら見てるくせに私が助けてオーラだしても助けようとはしない。目合ったとたん逸らしやがる。薄情者どもめ。
周りに助けてくれる勇者もいないし、何やっても無駄だと気づいた私はしょうがなしに大人しく抵抗をやめて隊長に体を預けた。







「お、もう抵抗はしねぇのか?」

「しても無駄でしょーが」

「まぁな」







隊長の気がすむまでこうしていなければいけないのは非常に迷惑極まりないことだが・・・・・・
仕事をサボれると思えばいいか。
のんびり、さっきまでの地獄の鬼ごっこと一変ゆったりと流れ行く雲を見つめる。
あ、やばい眠いかも。いい具合に日向ぼっこだもん仕方ないよね。
くあとかみ殺しもせず欠伸をすると、背後から寝息が聞こえた。
え、なに隊長寝てるんですか?マジかよ・・・ってマジだ。
横目で肩を見てみれば案の定、気持ちのよさそうな顔で眠ってる隊長。
いやはや本当にこの人は自由人すぎる。人を抱えたまま寝ないでよ。
そう思いつつも私も眠いので、隊長の少し熱いくらいの体温を感じながら目を閉じた。
・・・まぁ眠いんだもん仕方ない結果、だよね。


















なにもかも、
全部あなたのせいだよ。

(あなたを起こそうともせず一緒に寝ちゃって仕事サボっちゃって怒られたのも、 冷やかされたのも、元を辿れば全部全部あなたのせい。
とかいいつつ、なんだかんだであなたのこと許しちゃってる私です。なんでだ)