「どしたら謙也はあたしに振り向くんやろ」

「そんなん知りません」

「なんや随分冷たいなぁー先輩が恋でウジウジ悩んどるのに光はそないなこと言 うんかー」





よく言うわ。俺かて自分の恋に手一杯っちゅうのに、あんたはそんなんも気付か んでなに言うてん。





「なぁ光ー」

「なんすか」

「謙也の好きなタイプてなんやろ」

先輩みたいな人や思いますけど」





心にもないこと言うて、先輩を喜ばす言葉を吐く。コートに居る謙也さんをずっ と見つめてる先輩の横顔は、とても綺麗で憎かった。そうやって謙也さんを想う 先輩は、俺は嫌いやった。





「ちょっそれ本間かいな」

「さぁ?ま、少なからず嫌われてはないんやから、ええんとちゃいます?」

「なんやそれビミョー」





そう言って笑う先輩は、もっと嫌いや。あの人よりも俺の方が先輩のこと想うて るのに、なんで気付いてくれへんの?なぁ先輩。あんたの心に入るにはどないし たらええの?





「あー謙也ダッサ白石に負けとるやん」

「部長に負けるんは当たり前ですわ。やって謙也さんなんやから」

「ぷっ随分失礼なこと言うなぁ!まっ確かにそうやけどね!」





謙也さんと部長の試合は見事部長が勝ちゲームセットとなった。先輩は「よし! 」と言うてベンチから立ち上がって、先輩はタオルとドリンクを持ち謙也さんの 元へ向かって行く。俺の隣が一気に寂しくなった。先輩の嬉しそうな顔が見えて 、ズキッと胸が締め付けられる。









『なぁ光』

『なんすか?』

『あ、あーあの』

『なんすか』

『うっ・・・に、睨まんでもええやろ!』

『謙也さんがうじうじもじもじしとるからやろ。キッショイっすわ。』

『おまっ先輩に向かうてなんちゅー口の聞き方しとんねん!!』

『あーはいはいそうですね』

『おっまえはァ・・・!』

『で、なんの用ですか謙也さん?』

『あっせやった・・・あんな、あ、あいつのことなんやけど・・・』

『へぇそんで?』

『・・・なんか好きな奴おるみたいなこと言うとって』

『(そらあんたのことや。)へぇ』

『どないしよう・・・、は・・・誰が好きなんやろか?』

『そんなん俺に言われても困りますわ。(あの人が好きなんはあんたや。)』

『そ、うやな・・・あー本間にどないしよ・・・』

『・・・別に先輩は謙也さんのこと嫌ってはないんやからもう少し粘ってみたら どうすか』

『・・・せやな・・・おん!せや、まだ諦めるんは早いよな!俺もうちょい頑張ってみるわ!』

『そりゃ良かった頑張って下さい』

『ありがとうな!・・・あ、俺な』

『まだなんかあるんすか?』

『光のことめっちゃ羨ましいんねん』

『は?』

『いやお前みたいに天才でクールでかっこいい言うたら女子にモテモテやろ?ち ゅうか実際お前モテモテやし』

『モテモテとか死語ですわ謙也さん』

『やかましい!人が褒めとんのになんやねんお前は!』

『はいはいそっすね』

『流すなど阿呆!!』







謙也さんは、狡い。天才でクールでかっこいいとか俺の言うたけど、そんなん何 の役にも立っとりません。そんで、俺が羨ましい言うけど、俺は謙也さんのが羨 ましいわ。俺が欲しくて欲しくてたまらんものを持っとるんやからな。どんなに 足掻いたって絶対に手に入らんものを。俺は謙也さんにはどこも劣っとらん思う とるはずなのに・・・なんでやろな。先輩の心は、謙也さんに向けられた。その 事実だけが俺の心を抉る。







遠くで先輩と謙也さんの聞きたくない楽しそうな会話を耳に入れながら、俺は目 を閉じた。















幾千の想いをあなたに込めても、あなたはそれに気付きはしない
(俺が顔を俯けて座ってると「気分悪いんか?大丈夫?」と言う先輩が現れた。 俺の顔を心配そうに覗き込む先輩は、優しすぎて残酷やわ。思わず伸ばしかけた 腕に静止をかけて、俺は一言「大丈夫っす」と呟く。)
(もう、これ以上優しくせんといて。これ以上先輩を想うのは嫌っすわ。早よ謙 也さんのとこ行けばええねん。そうは思っても口には出さん俺はなんて臆病者な んやろか。)