最近、やたら船長と目が合う。
そん時の船長はものすごい怖い顔であたしを見てる。というか睨まれてる。
ホント怖い。主に隈。
あの隈は真面目にどうにかしていただきたいものだ。あれ一種のホラーなだよね。
まぁそれは置いといて・・・話は冒頭に戻るのだけどあたし船長に睨まれるようなことしたかなぁ?
ねぇ、ペンギン。どう思う?
「俺に言われもな・・・なにか心当たりないのか?」
「ないね!あるとしたら船長の本に牛乳ぶっかけたくらい!」
「明らかにそれだろ」
「いや、あん時は『気にすんな』って言ってあたしの頭撫でて許してくれたよ」
「・・・」
え、なに?そこで無言?ペンギンが黙ったせいで静まり返る食堂。軽く怖い。
あたしは首を傾げ、汗をかきながら黙るペンギンを見つめる。う、おっマジですごい汗だ。
どうしたんだろうなぁなんて思いながら温かいココアをちびちび飲む。
ペンギンに言われたとおり他にも何か心当たりがないかと考えてみるが・・・まったく思いつかない。
うーん、あたしいつから船長とよく目が合うようになったっけなぁ。
入った当初はそんなことなかったよね。
ふと船長を見るとたまに目が合う程度で・・・でも今じゃ見るたび目が合う。
なぞだ。
やっぱりあたしが知らず知らずのうちに船長になにかしちゃったんだろうか?
毎日一緒にいるんだ。あたしのことだからきっと気づかぬ間になにかしたんだろうな。
首をいくら捻っても出てこない答えにめんどくささが混じってきて考えるのを止める。
「ペンギンーやっぱりあたし何も思いつかないよぉ」
「そうか。俺から言えることがあるとすれば、とりあえず頑張れだな」
「?がんばれ?何を?」
「・・・まぁ頑張れ」
ペンギンはあたしにそれだけ言うと食堂から出て行ってしまった。
しーん、静まり返る空間にぶるると身震いをする。
残されたあたしも少しだけのココアを一気に飲み干し、流し台においてから慌てて食堂から出た。
あんな静かなとこに一人だけいるなんて無理。ちょー怖い。
いつもはみんながいるから平気なんだけどね!
とぼとぼと自分の部屋まで歩いていくと、あたしの部屋の前に寄りかかって立っている人影がひとつ。
・・・って、こわぁっ!!え、まさかのお化け?え、お化け!?
ひっと息を呑むと、壁に寄りかかってた影があたしに気づいた。
ゆっくりとした動作で壁から体をはなし、こちらへ歩いてくる。ちょっちょっちょっ・・・!
ペンギンペンギン!なんであんた先に戻っちゃったのバカ!
先ほどまで共にいた者に八つ当たりをしてみても、ペンギンは戻ってこない。
ちっくしょー怖いよー!!
あまりの怖さに足が動かない、というか体全体が動かない。ちょっまさかの金縛りとかですかこれ!?
あーもう!いいなんでもいいよ!キャスケットでもベポでも船長でもいいからきてよ!
一番きてほしいのはベポだけどさぁ!
そうこう思っているうちに、影はあたしの目の前まできていた。
半べそかきながら目をぎゅっとつむる。
きっとあたし食べられちゃうんだ!短い人生だったけど・・・あたしすごく楽しかったよ・・・。
そんなことを思いながらくるであろう衝撃を待つが・・・一向に何も起こらない。
・・・あれ?
慎重にそろーっと目を開けてみると・・・そこには我が海賊旗描かれているマークが目の前にある。
そろそろと今度は目線を上にあげていく。
すると、そこにいたのは
「せ、船長!?」
「お前・・・何してるんだこんな時間に」
「船長こそ・・・あたしの部屋になんか用ですか?」
「・・・トイレに行こうとしただけだ」
いやトイレはあたしの部屋とは正反対の場所ですけど・・・。
あたしがそう言ったら、船長は小さな声で「お前の部屋トイレみたいだから間違えた」などとぬかしてきた。
とんでもなく失礼だ。なんだ、あたしの部屋匂うってか?
ばかやろうこれでも女の子だから部屋はいつでもフローラルだ。
あたしが不機嫌そうに顔を歪めたのに気づいたのだろう、船長が「冗談だ」と零す。
いや、船長の冗談は冗談に聞こえないから。真顔の冗談はよくないと心の底から思う。
でもオバケとかじゃなくてよかった・・・や、船長隈の具合がオバケみたいだけど、でも本当によかった。
安堵のため息を零しながら立ち上がり船長に「じゃあ寝るんで、おやすみなさい」と一言告げて
部屋のドアノブを回そうとしたら、
船長が小さく何かを呟いた。あれれ、しかし何だか嫌な単語だった気がするぞ?
って、おいいいい!!ちょっ、
「船長おおお!?何故にあたしの右手がないんですかああ!?」
「ここにある」
「見りゃわかりますよ!確かに船長があたしの右手持ってますね!ほらわきわき動く!
っじゃなくて!!なんで技発動させてんですか!あたしもう寝るんですけど!」
「つい」
「ついでやっていいこととやっちゃいけないことがありますからね!?とりあえず早く返してください!」
船長お得意のバラバラであたしのドアノブを掴もうとしていた右手が船長の手の中にあった。
いきなりのことで深夜だというのに叫びまくちゃったよ。船長相手なのにあたしってば力の限り突っ込んじゃったよ。
というか、ついでなんつう技を仲間にしてんだ。オバケよりタチの悪いだろ。
あたしは右手のない自分の腕を見て口元をヒクつかせ船長を睨んだ。
返す気配が全くないのは気のせいかな?気のせいだよね。ちょっ、何故にあたしの右手と手を繋いでるんだ。
あたしが黙って船長を睨んでたら、こともあろうかこの人いつの間にかあたしの右手と手を繋いでやがる。
なんかしかも恋人繋ぎ的なんですが・・・ていうか船長の手汗だくなんだけど・・・え、なにこれ激しく気持ち悪い。
右手に走る気持ち悪さにあたしの顔が急激に歪んだ。
「せ、船長・・・早く右手返してください・・・!」
「・・・ああ、そういえば」
「そういえば!?忘れてたとか言わせませんからね!」
「忘れてた」
「んな強くあたしの右手握っといてよくそんなこと言えますね!」
「なっ・・・て、手なんて、つ、繋いで、ね、ねえよ」
部屋の近くにある窓から急に月明かりが入ってきて船長の顔を照らした直後、あたしは絶句した。
何故なら、船長が顔を赤くしていたから・・・!さらにどもりながら話す姿はいつもの船長とはかけ離れてて
・・・え、本当にあなた誰ですか。な状況。
しかも何故だか恥らってる船長に疑問が頭を飛び交う。マジで何なのこの状況。
なんだか今船長がオバケより怖すぎてやばい。
あたしの全てが船長に引いた。
「え、せ、船長・・・?」
「っ、俺はもう寝る」
「は、はあ・・・いや、その前に右手を・・・」
「駄目だ。これは添い寝す・・・お前は俺に口ごたえをしたから朝まで返さねえよ」
「なんか今変な単語聞こえましたけど!?添い寝って何添い寝って!あと口ごたえって何口ごたえって!」
「うるせえ。じゃあゆっくり休めよ」
「いやいやいや待ってくださいマジで!あ、朝までこの状況は嫌です!」
「・・・一緒に寝るか?」
「絶対やだ!!」
「・・・・・・じゃあな」
「えええええ!?」
あたしが全力で拒否したら明らかにテンションが急降下した船長。何んで!?
よって何故かあたしの右手は船長に連れられ闇に消えていった・・・あたしの右手・・・。
ていうか、ない右手から湿った感じと握られてる感じがするから今も船長と私の右手は手を繋いでるのか・・・。
その事実に盛大に顔を歪ませながら、仕方なく左手で部屋のドアノブを回した。
今取りに行ったところでもっと危険なめにあいそうな気がするから今日のところは右手は諦める。
朝起きたら即返してもらおう。一人じゃ危ないからペンギンかベポに頼んで一緒についてきてもらおう。
キャスケットはダメだな、あいつ船長の前じゃとことん使えない。(ひでえ!)
はあ、と大きくため息をついてあたしは(色んな意味で)疲れきってしまった体をベッドに沈める。
あーあ・・・右手ないってやっぱ気持ち悪いなぁ・・・。
あたしはここにない右手を愛しく思いながら眠さにより目を閉じた。睡眠には勝てねえよ。
だけど一瞬、どうしてかわからないけど、ペンギンに言われた『・・・まぁ頑張れ』の言葉と哀れみを含んだ目を思い出した。
これは序章にすぎない話
(船長ー!!右手返してください!)
(やだ)
(やだってあんた子供じゃないんだから!てか、右手なきゃあたし戦えませんよ!)
(安心しろ。俺がちゃんとお前のこと守ってやる)
(いいですよ!あたしは戦いたいんです!)
(なぁ、ペンギン。今の俺キマってたよな?なんであいつ照れねえんだよ)
(知りません)
(ああああそれに右手ないと気持ち悪いんです!それに・・・あ、そうだ!ペンギンもなんか言ってよ!)
(・・・が飯食べるとき・・・というか日常生活で利き手がないのは不便でしょうし、戦えないっていうのは非常に足手まといなので返してあげてください)
(そうだそうだ!)
(飯は俺が食わせる。すべての世話も俺がしてやるよ。風呂の着替えとか下の世話とか)
(いっらないです全力で!な、なんで息荒くなってんですか船長!)
(やべえ、想像したら興奮してきた)
(っ!!う、うわーん!船長が気持ち悪いよペンギンー!!)
(この人は元からこんなんだ。諦めろ)
(おい、俺は気持ち悪くねぇ。性欲に忠実なだけだ!)
(大問題だよ!そんなこと大声で言って恥ずかしくないんですか!?)
(俺は誰にも縛られねぇんだよ)
(そんな問題じゃないいい!!)
それから大口論のすえ、三時間後。
あたしは無事右手を奪取しました・・・海賊船一隻一人で潰すより疲れたかも・・・
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