「たっ大変や!やっぱあかんわあたし!!」

「…大声出すなうっさいわ。お前の頭やったらもうとっくの昔からあかんで」

「失礼な!頭はいつでも正常に働いとるわ!って独り言に突っ込むな!」



数分前にパソコンをやっている俺の部屋にいきなり無許可で入ってきた女は 無許可で俺のベットに寝転び無許可で俺の雑誌を黙って読んでいた。 しかし、黙って読んでいたと思えばいきなりベットの上に立ち、 バッシーンと大きな音を立てて雑誌を床に叩き付け、「あかんあかん!」と頭を抱えて騒ぎ出し始めた。 俺がそれを冷たくあしらっても黙ることはなく、 じっと見れば「べ、別に睨まんでもええやんか…」とたじろぎながら先ほど床に叩き付けた雑誌を拾う。 (いや別に睨んだつもりないで) それからピタッと静かになってフイと顔を背け俺の枕を抱き締める。 さっきからなにがしたいんやこいつ。 俺はため息をついて、軽くすね気味のに先ほどの話を促すように「で?」と言った。 (こんな微妙な空気は嫌やからな) …が、一向には何も喋らない。枕を強く抱き締めて顔を背けるだけで、何も、喋らん。 俺が優しく聞いとんのに、ええ度胸やないか…。 ちっ、舌打ちをしてパソコンをシャットダウンさせイスから立ち上がると、 は焦ったように枕をもってベットの隅に逃げた。(…いつまで枕を抱いとるつもりや) は?と思い、に一歩近づくと今度は布団を被る。もう一度言おう。なにがしたいんやこいつ。



「お前やっぱおかしい。今日なんかあったん?」

「べべべべ別に!!なんもあらへんよ!ちょっもう近づくなボケェ!!」

「(むか)はぁ?なんやねん近づいたらまずいことでもあるんか?」



「う、うん!!めっちゃあかんねん!せやから止まれ!!」とは言って布団から顔と 腕だけを出し、今まで抱き締めていた枕を俺に投げてくる。 まぁそんなもん俺に当たるわけなく(やってノーコンやし)、枕は俺の頭の上を通り過ぎていった。 「まったく…人ん家のもん投げんなや。 それにここは俺ん家なんやから俺がどこをどう移動しようが関係ないやろ。」と言えば、悔しそうに顔をしてまた 布団を被る。 ちょっとムカついたのでの静止など聞かず、 パソコンが置かれている机からベットまでの五歩くらいの距離を三歩にしてやった。 ベットにたどり着くと、片膝を乗せ体重をかける。ギシッ、と鳴ったベットに少し、なんていうかエロイなと思った。 (あかんな、これだから思春期は…) 次に片手をの前につき、「おい、いつまで布団被っとるつもりや」もう片方の手で布団を剥がそうとしたらは 一丁前に抵抗してきてなかなか布団が剥がせない。 何の分際で俺に歯向かっとんねん…! 予想以上に強い力で抵抗するから、腹が立ち、俺はベットに完全に乗ると両手でから布団を引っぺがした。 そしてすかさず、出てきたが逃げないように両手首をベットに縫いつける。



「きゃっ…ぎゃっ!!」

「ぎゃってなんや」

「ちょっちょっ!!顔近いねんけど、ぎゃー!!」

「ちょっ、お前声でかすぎや。やかましい。」

「す、すんませ…ってなんであたしが謝らなあかんの!?」

「せっやから…うるさいっちゅうのが聞こえんのか?あ?」



ぐっと顔を近づけてやれば、はぅぐっと奇妙な声を出して顔を顰めた。 微妙に息の荒いの吐息が俺の顔に当たる。 それだったらきっと、俺の吐息もに当たっとるんかなと思うと、知らずのうちに身体がほんの少し熱くなった。 (はぁ…これだから思春期は、あかんねん…こんだけのことに反応しよるから) なんともいえない感じになってきて、俺はの手首を離してベットに腰をかける。 あかんあかん。みたいなブスに何変な気起こそうとしとんのや俺…。 頭を振って、息を吐いて、吸って…あー落ち着いてきた…。 そこで、ふと、まだ静かなままのが気になった。 いつもなら俺にやられたらすぐぎゃーぎゃー騒いで殴ってくるのに、今回その気配が全くない。 不審に思った俺は首を回して後ろを見ると、は両腕で顔を隠して動かない。 …もしかしてちょっと、やりすぎたか?いや、けどあんなんいつもやっとるやろ…? 「?おい、聞いとんのか?」と俺が呼びかけても全然反応しないので、だんだん不安になった俺は 未だ冷めな身体をの方へ向ける。 すると、小さくが「あたし、やっぱおかしいわ…」と呟いた。 ?…なにがや?もともとおかしいやんお前。そう言おうと口を開く寸前に、はポソポソと 喋り出す。



「あんな…あたし、もしかしたら病気かも知れん。」

「じゃあ…精神科医行くか?」

「なんでやねん!どこから精神科医に行く話になんのや!?ちゃんと最後まであたしの話聞け!」

「ほなら、さっさと話せや」

「…えーと、コホン。あ、あんな、病気と言うてもな…」

「なんや」

「こ、恋の病気かもしれへんのや…」

「……いい精神科医、部長なら知っとるかもしれへんで?」

「やからなんでそーなるん!?」

「いや、お前が恋とか言う単語出すのなんて、なぁ?なんか悪いもんでも食ったんとちゃう?」



そう言った俺を勢いよく身体を起こしたが睨む。 他にも何か言ってやろうとしたが、の今の姿を見て、 言葉が詰まる。 先ほど暴れたせいで乱れている服をそのままに、 何故か、頬が赤く染まっていて、睨んでくる瞳はどこか潤んでいて、 その姿に俺は…ドキっとした。 …って、ドキっとってなんやねん相手に……。 そうは思っていても、言葉が出ずにいる俺は思わず顔をそらした。 そしたら、落ち着いたがまた小さな声で話し始める。



「そ、それでな、話戻んねんけど、」

「…ん」

「あたし、……最近、その、ひ、光を、見とるとめっちゃドキドキしてな、胸がぎゅーてなんねん…」

「……は?」

「そ、そんで、光にいつも触っとるはずなのに、触られるとそこからじわじわ熱なってな…だんだん恥ずかしくなってくん」

「……」

「っやっぱおかしいやろこんなん!こ、この、あたしが…なんであんたみたいな奴を…す、す…きに、なっとんのやアホー!!」

「っ、急に叫ぶな!驚くやろ!」

「あ、あたしかてこの感情に一番驚いとんのや察しろボケー!!」

「、あぁもう…」



阿呆やろこいつ。いや、馬鹿という言葉のがあっとるか。 さっきまでのしおらしさはどこへ行ったのか、急に ぎゃーぎゃーと騒ぎながら半泣きの真っ赤な顔で俺を殴ってくる。 しばらくはされるがままになていたが、軽く鬱陶しくなってきたので、 その手首を掴んで止めさせれば、潤んだの瞳に映る俺が見えた。 …めっちゃ、嬉しそうな顔しとるな、俺。 の瞳に映る俺の顔を見て、今の自分はこんな顔をしているのかがよくわかった。 こいつにあんな馬鹿みたいなヤケクソの告白をされて、今まで味わったことのない気持ちが出てくる。 黙っている俺のことをは睨んできたが、そんな顔で睨まれても怖くもなんともない。 むしろ…なんちゅーか…可愛ええし…抱きしめたく、なる。



「その顔…反則やろ」

「なんのことや!反則的にあかん顔っちゅーことか!?」

「ちゃうわ。なんでそうなんねん」

「あーあーわかってますーあたしどーせブスやもん!!」

「せやから…」

「あーあーなぁんも聞きたない!!」

「はぁ…お前なぁ、人の話はちゃんと聞けや」

「あーあーあーひーかーるーのーあーほー!!」

「ちっ…」



こっちが下手に出とったら調子に乗りやがって…。 大きな舌打ちをして、の手首を強く引っ張り抱き寄せる。 一応、我慢はしたけどしゃあないわ。やかましいこいつが悪いんや。 そう、誰に言うわけでもなく心の中で呟いて、俺に抱き締められて混乱して黙ったから少しだけ 身体を離し、唇にそっとキスをした。



「……んっ………へ?」

「……あー」

「…え、え?あ、え?い、今…?」

「最悪や…俺がお前みたいな女に好きになるなんて…」

「い、えっ、す…!?えぇ!?」

「うっさい耳元で叫ぶな」



ぎゅっとを抱き締めて、肩に自分の顔を押し付ける。 …頬が、熱い。 本間に最悪や。 気づいたら好きやったんやな、のこと。 告白されてから気づくって、どんだけ…。 抱き締める腕に力をさらに込めれば、「ぐえ!」とカエルの潰れるような声が聞こえた。 …どんだけ。



「…お前今の最悪やわ」

「う、うっさい!あんたが強く抱き締めるんが悪い!」

「だとしても、ぐえはないわぁ…」

「や、やかましい!しゃあないやん苦しかったんやもん!このボケナス!」

「ボケナスは余計や、カエル女」

「ムッキィー!!もうなんなん!?むしろあたしがなんなん!? なんで、こんな性悪男のこと好きになってしまったんや!?」

「そんなん俺が知るか。あーあ、 俺かてなんでお前みたいな可愛げのまったくない馬鹿女のこと好きになったんやろ…」

「っ誰が馬鹿女や!」

「お前やお前」

「む、ムッカー!!やっぱあんたなんて嫌いやー!!」

「へぇ、そんなこと言うんや…せやったら俺は………のことめっちゃ好き、やで…」

「っ!?あ、あんた!!みっ耳元で囁くなんて反則なんとちゃいます…!?」

「へーそうなん?それは知らんかったわー」

「〜〜〜〜っ!!」








まさか、
こんな女に
こんな男に
恋するとは!


まったくもって、予測してなかった事態だ!!