ヒーローは、ピンチの時にやってくる。
いつでも、それは変わらない。
それがヒーローという者だ。
それなのに、なぜヒーローは来てくれないの?
今のこの状況はピンチの時というものだよ。
なのに、なぜヒーローは黙って見てるの?

ねえ、ヒーロー。














「・・・ワシはヒーローなんかじゃないんじゃよ」

「違うよ。カクはヒーローだよ」

「違う。お前さんだってわかっとるじゃろう?」

「なにを?いいから、早く助けてよ」









パウリーもアイスバーグさんも麦わらたちもボロボロで、みんな血が出てる。
これケチャップだったらいいのに。そうは思ってもむせ返る鉄の匂いでこれがケッチャプじゃないことを知らせてくれる。
嗅ぎなれない匂いに頭がクラクラしてきた。
ていうか、ルッチは珍しくスーツ・・・カクとカリファとブルーノはすごくダサいピラピラの服着てるんだけど・・・おそろい?むしろ仮装?
ホントなんなのそれ。うわ、なんかダサい仮面転がってる・・・まじ趣味悪い。ホントに、なんなの?









「ねえ、早くみんなの手当てしなきゃ」

「そんなもの必要ない」

「っうわ、ルッチ喋ったの初めて聞いた。ルッチって喋れたんだね」

「ああ。だが、俺の声を聞けるのはこれで最後だな」

「どうして?」









私が首を傾げると、カリファの顔が歪んだ。どうしたの、カリファらしくない顔だね。
カクもどうしてそんな苦しそうな顔をするの?ブルーノはどうしてずっと目を合わせてくれないのかな?
ゆっくりとした歩調でルッチが近づいてくる。
私の後ろでパウリーがなんか言ってるけど、途切れ途切れすぎて何言ってるのかわかんないよ。









「逃げないのか?」

「どうして?」

「どうして、か。お前はこの状況をきちんと理解した上でそんなことを言ってるのか?」

「この状況?ああ、会社が何者かによって破壊され船大工たちが襲われ社長も襲われて大惨事、でしょ。そんなの見ればわかるよ」

「お、い・・・はや、」

「ちょっとうるさいよパウリー。怪我人は黙ってなって。今カクに運んでもらうから」

「・・・、運ぶことはできんのじゃ」

「?なんで?あ、そっかカク細いもんね。せいぜい二人ぐらいしか運べないかな。でもルッチもブルーノもいるし大丈夫だよ」

「そうじゃなくてな、」

「ほら、みんな傷だらけだよ。早くお医者さんに見せないと。麦わら達もボロボロだから ・・・んと、四人怪我人か弱い船大工私で合計五人運ぶけどあんたらならへい「ッいい加減にせい!この状況でまだそんなことを言うんか!」

「っ・・・カク、なんでそんな怖い顔してんの?変だよ、さっきからみんな変」

っ・・・下がっ、てろ・・・!!」









ルッチが冷たい目で私を見てる。カクが辛そうな目で見てる。
カリファが悲しそうに目を伏せた。ブルーノはやっぱりこっちを見てくれない。
社長は顔をうつぶせにして何も言ってくれない。早く、こいつらに命令して病院行けるようにしてよ。
なんでパウリーは私の前に立つの。なんでそんな泣きそうな顔してんのさ。
麦わらたちも・・・どうして、そんな怖い顔してカク達のこと睨むの?
ねえ、どうしたの?みんなおかしいよ?









「い、いいか・・・こいつらは、俺達を裏切ったんだ・・・っ!!」

「裏切った・・・?」

「そう、だ・・・っ、アイスバー、グさんがボロボロなのも、会社がッこんなにボロボロなのも・・・全部っ、全部こいつらの仕業だ!!」

「・・・うそだよ。みんな仲間だもん、そんなことするわけないじゃん。ねえカク、パウリーになんか言ってやってよ。こいつ勘違いしてるよ?」









パウリーの肩越しからカクを見る。
いつも被っているのとは違う黒い帽子の鍔で顔が見えないけど、きっと呆れてるに違いない。
パウリーに変な言いがかりつけられて、ルッチだってカリファだってブルーノだって驚きだ。
みんな、仲間だもん。だからそんなことするわけないのに、パウリーのこの勘違いはいくらなんでもひどす 「―――― 本当じゃ」




「・・・え?」







全身に冷水を浴びたかと思った。心臓がひやりとする。
あれ、私・・・耳おかしくなったのかな?そうだよね、きっとそうだよ。
そう、・・・そうは思っていてもうまく顔が笑えなくなっているのがわかった。
口元がひきつる。どうして、私はカク達のこと信じてるよ。だからいつも通り笑ってカクに突っ込んであげなきゃ・・・、
ねえ、カクは今、なんて言ったの・・・?









「は、ははっもーカクもさ、パウリーの勘違いに付き合わなくていいって!」

「なってめえ勘違「これは全部ワシらがやったことじゃ」

「ちょ・・・カクさん?それ笑えないし。てか、ワシらって・・・」

「ワシとルッチとカリファ、ブルーノが今の現状を作った」

「な、何言っ「おい、もういいか?時間が無い」

「ルッチ、」









どんどん、体中が寒く感じ始め体が震えてきた。
震える手が前にいるパウリーの肩を掴もうとするがうまく掴めない。
カク、・・・ヒーロー、でしょ・・・ホントにさ何言ってんのか意味わかんないよ。
じっとカクを見つめてもカクは私から目を逸らす。









「カク・・・」

「わかったか?ワシはヒーローなんかじゃない。そんなもんお前さんの勝手な押し付けじゃ」

「違うもん、カクはヒーローだよ・・・」

「しつこいのう・・・」









いつだって、私が困った時に助けてくれたのはカクだよ。
カクは私のヒーローで、街のヒーローなんだ。
だからさ、嘘だって冗談じゃって言ってよ。いつもみたく笑顔でさ、そしたら怒るけど許すから。
ねえ、カク、









「よく、わかんない・・・もう考えたくない、や」

「っはぁ、わかったからっお前は、もう・・・下がってろ・・・ッ!」









パウリーが震えた声で私を下がるよう促した。
でもうまく足が動かなくてその場で座り込んでしまう。
視線はカクに固定したまま、遠くの方で嫌な爆音が聞こえた。
みんながなんか言ってるけど、今はもう何も聞きたくないよ。
カクが私から目をそらしていることが、辛い。
私すごく辛いよ困ってるよ、助けてよ・・・ねえカク。
鼻の奥がつんとして唇をかみ締めた。徐々に視界が歪んできてそれを隠すように目を閉じる。
そして・・・次開くときに目に入るのは心配そうな顔をしたカクだったらいいのに、な。








――――・・・・・・やっぱり、信じられないよバカ。















ばいばいひーろー


(だけども、その手を握れば、あなたは私のヒーローに戻りますか?)