彼女は優しい。
どこまでも、それは人を傷つけることもあるくらいに。

彼女の優しさがすべて俺に注がれればいい。
そんなことあるわけないのに。

でも願ってしまう。

『彼女が俺だけにすべてを注いでくれたら』、って。

笑顔だってそうだ。
温かくて優しくて愛らしい笑顔を持つ彼女。
それを色んな野郎に振りまいている。
あの笑顔に何人の野郎が落ちたことだろう。
まあ、俺もあの笑顔に落ちた野郎の一人だが。





ちゃん」

「あ、サンジくん。なにか用事?」

「・・・いや、呼んでみただけ」

「ふふっなにそれー」

「プリンセスは名前も愛らしいから用が無くても名前を呼びたくなるんだよ」

「もーそんなこと言ったって何もないからね!」

「ははっそりゃ残念」





何もないなんてことはない。
きみはいつだって俺に笑顔をくれるじゃないか。
温かなこの優しい気持ちをいつだって与えてくれてる。
些細なやり取りでこんなにも幸福を感じているんだ。
それだけで充分、なんだよ。


たとえ、その笑顔が俺だけのものじゃなくても。
たとえ、その笑顔よりも素敵な笑顔が、俺のものでなくても。









今だけは俺のプリンセス

(魔法が解けたら、きみはアイツのお姫様に戻ってしまう。)
(だから、お願いだ。今だけは、)